第70話・石けん
「お兄ちゃんから石けんの匂いがするよ?」
ミウと合流して腕を組むとミウからそんなことを言われた。
「そう?」
服のにおいなどを嗅いでみるもそんなにおいは感じない。
一応、服は新しいものに着替えてあるので、汗の匂いとかはしないと思うけど。
「なんかお風呂上りって感じ。もしかしてシャワーでも浴びた?」
「ああ。今日はダンジョンで砂だらけになっちゃったからね」
「砂だらけって、砂のあるところにでも行ったの?」
「いや。ハーピーという鳥人間のような魔物が風魔法を使ってきてな。それで床の砂が巻き上げられて全身砂まみれになった」
汚れを落とす【クリーン】という魔法は覚えている。
シャワーよりも魔法の方が汚れとしては落ちるんだけど、魔法を使うとその疲労感がすごいんだよね。
人によってはまったく使えない人もいるそうだ。
たぶん、そういう事情から、魔法があるこの世界で科学技術が発展したんだと思うけど。
「あー、なるほど。でも、大丈夫だった?」
「ああ。魔物自体は思ったよりも弱かったから“特に問題はなかった”かな?」
普通に死にかけたけど。
心配されそうなので言わない。
最終的に俺が投げた剣が刺さって死んだから、身体能力はそれほど高くないように思えたのだ。
たぶん、ゴブリンマジシャンのように魔法特化型なのだろう。
バフとデバフは予想外であったが、バフは相手の動きが速くなったように見えて、デバフは俺の体が重くなったように感じる程度だった。
前に一緒に戦った旗持ちの先輩が使ったバフデバフと比べたら雲泥の差だ。
あれはすごかったなぁ。
「そっか。それなら安心だね。偶に石けんの匂いがするときがあったんだけど、そのときはシャワーを浴びたときなんだね?」
「ああ。運動とかで汗まみれになったりダンジョンに入った後とかは必ずシャワーを浴びてるよ? 座学しかない日とかは浴びてないけど、気になった?」
「あー、うん。石けんの匂いがするときと、しないときがあるからさ。なんでだろう?と思って……」
「さすがに小汚い恰好とか、汗臭い状態でミウを迎えに行くことはできないだろ? こうしてミウと腕も組むこともあるからね。シャワーを浴びるついでに服も交換するし」
今はクリーンの魔法を覚えたのでそれを使うときもあるけど。
その場合でも服は交換している。
衛生的な問題というよりも「気持ちを切り替える」という心理的な問題でだけどね。
「ふ、ふーん。ごめんね気を遣わせちゃって」
「それぐらいへーきへーき。それにミウに嫌われるのは俺も嫌だし」
「そ、そうぉ? お兄ちゃんちょっとチョロすぎない? そのうち悪い女の子に騙されそうだよ?」
「そうかな?」
ちらっとミウを見るとなんか耳が赤くなってた。
当たり前だと思うことを言っただけなんだけど、どことなくミウが嬉しそうにしているから問題ないだろう。
――
「ふむ。装備ですか……」
永遠に魔法を教わりながら相談してみた。
もちろん、「危うく死にかけた」とは言わずに「苦戦している」と言ったけど。
「しかし、学校からの支給品でよく戦えますね。私でしたら無理ですよ。性能が低すぎて使いものになりません」
「そうなの? そこそこ戦えるから学校から借りて使ってたんだけど……」
「私のは魔法を使うための杖ですので、剣とかと違ってデリケートなんですよ」
「へー、そうなんだ。じゃあ、この際だから思い切って装備を買い揃えようかな?」
受付担当者さんにも言われているし。
鞄を買い替えるよりも先に、剣を買った方が良かったのかもしれない。
「わかりました。では、良い武器屋を紹介しましょう。今使っている私の魔法杖もそこで調達したものですので」
「わかった。恩に着る」
それから調整して放課後に向かうことを決めた。
ミウを迎えに行ってからなので、ちょっと遅くはなるけど。
「それと兄さん? 私の服を入れてたクローゼットとタンスなのですが、そこに石けんと防虫剤を入れましたか? 気づいたら入っていたので……」
「ああ。石けんは簡易的な芳香剤と防虫剤の代わりとしてね」
前世からの愛用している乳脂が配合されている白い石けん。
それを大きめのお茶パックに入れて置いておいた。
防虫剤だけでもいいらしいが、その補助的に置いている。
「やっぱりそうでしたか。タオルのところにも入れてましたよね?」
「まあね。もしかしてにおいとか嫌だった?」
「いえ、大丈夫です」
これは前世の母親に教えられたものだ。
結果的に俺が夢に破れる原因にもなったから母親のことはあまり好きではなかったが、こういうところでちょくちょく助けられてはいる。
「それと私の下着なのですが、もしかして手洗いしてますか?」
「ん? そうだけど。あ、もしかして嫌だった? 一応、ミウのとは分けて個別に洗ってるけど」
最初はミウも恥ずかしがってたけど、今では普通に任せてくれる。
ミウが小柄というのもあるが、意外と洗濯って重労働になるんだよね。
農業ならわかると思うが、調理の仕事も見た目以上に重労働だし。
「いえ。父なら絶対に嫌ですけど兄さんなら構いませんよ。ただ、面倒なときは洗濯機か魔法でも構わないので……」
「わかった」
言われなくても、忙しいときは洗濯ネットに入れて洗濯機で洗ってた。
まあ、何よりも合法的に下着を見れて触れられるから、可能な限り手洗いにしている。
特に永遠のはガーターベルトもあるから、洗うのにちょっと手間がかかるけど。
口が裂けても言えないが、この前はくるみやこむぎのも使っちゃった。
もちろん、永遠のもね。
洗うついでなら法的な問題もないみたいだし、つい手が出ちゃったんだよね。
無職で転生した人ほどじゃないから大丈夫だと思う。
「兄さん。何かいかがわしいこと考えてませんか?」
「ソ、ソンナコトナイヨ」
「怪しいですね。まあいいでしょう。“使っても”構いませんが、ちゃんときれいにして返してくださいね? もちろん、妹たちのものもですよ? 妹たちには私の方から話しておきます」
「アッ、ハイ――」
ばれてた。
ちなみに、永遠は黒系の下着が多いんだよね。
普通の下着もあるが、スリットのあるワンピースに合わせているみたいなのでTバックも多い。
「……さすがに母親のものとかは使ってませんよね?」
「いや、それは無理。だから、死んだ両親のは全部廃棄した」
使えそうな服はリサイクルショップに持って行ったけどね。
下着類は家にあった紙袋に入れて燃えるゴミとして処分した。
「そ、そうですか。でも、妹のは別と?」
「うん。だって“妹”だし?」
カテゴリーが違うもん。
母親のは生理的に見るのも嫌だったけど、妹のならウェルカムなんだよね。
あとは妹たちを襲わないようにするための処理でもあるけど。
「はぁ、まったく。兄さんは変態なんですから。妹たちの身が心配です」
どこか呆れるように言う永遠であったが、どこかまんざらでもない顔をしてた。




