第5話・レトロプリン
「プリンだよねこれ?」
「ああ。レトロプリンというやつだ。久しぶりに食べたくなったからね」
お皿に載せたそれをミウに見せる。
ミウが倒れた後に、プリンなら食べられるんじゃないか?と思って作ってみたものだけど。
「なんかお店屋さんのみたいなんだけど、お兄ちゃんって料理できたの?」
「まあな。昔取った杵柄というやつだ」
前世では調理の仕事をしていた時期があるのでそれなりにできるのだ。
それにレトロプリンは、牛乳と砂糖と卵に、バニラビーンズかバニラエッセンスがあれば作れるので、偶に作ってたんだよね。
分量と時間を間違えなければ失敗することも少ないし。
「ふーん。生クリームとチェリーが載ってるんだけど……」
まるで興味がなさそうな口ぶりだが、その視線は完全にプリンをロックオンしているような気がする。
今日近くのスーパーに行った際にスプレー缶に入っている生クリームを偶々見かけたのでつい買ってしまった。
ちなみに、チェリーは缶詰のもの。
料理は見た目も大事だからね。
「ミウに食べさせようと思ったから、ちょっと奮発しちゃった。もしかして苦手だった?」
「ううん。大丈夫だけど……」
「だけど?」
「食べさせてくれるんだよね?」
俺の顔色をうかがうようにミウが上目遣いで聞いてきた。
かわいい。
「当たり前だろ。ただ、ベッドにこぼすと掃除が大変だから出てもらうけどいい?」
「う、うん」
お姫様抱っこのように抱えてから、首元に食事用エプロンの代わりにタオルを載せる。
そして、スプーンで気持ち少なめにプリンをすくって食べさせた。
「あ、おいしい。お兄ちゃん、これ普通にお店に出せるレベルだよ?」
「そりゃそうだろ。プロの人のレシピを参考にしたんだから。はい、あーん」
「あーん」
ほんのりとミウの頬が赤い気がするけど。
なんか餌付けしているみたいでかわいい。
食欲はあまりなさそうに見えたのだが、プリンに関してはあっという間に間食した。
ちょっと安心だ。
首元に載せてたタオルの端でぽんぽんとミウの口の周りを拭く。
「じゃあ、あとは何か飲む? お水以外だと、スポーツドリンクかお茶になるけど……」
「紅茶は?」
「ペットボトルのやつだけどそれでいい?」
「うん」
ミウがどんな飲み物が好きかわからなかったので一通り買ってみたけど、それで正解だったようだ。
プラスチックのコップに注いでからゆっくりと飲ませた。
「もういい」
「わ、わかった」
あ、あれ?
二口ぐらい飲むと急にぷいっと横を向いてしまった。
何か気に食わないことでもしてしまっただろうか?
どうしよう。
残した紅茶もこのまま置いておくわけにもいかないし、捨てるのもちょっともったいない気がするし。
あとでこっそり飲んでおくか。
ほかの人なら嫌だけど、ミウが飲んだのならね。
間接キスと思えば――
「ん。どうしたミウ?」
なんかミウから視線を感じた。
「ううん。なんでもない」
首を左右に振るミウ。
なんだろう?
「そっか。それでベッドに戻る? それとももう少しこのままでいる?」
「もう少しこのままがいい」
「わかった」
それからミウを抱っこして過ごす。
規則正しい時計の針が刻む音だけが部屋に響いている。
偶にミウと目が合い、思わずふふっと小さな笑いが漏れてしまうがそれぐらい。
たぶんこれは俺が異世界転生者だからそう感じるんだと思う。
今は妹というよりも娘に近いけど。
かわいい、かわいい俺の妹。
あとは歩けるようになってくれれば言うことはない。
でも、今は体を休める時だろう。
ゆっくりとお休み。
精神的なケアが重要と聞いている。
一口に精神的なケアと言っても色々とあるのだが、まずは不安の解消を優先させるべきだろう。
――
「あれ、お兄ちゃん。もしかして私の部屋で寝るの?」
ミウの部屋に掛け布団を持ち込むと彼女から声をかけられた。
「ん? 当たり前だろ? 夜にトイレに行きたくなったらどうするんだ?」
「あ、そっか……」
隣の部屋ではあるがさすがに別々で寝たら気づけないと思う。
「寝てたら叩き起こしていいからね?」
「わ、わかった。でも、寒くないの?」
「毛布だけだったら寒いと思うけど掛け布団も持ってきたから大丈夫だろ。それに仮眠だし」
「ごめんね、お兄ちゃん。迷惑ばかりかけて……」
「いいんだよ、俺がやりたいんだから。じゃあ、ちょっと早いけど電気消すからな……」
「う、うん」
こうして慌ただしかった日が終わりを告げたのだった。




