第19話・妹と初デート
「今日は大丈夫そう?」
デートの当日。
特に寝坊したりするというトラブルはなく、最終確認を兼ねて部屋にいたミウに声をかける。
「う、うん」
ミウはいつになく真剣そうな顔で、肩に力が入っているようにも見える。
そわそわして落ち着かないという様子だったのだが。
彼女も緊張しているのかな?
「そのグレーの襟付きワンピース似合っているね? そのバッグもかわいいよ?」
まだ自宅ではあるが、服装やバッグをほめる。
こういう時、どこまで褒めていいかわからないけど、褒めないことだけはやってはいけないらしい。
ネットだけではなく、恋愛漫画とかでもその話はよく目にするし。
「あ、ありがと」
視線をそらしたミウがちょっと顔を赤くしていた。
チョロいと言ったら失礼だと思うけど、正直楽でいい。
ちょっといたずらしてみようかな?
ミウに近づいてそっと彼女の腰に手を回す。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「ふふ。かわいいよミウ。好き」
ストレートな感想を口にすると、ミウが固まった。
そして、一瞬で茹でたタコのように耳まで真っ赤になった。
あ、あれ?
思ったよりもダメージがあったかな?
「ミウ?」
「お、お兄ちゃんもデートのために気合い入れてくれたんでしょ? ネイビーのシャツと茶色のチノパンなんて持ってなかったんじゃない?」
声をかけると、意識が戻ったのか言葉を返してきた。
そんなに気合い入っているかな?
正直、店員さんに買わされた感が強いんだけど。
「まあね。店員さんに相談したらこの服をおすすめされたんだけど、どうかな? ミウの好みに合わなかったら別のにするけど……」
「だ、大丈夫だよ。似合ってるよ?」
「そう? ならいいんだけど……」
今日のミウはいつにも増して気合が入っている様子だった。
ベッドの上には色が違うワンピースにズボンや長袖シャツなども置かれている。
普段よりも早く起きてから準備していたのだろう。
これはしっかりとミウのことをリードしないと駄目そうだ。
そして、準備を整えて、家に鍵をかけた後。
「じゃあ、ミウ。行こうか?」
「うんっ」
そっとミウの手を取って声をかける。
彼女も手を握り返してきたので、そのままバス停へと向かうのだった。
――
水族館で入館料を払う。
最初はミウも出そうとしていたのだが、今回は俺がデートに誘ったので俺が出した。
仮にミウに誘われたとしても俺が出す予定だし。
そこそこの出費であるがミウのことを考えれば痛くも痒くもない。
財布をしまってからミウの手を取り、そのまま指を絡ませてみる。
ちょっと驚いた様子だったミウもしっかりと絡ませて返してきた。
普段よりも気持ちゆっくりめにミウと一緒に水族館を歩く。
最初の展示は熱帯魚であった。
展示されている魚の説明文などもあるが、正直、動画投稿主が趣味で投稿している水槽の動画と大して変わりない気がする。
「ミウ、お兄ちゃんとの初めてのデートだからとっても楽しいよ?」
「ふふ。俺もだよ?」
前世から憧れていた異性とのデート。
まさか異世界で実の妹とすることになるとは思わなかったけど。
普通に楽しいわこれ。
「ミウね? きっとお兄ちゃんとならどんな場所でも楽しめるよ?」
「そう? 俺もミウと一緒ならどんな場所でも楽しめるかな?」
それとなく顔色をうかがってみるも無理しているようには見えなかった。
むしろ、この関係を普通に楽しんでいるような様子。
土曜日なのでそれなりに人はいるものの、開館したばかりということもあり、そこまで多いと感じるほどではなかった。
ちょうどいい時間帯にバスが出ていたというのもあるが、ちょっと早めに来て正解だったようだ。
熱帯魚を見ながら水族館の中にある案内標識に従って進むと、今度は薄暗いところに出た。
「うわぁ、クラゲがいっぱいだよ。お兄ちゃん」
「おお。そうだな」
ライトアップされた水槽には、無数の水槽に白いクラゲが浮かんでいた。
偶に動画サイトで見ることがあるけど、やっぱり動画のものとは違って生で見た方が迫力がある。
前半の水槽はなんだったのだろうか?と思うほどだ。
ちらっとミウに目をやると、目を輝かせて水槽を見ていた。
反射するライトの光もあり、その姿がどこか幻想的に見える。
夢じゃないよねこれ?
つないだ手からしっかりと温もりが伝わってくる。
「すごいね?」
「あ、ああ……」
語彙力がないので月並みな感想しか出てこなかったけど。
それからクラゲを見て回るもすぐに見終わってしまった。
俺たちが来た水族館は、水槽での展示を中心とする小さめの水族館。
クラゲを含めて展示されているお魚の数はそれほど多くはなく、ゆっくりめに歩いて1時間ほどだ。
帰りにお土産コーナーに立ち寄ると、ミウはクラゲではなくイルカのぬいぐるみに一目惚れしていたのでそれを購入。
水族館を後にする。
それから、「デートにおすすめ」とネットに書いてあったカフェに立ち寄る。
落ち着いた雰囲気ではあるが店内は明るくて、清潔感のあるきれいなお店だった。
こちらも開店してからそれほど時間がたっていなかったため、スムーズに席に座れることができたけど。
お昼にはまだ早かったこともあり、デザートと飲み物だけを注文。
ミウは無数のイチゴが載ったイチゴタルトとミルクティーを選んだので、俺はバニラアイスが載ったふわふわのパンケーキとカフェモカにした。
そして、お互いに食べさせ合うようにタルトとパンケーキを一口ずつ交換。
どちらもおいしかった。
食事を終えて店を出るも、ミウの元気がちょっとなくなっていた気がしたので、予定を切り上げてまっすぐ帰宅する。
もちろん、帰りも恋人のように手をつないでいた。




