第63話・やったねもっと家族が増えるよ
永遠との生活が始まって数日過ぎた。
この間に彼女が一旦家に戻ったりもしたのだが、父親との仲は微妙らしい。
あの父親が娘を性的に虐待するとは思えないが相手は男だ。
何があるかわからない。
念のため、懸念していることを彼女に伝えたら、とんぼ返りするようにうちに帰ってきた。
もちろん、ハグして迎えた。
それ以降は、最初から一緒に生活していたように生活を続けている。
彼女の話では、いわゆる高校に相当する日本魔女育成学園の高等部では、学生寮に入る予定だったそうで、その予行演習という形でうちに泊まっているらしい。
もちろん、永遠の父親から許可は得ているし、メールでだけど定期的にやり取りしているので問題はない。
ミウとはちょっと違ってクールビューティーな感じだが、彼女もかわいい妹には違いない。
どちらかと言えば、きれいな妹と言った方がいいかもしれないけど。
「ん?」
ミウと家に戻ったら固定電話の留守電ランプが赤く点滅していた。
再生ボタンを押す。
今の時代は固定電話が家にないというところも多いと聞くが、携帯を使いたくないときに使うから解約しないで残しておいた。
『わたくしは中原弁護士事務所の中原と申します――』
中原なる男性の自称弁護士からの電話が入っていた。
念のため、ネットで事務所の電話番号を調べて、固定電話からその事務所にかけてみる。
そして、色々と話を聞いたのだが。
本物だった。
――
「今度は父親の浮気ですか……」
緊急の家族会議を開くと、永遠が呆れたように言う。
「ああ。しかも相手の子供が双子らしくて養育費が必要なんだそうだ」
「双子ぉ……」
ミウはミウで宇宙空間を背景にした猫の顔になってた。
背景の宇宙空間には双子座が輝いているような気もする。
「とりあえず遺産の話もあるから永遠も同席してほしい。もちろん、この埋め合わせはするから」
「埋め合わせですか?」
「俺に出来ることだけどな。例えば、膝枕とかデートとか一緒にお風呂とか……」
「それは単に兄さんがやりたいことでは? あと私はミウではありません。しれっとお風呂に誘うのもどうかと思います」
キリっとした表情で言い切る永遠。
ミウだったら、それらですぐに満足してくれるんだけど。
「そ、そうだね。ごめん。それ以外となったら、少しいい化粧品とか、ご飯で何かリクエストある?」
「そうですね。それなら、ハンバーガーが食べたいです。チェーン店のでいいので……」
「OK。それぐらいならお安い御用だ。今度用意しよう」
それから復活したミウと相談し、今週の土曜日にその双子と親をうちに招くことになった。
そして、デリケートな話ができるように今回はお互いに弁護士を同席させないということが決まった。
もちろん、このことは弁護士の田中さんにも話をかいつまんで伝えて相談した。
何があってもいいように準備は整えておくべきだろう。
――
土曜日。
約束の時間よりも10分早いが家の前にタクシーが止まったのが見えた。
ミウと永遠に声をかけて、先に玄関から出る。
「はじめまして。姫宮久美子と申します」
「あ、はい。初めまして――」
相手は50代ぐらいの女性だった。
茶髪でウェーブヘアの美人よりの人。
スーツ姿というのもあるが、丁寧な事務員さんという感じ。
ただ、ちょっとやつれているというか、疲れているように見える。
前世の職場でうつ病を発症して辞めた人に近い気がする。
でも、相手が父親の浮気相手と思うと何と言ったらいいのか。
ちょっと複雑なところもある。
「娘のくるみと申します――」
「……こむぎ、です」
続いて彼女たちから声をかけられた。
かわいい。
ブレザータイプの制服を着ているが、事前に聞いてた話では中学1年生。
俺よりも3つ下で、永遠の2つ下、ミウの1つ下だ。
胡桃色の髪をハーフアップにした背の低い方がくるみで、金髪ウェーブヘアで背が高いの方がこむぎ。
胸の大きさはくるみの方が圧倒的に上だし、黒いリボンをつけているからすぐに覚えたけど。
2人とも宝石のようなきれいな目をしている。
くるみは水色で、こむぎは金色。
特にこむぎの方は、本当に俺の妹というか、そもそも日本人なのか?
「あ、その。こむぎなのですが、二卵性双生児でして元からこういう髪色で……」
俺の表情を読むように久美子さんが補足してきた。
「そうですか。元からというと天然ですね?」
「は、はい。そうなんです。だから染めたりとかではなく……」
「なるほど、だから自然な色合いをしているんですね? きれいだね?」
そう言ってこむぎを見るもちょっと顔を赤くした気がする。
前世では極端なケースだったが、この世界では日本人でも天然の金髪が普通にいるらしい。
だからやっぱり異世界なんだなと思うけど。
そんなことよりも、こむぎの顔色がちょっと悪そうに見える。
真っ青というほどではないけど。
「それでこむぎさん? 大丈夫ですか?」
タクシーにでも酔ったのかな?
「す、すみません。ちょっとこの子風邪気味で……」
ペコペコ頭を下げながら久美子さんがそう言うと、こむぎと一緒にくるみもどこか申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
くるみは関係ないと思うんだけど。
でも、風邪か。
たしか回復魔法は風邪に対しても効果があったはずだ。
ほかにも生理痛とかに効くらしい。
「自分、回復魔法使えるんですけど使っていいですか? 家族に風邪がうつると大変なので……」
「あ。す、すみません。お願いしてもらってよろしいですか?」
「わかりました。ヒール――」
母親からの許可が出たので、なるべく喉や頭に回復魔法が集中するようにイメージしながらヒールを使う。
魔力が抜けると、ずしっとした重さが体にのしかかってくる。
やべぇ、ちょっと魔力を使いすぎたかも。
「ん――」
「大丈夫、こむぎ?」
「う、うん。体が軽くなった。大丈夫。お母さん」
こむぎの顔色が良くなった気がした。
たぶんこれで大丈夫なはず。
ただ、眠たそうな目は変わらなかった。
元からそういう目なのかな?
それか単に夜更かししてたか。
そもそも回復魔法で眠気を覚ますことってできたんだっけ?
まあいいや。
「では、どうぞ。玄関ではあれなので……」
ちょっとしたトラブルはあったものの、そのまま彼女たちをリビングに通す。
そして、全員に麦茶を入れた紙コップを配り終えたところで自己紹介と状況の確認を行うことになった。




