第4話・妹が倒れた
「お兄ちゃん? 良かった。意識が戻ったんだね?」
寝ているミウの頭を撫でていたら、蚊の鳴くような声で彼女がつぶやいた。
たぶん俺が意識を取り戻したことを言っているのだろう。
何しろ、つい数日前まで俺は昏睡状態だったのだから。
「ごめん。起こしちゃったか?」
「ううん。大丈夫だよ」
頭を撫でるのを止めて、おでこに手を載せて熱を測ってみる。
汗でちょっとベタっとするけど。
熱いとは感じない。
うーん、普通かな?
呼吸も安定しているように見えるし。
(大丈夫かな?)
それは今朝のことだった。
リビングに入ってきたミウに「おはよう」と声をかけたら、なんか糸が切れた人形のように崩れた。
足に力が入らないそうだったので、すぐに救急車を呼んでお医者さんに診てもらった。
お医者さんの話では「両親を失ったことによる精神的なショックが体に出たのだろう」とのこと。
専門的に言えば「機能性神経症状障害」と言うらしい。
ただ、入院が必要なほど重症ではなかったそうなので、すぐに自宅に帰された。
この症状が数週間続けば、心療内科や精神科などを受診する必要があるらしいけど。
昨日の今日で、病院に呼び出すことになった弁護士の田中さんにはちょっと迷惑をかけてしまったが。
「それよりもお兄ちゃんは?」
「ん? 俺は大丈夫だ。それよりもミウの調子は?」
ベッドに寝かせる際に制服からパジャマへと着替えさせた。
下半身の感覚がないため、スカートからパジャマのズボンに履き替えるときは手伝ったけど。
白いパンツが妙に目に焼き付いてしまったのだ。
実の妹なのに。
「うんとね。ちょっとだるいかも。なんか風邪を引いた時みたい」
「そっか。じゃあ何か飲む? それとも何か食べる?」
「お水……」
「わかった。起きれるか?」
「う、うん」
起きようとするミウだったが、ちょっと辛そうだ。
彼女の背中にそっと腕を回して抱き起す。
それからコップに注いだ水をゆっくりと飲ませ、少し落ち着かせてからベッドへと寝かせた。
「お兄ちゃん。ごめんね……」
「大丈夫だ。今までの疲れがちょっと出ただけだろう?」
ぽんぽんっと頭に手を置く。
「う、うん」
「それよりもいままで1人でよく頑張った。これからはお兄ちゃんを頼りなさい」
「で、でも。お兄ちゃんだって意識が戻ったばっかりなのに……」
「いいんだミウ。今は寝て体を休めなさい。話はそれからだ」
「……わかった」
ミウを寝かしつけた後、家事を済ませるためにミウの部屋を出た。
――
「あ、お兄ちゃん……」
家事を済ませて部屋に戻ると、ミウに声をかけられた。
でも、視線が合わない。
頬もほんのりと赤い気がする。
「どうした?」
先ほどと違ってはっきりと話せるようになってはいるけど。
やっぱり数時間寝ただけでは足は回復しないか。
「そ、そのね? えっと、おし――おトイレに……」
視線をそらしつつもミウがそう言った。
「あっ、ごめん。気づかなかった。じゃあ、ちょっと体を触るけどいい?」
「う、うん」
それからミウを一旦起こした。
背中と膝裏に腕を滑り込ませて、一気にベッドから抱き上げる。
家に戻ってきた後もやったけど、いわゆるお姫様抱っこというやつ。
そして、トイレに直行。
1階だけではなく2階にもトイレがあって助かった。
便座の上にミウを下ろすもちょっと辛そうだった。
「脱がせるね?」と許可を取った後に、手早くパジャマのズボンとパンツを下ろし、自分に抱き着いてもらうようにしてトイレを済ませる。
もちろん、拭くこともできなさそうだったので代わりに拭いた。
介護についてはちょっとかじった程度だが、前から後ろに拭くでいいはず。
それであれが普通に反応したというのは口が裂けても言えない。
体が若返った弊害と言えばいいか、それで性欲までもが回復してしまったのだ。
おかげで実の妹に対しても容赦なく反応して、自分の体なのに思わずびっくりした。
ただ、それと同時にこれが俺なのだとも思う。
思春期の時は本気で悩んけど、それを否定することなく受け入れたことで落ち着いたし。
「ごめんね。お兄ちゃん」
ベッドに寝かせた妹が申し訳なさそうにそう言ってくる。
俺も、実の妹をそういう目で見てしまったことを彼女に謝りたい。
女性はそういう視線に敏感らしい。
たぶん気づいているはずだろう。
「いいんだよミウ。それを言ったらお兄ちゃんの方が苦労を掛けただろう? なにせこっちは15年も寝たきりだったんだからな……」
俺の介護に関しては病院のスタッフがやってたので問題はないはずだ。
また、主治医の話では「いつ目が覚めてもおかしくない状態であるが昏睡状態が続いていた」らしいけど。
どんな事情があれ、家族に迷惑をかけたのは変わりないだろう。
助成制度のおかげで数万円程度の出費に抑えられていたが、毎月お金はかかっていたみたいだし、両親と妹は月に1回は面会に来ていたそうだ。
その手間暇を考えれば、妹の介護なんて十二分に安いものだろう。
この状態がずっと続くのなら俺も考えないといけないけど、ミウを見た先生の話では一時的なものらしいし。
「で、でも……」
ゆっくりとミウの頭を撫でると、どこか気持ちよさそうに目を細めた。
ふふ、かわいい。
「俺がやりたいんだからいいの。少しはお兄ちゃんにお兄ちゃんらしいことをさせなさい」
前世でも今世でも俺はお兄ちゃんなのだから仕方ないだろう。
前世では2人の弟がいたが、男だったこともあり興味が無くて放置してた。
仮に女性――妹であったとしても興味を持てなかったはずだ。
あくまでも俺が好きなのはラノベやエロゲに出てくるようなブラコンな妹であり、言わば架空の存在なのだ。
現実のものではない。
でも、かわいくてブラコンな妹が欲しかったのは事実だし、実際に出来たらとてもかわいいのだ。
俺の場合は両親の年齢的に難しかったけど。
たしか東南アジア出身の人だったかな?
動画内で「数年ぶりに日本から帰省したら、家族(妹と弟)が増えてたぜ。はっはは――」と話していたのを見たことがある。
しかもその人は30歳ぐらいに見えたので、感覚としてはそれに近いのかもしれない。
どちらにせよ、妹は兄が守るべきものということには変わりない。
弟?
知らんな。
男なんだから自分で何とかしろ。




