第41話・さりげなく妹を口説くお兄ちゃん
「それで。学校はどうだ?」
改めてミウへと声をかける。
「どうって?」
「楽しめてる? 嫌がらせとかいじめとか受けてない?」
それとなくミウの表情をうかがいながらも聞いてみる。
もしもミウがいじめとか嫌がらせを受けていたら、その相手を病院送りにしても特に問題はないだろう。
現法は肉体年齢が基準であるため、仮に異世界転生者である物的な証拠があったとしても今は単なる未成年でしかないのだ。
下手すれば、某二病扱いである。
それならそれで仕方ない。
未成年として扱われるのなら、未成年としての立場を最大限利用してやろうではないか。
「お兄ちゃん? だ、大丈夫だよ。そんなに心配しなくても……」
気づいたらミウが怒られた子供のように縮こまっていた。
殺気でも漏れてしまったかもしれない。
俺もまだまだだな。
ミウのことになると、感情的になり過ぎる。
もっとクールに行かないと。
「そうか? ならいいんだけど。何かあったら遠慮なくお兄ちゃんに言うんだぞ? いつでも力になるから」
「う、うん。わかった」
ミウの反応から嫌がらせやいじめは受けていないように見えたので少し安心する。
「じゃあ、この話はここで終わりかな……」
俺がそう言うと一旦会話が途切れてしまった。
コミュ力の高い人間はこういう時に会話を切らさないものだと思うが、元々はコミュ力の低い陰キャなのだ。
ミウはこういう場に慣れていないのか、背筋をピンと伸ばしていて表情も硬い。
自分から何かを話そうとする余裕はなさそうだ。
誕生日ではあるがデートも兼ねている以上、俺がもっとうまくリードしないといけないのだろう。
ちょっと失敗してしまったかもしれない。
せっかく楽しいはずの誕生日なのに。
「それでミウはこういうお店に来たことある?」
とりあえず適当な話題を振っておく。
「え? いや、あんまりないけど。お兄ちゃんは?」
「お金がないからまず入らないかな? ドレスコードがあると服とかそろえるのにもお金がかかるし」
前世でもこういうお店にはほとんど入ったことがなかった。
デートすること自体がなかったというのもあるけど。
そもそもお金が無くて自炊することが多かったのだ。
料理に失敗するリスクや人件費などを考慮して計算したら自炊の方が高くついていたということはあったけど。
「お兄ちゃん、本当にお金大丈夫なの?」
「ああ。偶にだからな。大丈夫だ。それよりも普段はファミレスとかそういうところ? ほら、俺のお見舞いの帰りに食事してたとか言ってたじゃん?」
「う、うん。そうだけど、どうかしたの?」
「両親のこともあってそういう話はあんまりしてこなかったからね。ちょっと興味があって」
「あー、そうだね。基本的にはお兄ちゃんのお見舞いに行ってから、食事に行って、買い物して、帰るっていうパターンかな?」
「なるほど」
それからミウと他愛のない話をするのだが、そんな話をしているうちに彼女の緊張が解けてきたのだろう。
自然と笑みをこぼすようになった。
肩の力も抜けているように見える。
「どうしたのお兄ちゃん? ミウの顔に何かついてた?」
「いや。緊張した姿のミウもかわいいけど、やっぱり笑っているミウの方が好きだなと思って」
「お、お兄ちゃん。こんなところで妹を口説いちゃ駄目だよ……」
「そう?」
特に口説いている気はないんだけど。
大声で話しているというわけでもないし、これくらいはね?
「ミウね。お兄ちゃんの笑った顔も好きだよ?」
「ありがと」
軽く微笑んでおく。
「むー。お兄ちゃんなんか妙に慣れてない? 実は意外とデートした経験あるんじゃないの?」
「ははは。まさか。俺はミウ一筋だよ?」
「ふーん。お兄ちゃんのことだから、ほかの女の人にも同じこと言ってそう――」
そんな話をしていると、ウェイターさんが大きめの皿に載せられたサラダを運んできた。
こういうお店ってお皿が無駄に大きいから、なんか盛り付けられている野菜が少なく見えるんだよね。
「あ、そうそう。カトラリーは外側から使うんだよ。カトラリーっていうのはテーブルナイフやフォークの総称なんだけどね――」
どのフォークを使っていいのか迷っていたミウに声をかける。
それからは特に何か起きるということもなく、食事を済ませてお店を後にした。
帰りは指を絡めるように手をつなぎながらタクシーに乗って自宅へと戻ったけど。
運転手のおっちゃんが「若いねぇ」と言わんばかりの表情を浮かべてて、ちょっと気になった。
やっぱり自由に使える車が欲しい。
タクシーとはいえ、他人が運転している以上、どうしても気を遣うのだ。




