第76話・魔女学園
「あ、兄さん。少しいいですか?」
勉強のため、永遠の部屋に入ると彼女が声をかけてきた。
「どうした?」
「今度学校で中間試験があるのですが、それに来てほしいのです」
「ん? 学校の試験でか?」
「はい。私は契約魔法が苦手で、使い魔の用意が難しくて……」
「なるほど?」
ちょっとよくわからなかったので、詳しく聞いてみた。
使い魔に関しては必須ではないそうだが、「使い魔」という形であれば部外者がかかわってもいいらしい。
現役の魔女は駄目みたいだけど、探索者や普通の魔法使いなどならそれでいいそう。
富裕層の人はお金で雇うこともあるそうだ。
「うーん。本当に大丈夫なのそれ?」
「はい。魔女の試験というのはそこらの一般人が協力したからと言って有利になるものではないので。心配でしたら明日電話して聞いてみたらいいと思います」
「わかった。それとミウの迎えに影響はあるか? 必要ならミウに話を通すけど……」
「確かにそうですね。念のために話しておきましょうか……」
それからミウを交えて相談となったが、彼女としては特に問題ないようだった。
念のため、拳銃も用意しておくか。
許可申請は下りてたのであとは買うだけだし。
自衛隊で使っているものと同じやつでも買おうかな?
買ったら射撃場で訓練しないといけないし、整備の方法も覚えないとだ。
やることが多いがこれも永遠のためだ。
仕方ない。
あ、探索者高校にも連絡して相談しないと。
――
「へー。ここが永遠の通っている学校なんだね?」
数日後、永遠と共に日本魔女育成学園、通称魔女学園の中等部にやってきた。
第一印象としては、普通の公立中学校とあんまり変わりない気がする。
通常の体育館以外に、魔法演習場とダンジョン、植物園などがあるので、広さは倍ぐらいあるらしいけど。
広すぎて実感があまりない。
男も男でレベルが高いような気がするが、それよりも女だ女。
永遠にはちょっと劣るけど、美人な子もいるし、人見知りの激しそうなおどおどした感じの子もいる。
オタク系とか、ダウナー系とかも好きなんだよねぇ。
ミウやくるみは、ラノベは読むけどそこまでオタクじゃないし、魔法オタクという意味では永遠だけど。
そういうタイプが妹にいないというのもある。
「兄さん。あまりキョロキョロしないでください。あと、しれっと女性を物色しないでください」
「シ、シテナイヨー」
ちょっと目移りしただけじゃん?
それから永遠と並んで受付に行くと、俺と同じように武装した探索者っぽい人たちもいた。
中には永遠を目で追っている人もいる。
でも、駄目。
永遠は俺の。
俺のかわいい妹だ。
いや、美人な妹か?
まあどっちでもいいや。
どっしりと構えておく。
「はわ。そ、空野さん? ど、どうかなされたのでしょうか?」
俺たちの番になると、永遠を見た女の子がそんな声を出した。
ウィッチハットに永遠と同じようなワンピース姿だが、ネームプレートを首から下げているのでここの教師だろう。
教師だよね?
臨時で受付をしている中学生とかじゃないよね?
「はい。事前に話してましたが兄さんを“使い魔”として登録を――」
永遠がそういうと周囲が静まり返った。
それまで彼女に集まってた視線が俺に移った気がする。
でも、すぐに興味を失ったのか。
永遠へと視線が戻った。
うん、わかるよ。
地味な俺よりも美人な永遠の方が興味を引かれるからね。
「あ、はい。えと、あなたのお名前をお伺いしても?」
「篠忍です」
教師(仮)さんから視線を向けられたのでフルネームを答えておく。
「あっ、この前連絡してきた人ですね? 話は聞いてます。すみませんが探索者高校の学生証と探索者証明書はありますか?」
「ええ。こちらに」
高校の学生証と共に、運転免許証にそっくりな探索者証明書を渡して手続きをする。
アニメやラノベとかだと、探索者の実力を示すランクが一緒に記載されていることが多いが、この世界のものはそうではない。
ネットで見た話では、特級や1級などのランクがあるみたいだけど。
それらはあくまでも探索者協会の内部評価。
だから、一般公表されることがないそうで、探索者協会の現役職員以外がそのことを知ることはできないらしい。
「……手続きは終了しました。ええと、篠さん? 銃を使用するそうですが、くれぐれも誤射には気を付けてくださいね? 銃を使う方には特にそういう“事故”が多いので」
「はい。フレンドリーファイアには気を付けます」
ゲームとは違って、現実ではその機能をオフにすることはできない。
だから、探索者の間ではその手の事故が多いのだ。
この世界では、ダンジョンの中でも普通に銃が使えるけど、そういう事情から銃を装備する人はあまり快く思われない。
発砲音や弾薬を自費で用意しないといけないという細々とした問題もある。
「お願いしますよ?」
「はい。わかってます」
念を押されるように言われたので目を合わせてしっかりと答えておく。
銃を持つ以上、銃を撃つ覚悟も銃で撃たれる覚悟もできている。
そんなものは前世で済ませた。
問題ない。
「で、では、案内に従って3番と書かれた教室に進んでください。そこで試験に関する注意事項の説明や所持品のチェックをします。あと、空野さんはここまでですので、教室の方に向かってください」
「はい。わかりました」
それから永遠と別れて指定された教室へと向かった。
――
「それで兄さん。大丈夫でしたか?」
「ああ」
案内された教室で永遠と合流すると、また注目を集めた。
それとなく周囲をうかがうも、ギャルっぽい人たちがひそひそと話しながらこっちを見ていた。
不快だ。
敵意というほどではないが、どこか小馬鹿にしているような雰囲気。
少し気を付けた方がいいだろう。
さっきの教師には悪いが、うっかり“誤射”してしまいそうだ。
それとなくベルトに手をかけるふりをして、いつでも拳銃を抜けるようにはしておく。
「兄さん。いつものことなので気にしないでください」
「そうか? いじめか?」
「いえ、それほどのものではありませんよ。彼女らから見ると私が調子に乗っているようです。ただのつまらない嫉妬ですよ」
永遠の言葉が聞こえたのかギャルっぽい人たちの顔が不快そうに眉間にしわを寄せていた。
「そうか。ならいい」
ならば、俺が手を出すことはないだろう。
あちらが手を出さなければ、の話だがな。
不意に魔力を感じた。
振り返りつつ銃に手をかけて、目で制しておく。
端にいる、耳にピアスを着けてこんがりと肌を焼いた茶髪のギャル。
早撃ちの練習はしてあるぞ?
お前の魔法と俺の弾丸のどっちが早いか勝負してみるか?
「兄さん。それ以上は駄目ですよ。試験前です。温存してください」
「ちっ。わかった――」
ならばせめて警戒を怠らないようにしよう。




