第82話・婚約指輪
(指輪か……)
ポストに「金銀プラチナ高額買い取り」という見出しのチラシが入っていた。
ネックレスや指輪だけではなく、記念硬貨の買い取りもしているらしい。
ミウと永遠とは一線を越えた。
避妊魔法のおかげもあり、定期的に体を重ねられるので俺も満足している。
結婚の約束もしたから、婚約もしていると言えるだろう。
けど、婚約指輪は送っていなかった。
あくまでも口約束だ。
未成年同士というのもあるから、軽んじられることもあるかもしれないが、永遠は俺のことを婚約者と言っているみたいだし、俺も婚約者と言い返しているから、特に問題ないだろう。
婚約者である以上、それに相応しい振る舞いを心掛けている。
まあ、「恋人がいるの?」とか「婚約者がいる?」とは聞かれたことがないけど。
(やっぱり形になるものがあった方がいいよね?)
数日前になるが、ドールハウスの件で1日で20万円稼ぐという最高記録も更新したし。
手数料などを差し引いた金額でそれだ。
だから余裕はある。
(よし。指輪買おう――)
それからミウと永遠を呼んで緊急の家族会議を開く。
――
「お兄ちゃん。本当に大丈夫なの?」
「うん。臨時収入があったからね」
「兄さん。だからと言って入ったらすぐに使うのはどうかと思います」
「でも、やっぱり婚約指輪は必要じゃない?」
ミウと永遠を見るも、どちらもまんざらでもないような表情を浮かべていた。
「それでお兄ちゃん。予算は?」
「ごめん、それはまだ決めてない。気に入ったものがあったらという形で……」
「兄さん。本当にそれ払えるんですか? 気に入ったものがあったら本気で買いますよ?」
「それはその。そもそもどういうものが好きかわからないし、どうせ買うなら気に入ったものがいいじゃん?」
「お兄ちゃん。そこで“どうせ”はないよ?」
「はい。減点ですね……」
ミウと永遠がじとーっという目で見てきた。
あ、やっちった。
「あ、ごめん。せっかくなら気に入ったものの方がいいじゃん?」
「いまさら言い直しても遅いよ」
「そうですね」
嫌われたかもしれない。
不思議と全身から血の気が引いていく。
奥歯がガタガタと震え出す。
「ご、ごめん。俺――お兄ちゃんが悪かったから。ごめん。本当に。だから嫌いにはならない――」
「お、お兄ちゃん。大丈夫、大丈夫だから――」
「すみません。兄さん。ついからかってしまいました」
「そ、そう?」
改めてミウと永遠の顔色をうかがうもそこまで機嫌を損ねた様子はなかった。
「もー。お兄ちゃん。急に顔が真っ青になったからびっくりしたよ。なんかアニメで見るように目のハイライトが消えたから――」
「え? そう?」
「はい。普通に精神を病んでそうな感じがしましたよ? その、突発的に自殺してもおかしくないように見えました」
「え、マジで?」
自分ではまったくわからなかったんだけど。
そこまで病んでる気はないと思う。
「う、うん。と、とりあえず、指輪の話に話を戻すよ? いい?」
「そ、そうだね。まずは婚約指輪。それで結婚するときに結婚指輪だね?」
確認する。
今は年齢的な問題で結婚できないけど、ゆくゆくはね?
だから結婚指輪も送るつもりだ。
「兄さん。そんなにお金使って大丈夫ですか? いくらダンジョンで稼いでいるからってそこまで一気には……」
「そう? 結婚指輪は結婚するときだからまだ時間あると思うけど……」
ミウが結婚できる年齢になるまでだからあと4年ぐらいある。
「それでもですよ。まあいいでしょう。それよりも婚約指輪です」
「だよね。どんなのがいいかな?」
それから、ミウと永遠と一緒にパソコンで婚約指輪や結婚指輪を調べることになった。
パソコンで調べた後は、翌日の放課後に実店舗に行って下見とかしてみた。
ただ、そこで問題があったというか。
店員さんの対応がちょっと不満だった。
俺たちとしては本気で相談してたんだけど、対応した店員さんの「冷やかしだろうな」という雰囲気が伝わってきたので、買う気が失せちゃったんだよね。
結局、軽く見て回るだけとなった。
興味のあるものは何点かあったみたいだけど、2人ともその値段を見て首を横に振ってた。
それでも買おうと思えば買えたんだけどね。
まあ、ミウと永遠の指のサイズがわかっただけでも収穫としよう。
――
「兄さん、ミウ。少しいいですか?」
ミウを抱っこしながらまったりしていると、永遠が声をかけてきた。
「どうかした?」
「はい」
永遠が俺の隣に腰を下ろす。
すかさず彼女の腰に右手を回して密着するように距離を詰めさせる。
「お兄ちゃん。本当に抜け目ないね……」
「そうか? それよりもどうした永遠?」
「はい。今気づいたのですが、兄さんは探索者ですよね? 探索者でしたらダンジョンで指輪を探すというのはどうしょうか?」
「あっ――」
そうか。
その手があったか。
なんで気付かなかったんだろう?
普通にお店で探していた。
「でも、永遠お姉ちゃん。指輪が出るダンジョンなんてあるの?」
「はい。ありますよ。このほかにも、櫛やかんざしがドロップするところもあります。櫛に関しては語呂が悪いとも言われますが、江戸時代にはプロポーズの際に使われていたと聞きますし、今でも由緒ある家柄の人たちはプロポーズの際に送ってますね。特に魔法効果が付与されたものが好まれるそうです」
「へー。じゃあ、サイズ調整とかはどうするの?」
ミウが永遠に聞き返す。
「ダンジョンでドロップした指輪やアクセサリーのサイズ調整を行う専門の職人がいます。ここからだと少し遠いですが、評判の良い専門店がありますよ」
「なるほど。さすが永遠だな。物知りだ。指輪以外に櫛とかかんざしとかいる?」
「いりません。使わないので。私は指輪だけで十分です」
「ミウも指輪でいいかな? お兄ちゃんに買ってもらったヘアブラシとネックレスもあるし」
「そうか。わかった」
永遠から色々と話を聞く。
数は少ないそうだが、東京にも指輪などのアクセサリーがドロップするダンジョンがあるらしい。
あとは高校の探索者協会に相談だな。
もしかしたら、公欠にしてもらえるかもしれない。




