第27話・殺人ピエロ
「お、お兄ちゃん。ちょっといいかな?」
魔法の教科書を読んでいると、ミウが部屋に入ってきた。
ただ、その顔が真っ青。
コップでも割ったのだろうか?
それとも絨毯にジュースでもこぼしたか?
「なにかあったか?」
「う、うん。ちょっといい?」
すがりつくように俺の膝の上に座ってきた。
体が小刻みに震えている。
すぐに腰に手を回してぎゅっと強め抱きしめると、ぴたっと震えが止まった。
「それで。何があった?」
もしかしたら不審者でもいたのかもしれない。
自然と体がこわばる。
ちらっと机の下を見る。
しまった。
包丁ケースがない。
拳銃の代わりに護身用として置いておいたもの。
異世界転生した今はそれがない。
どうする?
本当に不審者だったらやばいぞ。
「そ、そのね。友達におすすめされた映画を見てたんだけど、その、ちょっと怖くて……」
「映画?」
「う、うん。ホラー映画なんだけど……」
「ああ、なるほど……」
一気に体から力が抜けた。
言いたいことは大体わかった。
それで怖くなって俺の部屋に来たと。
まったく人騒がせな。
「う、うん。そのね、ベッドの下の空間とかに赤い風船を持ったピエロが――」
ミウから話を聞く。
それは某町の地下深くに住むとある殺人ピエロの話だった。
魔法があり魔物がいる世界にもそういう話が生まれるのかと驚いたものの、そこらへんは前世とあまり変わっていなかった。
宇宙で光の剣を振り回す騎士の映画もあるし、電撃を放つ黄色いネズミを模したモンスターとかを戦わせるゲームもある。
「ホラー映画苦手?」
「うん。でも、友達におすすめされた以上、見ないってわけにはいかないから。それにね――」
どうやら期間限定での無料公開中だったらしい。
「今日はちょっとやることがあるから」と夕食後すぐに部屋にこもったのはこれが理由だったのだろう。
昔ならビデオやDVDのやり取りが基本だったが、今の時代は送られてきたURLをタップするだけでそのサイトにつながって作品を見られるのだ。
些細な事だけど、ジェネレーションギャップを感じる。
話しているうちにミウの血の気が戻ってきた。
恐怖に怯えるその姿もそそられてしまったのは内緒。
ついでに頭も撫でておく。
「楽になった?」
「う、うん。ありがと。お兄ちゃん」
「これくらいお安い御用さ。なんたってお兄ちゃんだからね?」
兄である以上、こういうことはやるべきだろう。
男は無理だけど、女の子ならウェルカムである。
「でね。朝起きてお兄ちゃんがいなくなってたらと思うとちょっと怖くて。その、今までのが全部夢じゃないかって……」
「あー。それは俺もあるかな?」
「あ、お兄ちゃんもなの?」
「俺の場合は安アパートで目が覚めたおっさんって感じになるけどな」
実際に前世では死ぬ直前までそうだった。
だから夢と言うにはちょっと語弊があるけど。
実はこの世界は俺が死ぬ直前に見ている夢なんじゃないか?と思うことはあるのだ。
「なにそれ? 昔はやった異世界転生ってやつ?」
「俺の場合は元の世界に戻るというやつだけどな」
「なにそれー。あとね、お兄ちゃん。そ、その、お、おしっこ――」
「えっ?」
なんか顔を赤くしながらそんなことを言われた。
これはトイレに連れて行けということだよね?
「1人ではいけないのか?」
「う、うん。あ、あのピエロがね? 洗面台の排水口から赤い風船と共に……」
「そうか。それなら仕方ないな」
下心に負けてミウを抱っこしてトイレに連れて行く。
そして、蓋を開けた便座の上に座らせるも、しっかりと服をつかんでいたので逃がしてくれなかった。
仕方ないのでミウが倒れた時と同じようなことをやる。
前とは違って下半身が動かないというわけでもないのに、俺が拭くことにもなった。
まあ、甘えられるのも嫌いではないので別にいいけど。
部屋に戻っても抱っこしたまま。
「大丈夫? 怖くない?」
「う、うん」
ふと窓が目に入った。
「あっ、窓に――」
「ちょっ、お兄ちゃんっ」
ぎゅっと抱き着いてくるミウ。
だからこちらも彼女を離すまいと強めに抱きしめておく。
ちょっと怖がらせすぎちゃったかな?
どこか震えているような気もする。
「ごめんごめん。ミウがかわいかったからつい」
「もー。お兄ちゃん嫌い」
「だからごめんって」
軽く頭を撫でた後にお詫びのキスを頭にしておく。
そして、しれっとお尻に手を添える。
「ふん。お兄ちゃんなんか知らないっ」
「ごめんってば……」
おでこにもキスしておく。
ちらっと時計を見るとそろそろお風呂に入らないといけない時間だ。
一緒に入るのなら余裕はあるけど。
「お兄ちゃん。それミウじゃなかったらセクハラだからね? あと、それとなくミウのお尻に手を置くのも駄目だよ?」
「ご、ごめんつい」
ばれてるとは思ってたけどやっぱりばれてた。
でも手は退かさない。
「単にお兄ちゃんがしたいだけでしょ? えっちすけべへんたい」
「は、ははは。それでミウ。そろそろお風呂の時間なんだけど?」
「……一緒に入る」
「ん。わかった」
この状態なら一緒にお風呂も仕方ないだろう。
俺もミウと入るのは嫌いじゃないし。
何よりも、えっちですけべでへんたいなお兄ちゃんなのだ。
このイベントを逃すわけがない。




