第44話・グラノーラ
「あ。今日はグラノーラだ」
「ああ。安かったからな。ミューズリーよりもカロリーとかはあるけど偶にはいいだろ?」
数日前に行ったスーパーで偶々赤札が付いていたグラノーラを見つけたのでそれを買ってきたものである。
それに生鮮食品コーナーで売ってた生のブルーベリーを追加したもの。
あとは牛乳をかければ完成だ。
「うん。なんか外国人みたいだね?」
「そう?」
ミウと一緒にザクザクっと音を立てながら食べだす。
今回は牛乳をかけただけなのだが、やっぱり手軽で美味しいのはグラノーラだった。
「お兄ちゃん。実は前世が外国人だったんじゃない?」
「そうか? 生粋の日本人なんだけど、元から個人主義っていうか、価値観や思想がそっちよりだったからね。海外研修も受けたし」
そういう意味では俺もエリートだった。
結局、才能が無くて本当のエリートにはなれなかったけどね。
それに同じ日本人とはいえ、もとを正せば、異世界の日本人。
だから外国人という表現も割と合っているような気もする。
前世の職場で同僚になった外国人たちからは「典型的な日本人」と言われていたが、同じ日本人からは外国人や障害者という扱いだった。
そもそも仕事よりもプライベートが優先なのは当たり前じゃん?
残業するときはあったけど、基本は雇用契約を厳守。
定時になったら仕事を切り上げて帰っていたし、飲み会とかも参加しなかった。
「ふーん。じゃあ、“いただきます”とかを言わないのもそれ?」
「ああ。気になったか? 外国人は言わないから海外研修の際に廃止したんだよね。それに兼業農家の料理人として働いてた時期があったんだけど、感謝はするけど正当な報酬は払いたくないってやつが多くてブラックだったから、嫌になって辞めたし」
外国人も同じことを言ってたら、たぶん廃止することはなかったけど。
海外研修を受ける際に、外国人のガイドからそれが日本独自の文化で理解できないと聞いて、「宗教的な問題になるかもしれない」と思って廃止したんだよね。
元から仏教由来というのは知ってたし。
外国人の場合だと「食べ物とかは神様から与えられたもの」という認識が基本だから、彼らに説明してもいまいち理解されない。
それに自分たちが信仰する宗教以外の宗教はすべて悪、宗教的に見えるものもアウトという過激派が普通にいるのだ。
あとは、戦前の生まれである祖父母もいただきますとかを言わなくて、俺の母親とトラブルになってた。
だから、異世界もので異世界人がそれを言っているのが気になるんだよね。
特に料理系。
そもそも多神教であるこの世界でも、それは日本独自の文化となってるし。
「そっか。ミウと食事に行ったときはマナーとか出来てたように感じたから、何かしらの理由があるんじゃないかな?とは思ってたけど、やっぱり理由があったんだね」
「まあな。説明するのが面倒くさいから“宗教上の理由”って言ってるけどね」
イザナミ様も「手を合わせてお辞儀するのが仏教徒に見えるからあんまり好きじゃないだよね」と言ってた。
感覚としては「日本人があいさつする際に手を合わせてお辞儀しているのと同じに見える」らしい。
もちろん、この世界でも日本人のあいさつは、両手は体の脇か前に置いてお辞儀するのが基本だ。
イザナミ様に聞いてみたが、やっぱりテレビ番組の影響でそういう風習が文化として定着したとか。
今は隠居した身のイザナミ様も「神様として人にものを与える」という立場から、謙譲語のようにへりくだるような表現はなるべく使わないようにしているとのこと。
神様も神様で色々と大変なようだ。
「あとお兄ちゃん? 前から思ってたんだけど、ラーメンとかおそばとか食べるときもすすらないよね?」
「ああ。俺はなるべく音を立てないで食べるのがマナーとして教わったからね」
今食べているグラノーラのように食べる時にザクザクという音が出るのは仕方ないと思うけど。
海外だと食事中に大きい声を出すのがマナー違反となっているところが多いから、大声で店員を呼んだり、いただきますと言うのは駄目だと教わった。
特にラーメンのようにすする音はアウト。
俺の場合は海外研修に加えて社会人になってから、イスラム圏や東南アジア出身の外国人スタッフと混ざって仕事することも多かったからね。
ラーメンやそばとかも音をたてないようにして静かに食べてから、逆にすする音が気になるようになってしまった。
だからと言って、それをするなとは言わないけど。
おかげでマナーが外国式になって、日本人と合わなくなっちゃったんだよね。
「なるほど、それで外国人みたいになってるんだね?」
「気になる? 嫌だったら修正するけど……」
「ううん。今のままでいいよ? ちょっと中二病っぽいけど……」
「中二?」
「うん。海外研修なんていつ受けたの? 海外ってどこ? 働いてたっていうのもいつのこと?」
「いや、それはその……」
しまった。
ついうっかり前世の感覚で喋ってた。
一瞬でこの世界に転生したから、15年も寝たきりだったということを忘れちゃうんだよね。
「お兄ちゃん。アニメやラノベを見てもいいけど、影響を受け過ぎるのは駄目だよ? 調理師免許と運転免許が特例で交付されたから、調子に乗っちゃったんでしょ?」
「ま、まあ……」
なんか中二病扱いされてた。
俺の場合は異世界転生者というのは事実なんだけど、イザナミ様に直接聞かない限りは物的な証拠がないからね。
そう思われても仕方ない。
イザナミ様からダンジョンの話を聞いたときに質問したら、「言いふらすようなことをしなければ、喋るかどうかの判断は任せるよ」と言われたし。
「それよりもお兄ちゃん? お兄ちゃんって優しそうに見えるけど、自分の意見ははっきりと言うよね? その、ミウのことをはっきりと好きって言ってくれるし、スキンシップも多いから、そういうのが無くなるのは嫌だし……」
そんなことを言いながらミウがちょっと頬を赤くする。
「まあ、自分の意見というのはちゃんと口に出して態度にも出さないと伝わらないからな。もしも何かあったらちゃんと言ってくれよ?」
前世だけど、高校時代から海外研修でそういう指導を受けていた。
だから、俺は自分の意思をはっきりと伝えることができたが、それが出来ずに体や精神を壊して辞めていったと言う人たちを何人も見てきたのだ。
「うん。あと、お兄ちゃん。スキンシップなんだけど、ほんとーにほかの人にもやってないよね?」
「そりゃそうだろ。セクハラだし。時と場所も選んでいるつもりだけど。もしかして嫌だった?」
「ううん。嫌ってわけじゃないよ? ただ、お兄ちゃんのことだから、ほかの人にもやっているような気がして……」
「いやいや。ミウ以外にはやってないぞ? そもそも異性の友達なんていないし」
「ほんとぉ?」
なんか胡散臭いものを見るように返してくるミウ。
どうやらそこまで信用がないらしい。
本当にミウだけにしかやってないんだけどなぁ。




