第56話・回復魔法
「それでお兄ちゃん。避妊魔法を覚えたんだからあざも回復魔法で治せないの?」
ミウの髪をドライヤーで乾かしていたら、携帯電話を弄っていたミウがそんなことを言ってきた。
「回復魔法か……」
「うん。今ね。ちょっと気になって調べてみたんだけど、避妊魔法が使えるなら回復魔法も覚えられるかもしれないと思って……」
「え? そうなの?」
「うん」
ミウから携帯を見せられたので読んでみる。
避妊魔法は中級魔法なので、初級魔法に分類される【ヒール】は覚えられる可能性が高いらしい。
上着を脱いであざを見ながら「ヒール」と唱えてみる。
しかし、何も起きなかった。
某ゲームの初等回復呪文である「ホ〇ミ」も唱えてみる。
「特に何も起きないね、お兄ちゃん?」
「ああ。魔法はイメージなんだよな?」
「うん」
「ヒール――」
あざのない元のお腹を強く思い浮かべて唱えると。
体が温かくなり、青紫色のあざが綺麗に消えたが、両肩にずしっとした重さが伝わってきた。
風邪を引いたときのような体の重さ。
思ったよりも魔力を使った。
避妊魔法よりも魔力の消費が激しい気がする。
「おっ。消えたね。お兄ちゃん。もしかして回復魔法覚えたんじゃない?」
すかさずミウがあざのあったところを触ってくるが、くすぐったいだけで痛みもない。
「そうかも。明日学校に行って見て確認してくるわ。ヒール――」
「お、お兄ちゃん?」
ついでにミウに回復魔法をかけてみる。
先ほどと同じように体から魔力が抜ける感覚がしたが、体の重さはあまり感じない。
だから、魔法としては発動しているはず。
でも、他人にかけたのは初めてだし、目に見えるような傷もないから、ちょっとわかりにくい。
「どう? ちゃんと魔法発動している?」
「う、うん。なんか体が温かくなって軽くなったような気がするから発動したと思うよ?」
「そっか。それなら多少は怪我しても大丈夫かな?」
「お兄ちゃん。いくら回復魔法が使えるようになったからって無理はしちゃだめだよ?」
「OK。わかってるって――」
あとはどれくらい回復魔法で回復できるかだ。
たしか、保健の先生が習得していたから、明日学校に行ったら聞いてみよう。
――
「それでお兄ちゃん。回復魔法ってどうなったの?」
俺の部屋でミウを膝枕すると、彼女がそんなことを聞いてきた。
「ああ。初歩的なものだけど習得してたよ?」
「そっか。これでお兄ちゃんもヒーラーデビューだね?」
「うーん。ヒーラーというほどではないと思うんだけど……」
ヒーラーというのは回復魔法を専門とする魔法使いのことだ。
その第一歩がヒールを覚えることである。
俺の場合は、避妊魔法も覚えているから魔力も回復することができる。
ちらっと調べてみたら、探索者の中では少なからず需要があるらしい。
まあ、それでも顔次第らしいけど。
「それでもさ。何かあった時に治療できる人がいるっていうのは心強いよ?」
「確かに」
俺の覚えているヒールでは浅い怪我の治療や風邪の緩和ぐらいしかできないそうだけど。
それでも使えるのと使えないのとでは雲泥の差だ。
保健の先生にも聞いてみたが、【パーフェクトヒール】や【リジェネレーション】という魔法を覚えれば、欠損も治るらしい。
問題があるとすれば、それらは最上位級の回復魔法のため、誰でも習得できるというわけではないとのことだ。
仮にそれらを覚えることができたら、仕事とお金に困ることは生涯ないそうだ。
「それとお兄ちゃん。今日はお兄ちゃんの部屋で寝るからね?」
「ん。わかった」
ミウの要望で一緒に寝ることになった。
少しでも彼女の温もりを感じようと、ベッドに入ったら即座に抱き寄せる。
「なんかお兄ちゃんのベッドだと安心する」
「そう?」
「うん。お兄ちゃんの匂いに包まれている感じがして……」
「そ、そうか。でも、大丈夫? 汗臭くない?」
「うん。大丈夫だよ? それを言ったらミウはどうなの?」
「とってもいい匂いがするよ? うまく説明できないんだけど、好きな匂い。安心する。好き」
「そ、そっか。あ、ありがと……」
ミウの顔は見えないけど、体の温もりは伝わってくる。
それでどこか心が満たされるというか。
とても幸せな気持ちになれる。
(嗚呼、感謝します。イザナミ様。こんなかわいい妹をつけてくれて――)
何度目かわからない感謝の気持ちをイザナミ様に捧げるのだった。




