第72話・ポニテ先輩再び
「ハーピーしゃん……」
胸に棒手裏剣が刺さって死んだハーピーを見下ろす。
飛び道具には弱かった。
糞雑魚だ。
この前の苦戦は何だったんだろうと言わんばかり。
装備を整え、11階層に再挑戦してみたら格段に楽になった。
これならもっと早く装備を更新しておけばよかったぜ。
実はお金はあったけど、生活費のことを考えるとちょっと踏ん切りがつかなかったんだよね。
「縛りプレイ」と言うわけではないが、練習として棒手裏剣のみで戦ってみる。
偶に外して明後日の方向に行ったり、狙ったところではないところに当たったり、投げないで突き刺したりもしたが。
やっぱり飛び道具あると楽だね。
回収が大変だけど。
そして、12階層へと進み。
今度は脇差しを抜いて戦ってみる。
「グォッ――」
「ああ。楽――」
オークの胸を脇差しで突き、すぐにバックステップで離脱。
ゴブリンアーチャーが放った矢を脇差しで払う。
【身体強化魔法】があるからこそなせる業。
まあ、この世界の住民には魔法を使わずにそれをすることができると言う人がいるみたいだけど。
これなら銃弾とかも弾けそう。
「はぁぁぁ――」
「ゴ、ゴブッ――」
顔を引きつらせたゴブリンアーチャーたちの集団に突っ込んで、流れるように次々と切り伏せていく。
バターというほどではないが、スパスパ切れるのだ。
返り血が体にかかる。
ああ、いいねぇ。
(ラストッ――)
「ゴ――」
最後の1体となったゴブリンアーチャーの首を切り落とす。
でも、まだ心臓がバクバクする。
次の。
次の獲物はどいつだ?
「ゴブ、ゴブッ――」
駆け足でやってきたゴブリンソルジャーが俺を何度も指差す。
なんだ?
通路の奥からずしんずしんっという大きな足音を響かせながら、オークよりも一回り大きな魔物が歩いてきた。
これはトロールというやつか?
魔物を見上げるも、ネットで見たことがある。
ブクブクと太った醜い男のような姿の魔物。
手には大きな棍棒。
すかさず腰のベルトから棒手裏剣を抜く。
残り3本。
「グオォォォ――」
トロールが咆哮するも、あいさつ代わりに棒手裏剣をぶん投げた。
――
『時間です。時間です――』
携帯電話のアラームが鳴った。
(ちっ。ここまでか……)
トロールとの戦いで行方不明になった棒手裏剣を探してたら時間が来た。
お、見っけ。
やっぱり壁際に落ちてた。
壁に当たった音はしてたから、ここら辺だと思ったんだよね。
拾って刃先を見るが、つぶれていたり、大きく欠けているなんてことはなかった。
まだ使えそう。
使い捨てにしても惜しくないものなのだが、再利用できるのなら再利用するべきだろう。
棒手裏剣を腰のベルトに戻してから進んでいた道を戻る。
「ん? 貴様は?」
通路を曲がったら青い髪をポニテにした先輩――ポニテ先輩がいた。
「あ、先輩じゃないですか? お久しぶりです」
軽く敬礼する。
刀に手をかけていたが、俺に気づいてすぐに手を離した。
ポニテ先輩のほかにも、ウイッチハットをかぶった魔法使いさんと声がかわいいピンク髪のポーターさんもいる。
ちなみに、魔法使いさんはモンスターハウスで一緒に戦った際に魔法で氷のつぶてをばら撒いていた人だ。
この人たちパーティーだったんだ。
「え、えと。その、大丈夫ですか?」
「へ?」
「ぜ、全身血まみれですけど……」
「返り血なんで大丈夫です!」
魔法使いさんに指摘されたから親指を立てながら笑顔で返しておく。
そしたら、隣にいるポーターさんと一緒に、引きつった表情を浮かべてた。
「ふむ。装備を新調したようだな?」
「はい。おかげさまで」
「だが、返り血を浴び過ぎだ。もう少し意識して戦うようにしろ。戦い方が雑だ。魔物の中には血に毒を持つものもいる」
「あ、はい。ありがとございます」
なるほど、それは気づかなかった。
ポニテ先輩にお礼を言いつつも、頭を下げる。
そもそもポニテ先輩は魔物の群れの中に突っ込んで戦っても返り血の一滴すら浴びない人だからね。
俺なんかとはレベルが違う。
「あ、あのぉ。それであなたはこれからどうするんですか?」
恐る恐ると言った様子でポーターさんが声をかけてきた。
「あ、はい。いい時間だったので、これから帰還しようと思いまして」
「そうか。確かに引き際も大切だな。気を付けて帰れよ。登山家と同じように帰路の途中で命を落とす探索者も多い。そうなったらせっかくの戦利品も水の泡と化してしまうからな」
「はい。ありがとうございます」
ポニテ先輩の忠告に改めて感謝しつつ、クリーンの魔法を発動して粉末状にした汚れを落とす。
血液だったから、某アニメのように蒸発させるイメージでやってみたら、意外とうまくできた。
「へぁ?」
ポーターさんがかわいらしい声を漏らす。
「ふむ。それはクリーンか?」
今度は感心したようにポニテ先輩が声をかけてきた。
「はい。覚えましたので」
「蒸発させるように落とすなんて初めて見ました。クリーンの魔法、得意なんですか?」
今度は魔法使いさんから声をかけられた。
なんかちょっと目がキラキラしている気がする。
「うーん。どうでしょうか? クリーンは日常的に使うので、たぶんそれで上達したんだと思います。今は色々な魔法を習得するために頑張ってます」
最初に発動したときよりも魔力が抜ける感じもしなくなった。
だから、それなりに上達したんだと思う。
「なるほど、頑張ってくださいね? あなたなら、きっと優秀な魔法使いになれると思います」
「はい。ありがとうございます」
魔法使いの先輩から声をかけられた。
たぶんお世辞だと思うけど、素直に受け取っておく。
「では、気を付けて帰れよ。私たちはこのまま進む」
「あ、はい。すみません、お引き留めしてしまい。では、失礼します」
軽く敬礼してからポニテ先輩たちと別れて探索者協会へと戻った。
――
「本日の査定は手数料を引いてぴったり10万円となります。申し訳ないのですが、探索者協会の規定により現金でのお渡しはできませんので、振り込みにさせていただきますね?」
「あ、はい」
受付担当者さんがそう言ってパソコンのキーボードをカタカタっと叩く。
トロールの魔石は受付担当者が思わず二度見するほどで、話を聞いたら一定の確率でしか出てこないレア個体らしく、思ったよりも高かった。
棍棒はあまりにも重くて持てず、その場に放置してきたけど。
今日も現金で持って帰る気満々だったから、残念だ。
まあ、規定の金額を上回ってしまったのだから仕方ないか。
10万円以下なら現金で持って帰れたのに。
でも、1日で10万も稼げれば上出来かな?
それなら今日は奮発してミウと永遠にケーキでも買って帰ろう。
装備の更新で色々とお世話になったから、永遠には2つにしよう。




