第75話・こむぎとくるみ
「すべてお兄に任せたい……」
こむぎの寝癖をブラシでとかしていると突然そんなことを言い出した。
早いもので今日は日曜日だ。
昨日はみんなでトランプやボードゲームをして遊んだり、お喋りしたり、くるみをお風呂に入れたりしたけど。
「だ、駄目ですよ、こむぎ。お兄様だって忙しいのですよ?」
近くにいたくるみがこむぎに声をかける。
「先にお兄に髪をとかしてもらったのにそれ言う?」
「うっ、それはその……」
くるみが地味にダメージを受けていた。
こむぎにも声をかけたが中々起きなかったから、先にくるみの髪をブラッシングしてた。
ちょうどブラッシングを終えたあたりでこむぎが起きたので、彼女へとバトンタッチしたのだけど。
(こんなもんでいいかな?)
跳ねている毛が無くなったと思う。
くせ毛なので、セットしたようなウェーブヘアっぽくなるけど。
「よし、完成。今日もかわいくなったよ、こむぎ?」
ブラッシングを終えたので彼女に声をかける。
「お兄。天然過ぎない?」
「え?」
「はい。お兄様はだいぶやばいですね」
「え?」
交互にこむぎとくるみを見る。
俺、なんか言った?
確かにかわいいとは言ったけど、それはくるみにも言ったのでこむぎにだけ言わないというわけにはいかないし。
何よりもかわいいからね。
「と、とりあえず朝食だからな? キッチンに行くぞ」
「はい。わかりました」
「お兄抱っこ」
「わかった。くるみはちょっと待っててね?」
「え? あ、はい」
ブラシを置いてからこむぎの足元にすっと腕を差し入れて、もう片方を背中に回す。
そして、一気に持ち上げてリビングに向かった。
リビングの椅子にこむぎを座らせてから、足早に彼女たちの部屋へと戻り、ちょっと緊張してた面持ちのくるみを回収。
抱っこする際にちょっと胸に触れてしまったけどこれは不可抗力。
こむぎの隣に座らせた。
あとは朝食だね。
「今日はヨーグルトを混ぜたミューズリーを一晩寝かせたものだけど、それでいい? あとは上から素焼きのナッツをかけるって感じだけど……」
「はい。構いませんよ。兄さん」
携帯の画面をスワイプさせながら永遠が言葉を返してくる。
「ミウ。お皿を並べててくれてありがとね? 助かるよ?」
一晩寝かせたミューズリーを入れた皿と素焼きのナッツを載った小皿が人数分、机に並んでたからミウに声をかけた。
「う、うん」
ちょっと恥ずかしかったのか、ミウが顔を赤くしてた。
不意にくるみと目が合う。
「どうした?」
「い、いえ。なんでもありませんお兄様」
顔を赤くしながら視線を逸らすくるみ。
なんだろう?
「兄さん。全員そろったのなら早く食べましょう?」
永遠がそう言いながら机の上にスマホを置いたので、みんなで朝食となった。
――
「ごめんねー。くるみにも手伝ってもらって……」
「い、いえ。これくらいはやります」
俺の部屋でくるみと一緒に洗濯物を畳む。
一応、くるみが畳んでいるのは彼女自身のものとこむぎのものだ。
俺はタオルの方を畳んでいく。
「でも。お兄様。こむぎは何もしないのですが良いのですか?」
「ん? ああ、俺は別に構わないけどどうした?」
「いえ。お母さんだったら怒るので……」
「え、そうなの?」
「はい。“自分のものは自分でするように”と言われているのですが、こむぎはあの通りマイペースなので……」
「ああ、なるほど。俺は特に気にならないというか、誰にも得手不得手はあるからな。基本的には俺――お兄ちゃんがするから大丈夫だよ?」
「そ、そうですか……」
それからくるみと話しながら洗濯物を片付けた。
「くるみ。洗濯物のお手伝いしてくれてありがとね?」
畳み終えた洗濯物を各部屋に持って行った後、手伝ってくれたくるみを軽くハグする。
胸が大きいのでその感触が伝わってきてしまうがこれはこれで仕方ない。
うん。
嫌いな人なら嫌だけど、好きな子からそれを押し当てられるのは嫌いじゃないよ?
そもそもおっぱいは小さくても大きくても好きだし。
「い、いえ。自分たちのものだけですし……」
「それでも助かったからね。ありがと」
「お兄。こむぎにはそれしてくれないの?」
「手伝ってくれたら、こむぎにもするよ? まあ、希望があるなら今からでもするけど……」
「するぅ」
「うおっ――」
びっくりした。
いつの間にかミウが背後に立ってた。
すかさずミウを抱きしめる。
「驚かせるなよミウ」
「だってお兄ちゃん、くるみちゃんの頭撫でて鼻の下伸ばしてるんだもんっ」
「そうか? じゃあ、これでね?」
ミウの頭に軽くキスしておく。
ヤキモチというやつだろう。
「う、うん」
顔を赤くしてミウがうなずく。
嗚呼、やっぱりかわいい妹っていいなぁ。
――
「お兄。お別れするのが辛い」
「ふふ、俺もだよ」
「お兄様」
こむぎとくるみが抱き着いてきた。
「え、えと……」
久美子さんが気まずそうに視線をそらす。
まだ明るいとはいえ、2人だけで帰らせるのはさすがに心配だったから、彼女たちを家にまで送った。
最初は玄関に入る気はなかったんだけど、俺たちに気づいたのか久美子さんが外に出てきたんだよね。
だから、あいさつのために近寄ったらなんか玄関の中でこうなった。
「あと、久美子さん。これお弁当なんですけどよろしかったらどうぞ。夕食分として3人分入ってますので……」
「え? あっ。す、すみません」
久美子さんにお弁当が入った袋を差し出すとぺこぺこと頭を下げてた。
腰の低い人だ。
父親との不倫はやっぱりお酒の影響と気の迷いが重なった結果なのだろう。
「どのおかずが好きかわからなかったので、骨抜きの塩サバを焼いたものにしました。ただ、消費期限は本日までですので、そこはご了承ください。容器の方は使い捨てのものなので、そのまま処分していただいて構いませんので……」
今回お弁当はキャラ弁ではない。
スーパーとかで売っているお弁当と同じように仕上げたものだ。
飲み物はないけどね。
「す、すみません。何から何まで……」
「いえ。お仕事もお忙しそうですので……」
「ええ。急に退職した人が出てしまって最近ちょっと忙しくて。くるみとこむぎの面倒を見てもらって本当に助かっています。それなのにお弁当まで用意してもらって……」
今もちょっと疲れているようには見える。
でも、初めて会ったときよりは顔色が良くなっているような気もする。
お化粧の可能性もあるけど。
これなら大丈夫かな?
仕事が落ち着けば、自然と回復するはずだ。
「いえ。少し気になったものですから。それに、自分もかわいい妹たちと一緒に過ごせたので満足ですし」
「お兄――」
「お兄様――」
「では。そろそろ」
「は、はい。すみません本当に――」
久美子さんたちに見送られてくるみとこむぎの家を後にするのだった。




