第59話・やったね家族が増えるよ
「平和だねぇ。お兄ちゃん」
「そうだねー」
朝食の片づけを終えて、リビングのソファーでミウとだらけていると、ピンポーンとチャイムが鳴った。
急いで玄関を開けたら、そこに黒のタイトワンピースを着た若い女性が1人。
銀髪ツインテールのきれいな人だ。
一瞬、その豊満な胸元に視線が吸い寄せられたのは内緒。
「こちらは篠さんのお宅でよろしいですか?」
少しつり上がったきれいな黒目が冷ややかに俺を睨みつけながら声をかけてきた。
たぶん視線を胸にやったのがばれたのだろう。
「はい。そうですけど?」
「私は空野永遠と申します。こちらに篠緑という女性の方はいますか?」
「あー、はい。母でしたら今年の1月に亡くなりました」
たしか今世の母親の名前が緑だったっけ?
一瞬誰のことかわからなかった。
俺が意識を取り戻す前日に死んだということもあり、面識がないからいまいち実感がないんだよね。
予想外だったのか彼女も固まっているし。
「……亡くなった?」
数秒たってから彼女が言葉を返してきた。
「はい。1月にインフルエンザにかかって合併症を起こしたとかで父と共に急に……」
天文学的な数値というほどではないが、イザナミ様も「想定外の出来事」と言っていたほどだ。
まあ、そのおかげで色々と優遇してもらったんだけど。
「そ、そうですか……」
「それであなたは?」
「……あなたの母親と浮気した相手との間に出来た子供です。養育費の振り込みが急に止まったのでこうして足を運びました」
「わかりました。その話は奥でしましょう――」
ここでは出来ない話だ。
家の中に向かってちょっと大きめの声で「ちょっとお客さん入れるよー」と声をかけてから、ドアを押さえて「どうぞ」と彼女を奥へと通す。
俺が戻ったときは、ソファーの上で溶けかかっていたミウの姿はなく、背筋をぴんと伸ばしてリビングの椅子に座っていた。
――
「隠し子ぉ……」
一通り事情を聞いたらミウの視線が漂わせていた。
デフォルメされた星のマークがぐるぐると輪を描いて飛び始めそうな気がする。
かわいい。
「では、改めて聞きますが、本当に交際している人や好きな人がいるというわけではないのですね?」
ミウの代わりに俺が話を進める。
話を進めている際に携帯で調べたりもしたが、父親が違っていたとしても妹は妹になるらしい。
「はい」
眉間にしわを寄せて、露骨に嫌そうな顔をする永遠。
それなら別にいいか。
「ふぅ」と息を吐いて肩の力を抜く。
「わかった。それなら俺としては永遠を妹として迎えたいと思っている。認知の話や遺産の分配は弁護士との相談になるが、それでいいか?」
「……妹としてですか?」
「ああ。“種違い”と言えば、言い方が悪いかもしれないが、それでも俺の妹であることには変わりないだろ? なら、家族として迎えるべきだ。まあ、ミウが納得してくれればの話であるが……」
ちらっとミウに目をやるもまだ混乱状態が続いていた。
先ほどよりも落ち着いてきたようには見えるけど。
「そうですか」
「それよりもだ。父親との生活はうまくいっているか? 学校生活でいじめられてない? 食事は取れてる? 永遠の兄としてはそこが心配だ」
「だ、大丈夫です。そこまでは……」
しっかりと永遠の目を見ながら話す。
一瞬目を伏せたものの、問題はなさそうな感じだ。
「そう? あ、これ、俺の携帯のアドレスなんだけど。何かあったら連絡してくれ。もしも家出したいと言う時ならその時は余ってる部屋を貸すから」
携帯を取り出してささっと彼女と連絡先を交換する。
「よろしいのですか?」
「ああ、俺は構わん。俺も永遠の兄として兄らしいことはしたいからね。もちろん、恋人とかがいるのならそいつに丸投げするべきだとは思っているけど、いないのならばそれは兄である俺の役目だろ? 街をふらつかれるよりはマシだ。それに永遠はきれいだから特にね?」
俺がそう言うと、彼女がわずかに目を見開いた気がした。
「ふふ。俺も永遠のような美人な妹が出来て鼻が高いよ」
「そうですか……」
茶化すように言ったら、永遠の視線が急に冷ややかになって冷たく睨みつけられた。
どうやら駄目だったようだ。
慣れないことはしてはいけないのだろう。
「お兄ちゃんが女の子口説いてる……」
復活したのかミウがそんなことをつぶやく。
「妹が相手だから口説いていることにはならないだろ?」
軽くミウの頭を撫でる。
「で、でも……」
「それにミウにとっては1歳違いのお姉さんになるんだ。嫌なら嫌でいいけど、俺としては同じ妹という扱いだからね」
「う、うーん。別にお姉ちゃんが出来て嫌ってわけじゃないけど。急だったからあんまり実感がなくて……」
「そっか。そろそろお昼も近いし、何か作るから永遠も何か食べていく?」
「いえ。そこまでしていただかなくても……」
「そう? でも、俺が永遠の兄としてできることはこれくらいだからね。適当に何か作るから食べて行ってよ」
「……そうですか。わかりました」
どこか折れるように永遠がそう言った。
「あとミウ。料理ができるまで永遠の相手を頼めるか? 女同士だから男の俺には相談できない話もあるだろ?」
「いや、でもお兄ちゃん。お兄ちゃんもここにいるじゃん?」
「ごはんを作るのに集中するから。じゃ、任せたよ」
その場はミウに任せて食事の準備に取り掛かる。
昼食のメニューは半熟オムライスに決めてたんだけど、3人分となるとちょっと量が少なくなるから何か考えないといけない。
卵とかは問題ないけど、ご飯の量がちょっと足りないんだよね。
スープは作る予定だったから、夜ごはん用の野菜を使って、具が多めの野菜スープでも作ろうか。




