第83話・妹たちに指輪をあげたいお兄ちゃん
それはとある神社の一角にあるダンジョンだった。
名前は【王子ダンジョン】。
俺を異世界転生させたイザナミ様をまつる神社の分詞らしい。
元々の徳島県から持ってきたとか。
東京にあるという事情もあるが、そこそこ人がいる。
耳を澄ませて話を盗み聞きしてみると、指輪や櫛などを目当てにしているらしい。
とりあえず中に入ってみる。
(うーん。それなりに人がいるから飛び道具が使えないねぇ……)
ダンジョンの中もそれなりに人がいた。
そういう事情もあり、銃や魔法を使っている人は少ない。
銃や杖を向けたとかで口論になってたりする人たちもいる。
仕方ないので足早に奥へと進む。
三つ編みさんというか、いつもの受付担当者さんに相談したら、手続きさえしっかりすれば、ほかのダンジョンに入っても問題ないそうだ。
高校以外にある探索者協会も普段通り使用できるとか。
だから、土日などの休みの日は高校以外のダンジョンに入ると言う人もいるらしい。
2年生になれば、校外学習で探索者高校外のダンジョンに入ることもあるそうだ。
普通はそれ相応の実力がないと「正当な理由がある欠席」、いわゆる「公欠」に認められないらしい。
ただ、俺の場合は、あの受付担当者さんからの紹介で、「ドールハウス44番をソロで攻略した」という実績があったからすんなりと許可された。
あの受付さん、どうも俺を2年生と勘違いしたままなんだよね。
面倒だからそのままにしているけど。
「ん?」
2階に下りると、ガシャガシャと音を立てながら鬼の魔物が立ちふさがった。
テレビや漫画で見る足軽っぽい姿。
でも、顔は女性の嫉妬と恨みがこもった般若の面に近かった。
小柄で手足も細め。
これなら俺でも倒せそう。
何も言わずに脇差しを抜く。
すると、相手も持ってた素槍を構えた。
2メートルぐらいの短めのもの。
ダンジョン内での戦闘を考慮した長さなのだろう。
脇差しを中段に構える。
『グオォォォ――』
そんな唸り声を放ちながら鬼がこちらへと突っ込んできた。
――
鬼たちを切り捨てて進みながらボス部屋へと到着。
途中で脇差しが折れて駄目になってしまったものの、倒した鬼から拝借した槍や刀で戦った。
慣れていない武器だったので少し苦戦したが、意外と普通に進めたんだよね。
そして――
『ミゴト――』
ボスである【王子将軍】がそんな言葉を残して倒れた。
2メートルぐらいありそうな大柄でムキムキの体に甲冑を付けた侍って感じの魔物。
(拳銃しゃんチート過ぎない?)
銃弾を撃ち尽くしてホールドオープンとなった拳銃を見る。
軍人がやる射撃訓練のように、撃ちながら前に進んだら、なんかこれで普通に倒せてしまった。
特殊な弾丸を使ったというわけではない。
通常の9×19mmパラベラム弾だ。
15発全弾撃ったが、何発かは普通に外してしまったし、刀で弾かれてしまったものもあった。
でも、その多くが王子将軍の体に当たってたし、鎧に風穴も開けてた。
(ま、まあいいや……)
拳銃を少し冷ました後に、予備のマガジンに交換する。
残り15発だけど、【ポータル】があるので帰りの心配しなくていい。
これなら周回してみるのも手かも。
あとはお楽しみの戦利品の回収。
聞いた話だと、宝箱もあるみたいだからね。
何が出るか楽しみだ。
――
「それで、将軍?の魔石を含めて全部没収されちゃったの? お兄ちゃん」
「うん」
高校の探索者協会の方が近かったから、戦利品を持って高校の探索者協会に戻った。
そしたら、完全武装した探索者協会の職員さんたちに囲まれて別室に連行。
そして、職員さんたちから「危険物の可能性があるので鑑定に回す」と、ダンジョン内で得たものを根こそぎ没収されてしまったのだ。
おかげで、別室に連行される俺の姿を見た人たちからは「何かやったんじゃない?」と噂されてしまったし。
「兄さん。嘘は良くないですよ? 本当はドロップしなかったのでしょう?」
「いや、だから本当に出たんだって。頑張って4周して4つ出したんだよ? だからみんなにあげようと思って持って帰ってきたのに……」
最後は弾薬が切れたから倒した鬼から拝借した槍と刀で戦い、槍と防弾ベストを犠牲になんとか倒せた。
指輪は固定報酬だったので助かったけど。
宝箱からは、指揮棒みたいな短い杖に、「天下泰平」と書かれた軍配、ヒスイ製勾玉がついたネックレス、リュックサック型のマジックバッグがそれぞれ1つずつ出てきたけど。
その日のうちに、そのすべてを没収というのは酷いと思う。
おかげでその日の収入もなくなってしまったし。
「お兄ちゃん。しれっとくるみちゃんとこむぎちゃんにも指輪あげようとしてない? それ、プロポーズしているのと対して変わりないからね?」
「え? そう?」
考えてみれば、確かにプロポーズかもしれない。
いや、でも単にあげるだけだし。
「兄さん。そんなおもちゃをあげるようなノリで指輪をあげないでください。本当にほかの人にはあげてないんですよね?」
「うん。ミウと永遠と、くるみとこむぎだけ」
親指から順番に指を折りながら名前を挙げる。
「ほらぁ-、くるみちゃんとこむぎちゃんも混ざってるぅー」
「プロポーズするわけじゃないからへーきへーき」
「兄さん。指輪をあげてプロポーズしないのはどうかと……」
「そうだよ。くるみちゃんとこむぎちゃんなら絶対にOKするよ? むしろ、そこでプロポーズしないお兄ちゃんはお兄ちゃんらしくないよ?」
「そ、そうかな?」
まあ、今さらなので別にくるみとこむぎが増えても問題ないと思うけど。
他人だったらアレだけど、なんたって“妹”だし。
「でも、くるみとこむぎが加わるとしたら今の家では手狭になりますね。どこかにいい物件はないんですか? 兄さん」
「実はすでにいくつか目星が。郊外にある戸建てで駐車場が広いところを考えてたんだけど、それじゃ駄目?」
「お兄ちゃん。そこまで考えてたの?」
「うん。言ってなかったけど、くるみとこむぎの分の料理をするときにね。うちのキッチンだと狭いから、業務用の厨房が欲しいなと。あと、くるみもこむぎも今は同じ部屋に泊めてるから、個室にしてあげたいなーと……」
ベッドが良いそうなので今はダブルベッドの部屋を貸しているが、本当だったら個室にしてあげたい。
俺がリビングで寝泊まりすれば、くるみとこむぎに個室を与えられるんだけどね。
前にくるみとこむぎが俺の部屋を訪れた際に、その話をしたが、2人に反対されたので、和室の客間に簡易ベッドや机を置いての生活を続けている。
「あー。確かに……」
「とりあえず、どんな家がいいかまとめとく?」
「そうですね。それなら私は書斎が欲しいです。魔導書用の――」
それからあーでもないこーでもないと要望を出し合ったりして、欲しい家の間取りを決めるのだった。




