第3話・退院
検査結果に異常が見つからなかったので退院となった。
細かい手続きは未成年後見人の弁護士さんがやってくれたし、帰りはその人の車に乗せてもらうことになった。
仕事で使う社用車だと思うが、やっぱり儲かっているのだろう。
車に興味のない俺でもわかるような高級外車だった。
そして、転生後の実家は周囲を田畑に囲まれた田舎にある一軒家ではなく、住宅が立ち並ぶ住宅地にある一軒家だった。
家自体は標準的な二階建ての戸建てだと思う。
でも、こういう普通の家には住んだことがないので、これが普通なのかがちょっとよくわからないんだよね。
「それで、ここがお兄ちゃんのお部屋だよ?」
「へー。思ったよりも綺麗だな……」
ベッドに加えて勉強机もあるので、すぐに使えそうな感じだ。
「うん。お母さんがいつ退院してもいいようにって掃除とかしてたから……」
「そ、そうか……」
何とも言えない気持ちだ。
医師から回復の見込みが薄いと言われても、いつ戻ってきてもいいように欠かさず手入れをしていたのだろう。
十数年という歳月を思うと、少し目が潤んでしまった。
「お、お兄ちゃん。大丈夫?」
「ああ。問題ない」
「そっか……」
なんとも言えない空気が漂う。
ちなみに、隣はミウの部屋だ。
「それでお兄ちゃん。ほかに何か手伝うことある?」
「ああ。ちょっと通帳や印鑑の場所とかを知りたいんだけどわかるか?」
「あー、ごめん。それはちょっとわからないかも」
「そっか。ならまずは家捜しからか……」
「家捜し?」
「ああ。まずは両親の通帳や印鑑を確保する。そこから資産や生活費の支払いを行っている口座とかを確認したいんだ。じゃないと、ある日突然電気や水道とかが止まるからね。できれば、現金や家計簿とかもあると嬉しいというか助かるんだが……」
遺産が下りるまでの間の生活費も必要だ。
この世界の両親には悪いとは思うが、もう死んでいるから見つけた現金とかは俺たちが使っても問題はないだろう。
使わないブランド品とかも処分させてもらおう。
「あ、そっか。気づかなかった……」
ミウがつぶやく。
たぶん両親が死んだことで頭がいっぱいだったのだろう。
俺の場合は異世界転生者という事情もあるが、ミウはまだ13歳の子供だ。
その状態で親権や遺産、生活費のことまで意識を向けることなんてできないだろう。
残念ながら、前世では両親よりも先に死んでしまったので、こういうことをやるのは初めてだけど。
やるべきことはソーシャルワーカーや児童相談所の職員とかに教えてもらったいるので、あとは簡単だ。
「大丈夫だ。これからはお兄ちゃんがいるからな?」
ぽんっとミウの頭に手を載せ、軽く撫でる。
ああ、滑らかな髪が気持ちいい。
「う、うん。ありがとお兄ちゃん」
――
それからミウと一緒に家捜しをして、通帳や印鑑、現金などを発見した。
特に、数年分の家計簿を見つけたことは大きかった。
家計簿を参考に、遺産と生活費を試算。
数年ぐらいならば働かなくてもよさそうな額があり、ほっと胸をなでおろした。
これに加えて死亡保険などが下りることを考慮すると、俺もミウも高校に行けるぐらいの資金はあるかもしれない。
さすがに大学や専門学校は厳しいと思うけど。
まあ、俺は異世界転生者なので高校は通わなくてもいいと思っている。
この世界では中卒となってしまうが特に問題ない。
情報が漏れて強盗とかに狙われるのも嫌だったので、具体的な遺産の金額とかはミウには伝えていないけど。
大雑把に「中学校を卒業するまでは大丈夫だ」ということだけである。
お金にまつわるトラブルというのは俺たちが思っているよりも多いのだ。
警戒しておいて損はないだろう。
多くても揉めるが、少なくても揉めるのだ。
(問題は親族か……)
役所が調べているけど、ここで問題になるのはやっぱり親族だ。
弁護士がいるとはいえ、彼らが強く出てくると困るんだよね。
何よりもミウは女の子だ。
それもかわいい感じの。
だからこそ、親族であっても男性には気を付けないといけない。
俺も男だからね。
性的な虐待をする人の気持ちがよくわかるから、男が信用できない。
妹は兄が守るべきものなのだ。
「ど、どうしたのお兄ちゃん。私の顔に何かついている?」
「いや。かわいいなと思って見惚れてた」
「お、お兄ちゃん。きゅ、急にそんな変なこと言わないでよ……」
「そう?」
うつむいたミウの顔がどことなく赤い気がするけど。
かわいいのは事実なのだから仕方ないじゃん?




