第16話・お兄ちゃんは一般じょーしき(常識)に欠けています
「あ、お兄ちゃん。今日の病院はどうだったの?」
学校から帰ってきたミウと合流すると、彼女がさっそくその結果を聞いてきた。
「ああ。特に問題ないってさ。だから病院でのリハビリは今日で終了だって……」
「それは良かったね、お兄ちゃん」
「ああ。問題があるとしたら、俺の一般常識が合っているかどうかなんだよね」
「あー、うん。わかった」
何か思い当たる節があるようにミウが顔を赤くしながら返事をする。
どうやら、ミウが思わず恥ずかしがるようなことで一般常識に欠けていることがあるようだ。
なんだろう?
「もしかして一般常識に欠けてる?」
「うーんとね。普通はね。妹のことを好きにはならないんだよ? それをお兄ちゃんが好きっていうから、そこがちょっと違うかなって……」
「あー、それはまああれだ。それが俺だということで。ほら、個性ってやつだ」
「個性……」
どこか遠くを眺めるミウ。
世間一般的には、俺はシスコン(シスターコンプレックス)に分類されるだろう。
でも、好きなものは好きなのだから仕方ない。
それにこの世界では近親婚が合法。
普通ではなかったとしても特に気にしてはいない。
元々妹ものが好きだったからね。
妹ものが好きなやつに、ミウのようなかわいい妹が出来たら誰だってこうなるだろう。
ブラコンな妹は正義なのだ。
「でも、ミウのことが好きっていうことは否定しないんだね」
「ん? 俺がミウのことを好きなことには変わりないからな。たとえ、片思いだったとしてもね。まあ、ミウに恋人が出来たとかなら、俺は家から出て行こうかなと思うけど……」
「お兄ちゃん。それちょっと極端すぎない?」
「あー、うん。自分でもそう思っているけど、そこは俺も男というわけで。これが普通のお兄ちゃんだったら、妹の恋路とかを応援しないといけないんだけど、俺には無理かな? だからこうやって、俺がミウの恋人に立候補しているってわけで。“妹を幸せにしてほしい”と他人に頼むぐらいだったら、“俺が妹を幸せにする”って言うよ?」
ちょっと告白じみた言い方になってしまったが、これは本音だ。
他人を信用できないというのもあるけど。
「お兄ちゃん。よくそんな恥ずかしいセリフを真顔で言えるね。もしかして前世で何か恋愛事でトラブルでもあったの? それで後悔しているとか?」
「うーん。そうだな。恋愛はしたことないからトラブルらしいトラブルはなかったけど、色々とあったことは確かだな……」
世の中的には普通の人に分類されると思うけど、それなりに苦労はしてきたつもりだ。
「たとえば?」
「そうだな。祖父母のお金遣いの荒さとか価値観の違いで母親がよくブチ切れてたとか、実は生まれる世界を間違えたような適性があるとか」
「なにそれ。最後の中二っぽいよ? お兄ちゃんのことだから、女の子に手を出し過ぎて背中から刺されたとかじゃなくて?」
「ミウ。お前のお兄ちゃんは前世でいったいどんなキャラなんだよ?」
「ヤリチ――節操なく女性に手を出す男ー」
今なんか言いかけなかった?
なんでそんな言葉知ってるの?
ミウはまだ中学生だよね?
俺の場合は男だし、前世の中学時代にエロサイトとかめぐってそういう知識を覚えたんだけど。
ミウは女の子じゃん?
そういうのには縁が無いように見えたんだけど。
「うーん。前世は夢に破れた50代のフリーターだったんだけどなぁ……」
それで死にたいと思ったら、イザナミ様にスカウトされて異世界転生することになったし。
ミウのようなかわいい妹をつけてくれたことには感謝してもしきれない。
普通、ラノベやエロゲの主人公というのは両親と子供だけの核家族で、団地にある一軒家やマンション住まいが基本だろう。
でも、俺の場合は祖父母と同居の三世代世帯だった。
それも、ちょっとした田舎にあるような、敷地は広いけど家が古いという一軒家で育ったのだ。
部屋は広かったが実家を出るまで自分の部屋なんてなかったし。
だからこそ、標準的な日本人の、いわゆる“普通の生活”というものに憧れたこともある。
そして、それと同時にラノベとかの主人公にはなれないなとも思ったものだ。
「それで恋人や娘はいたりしたの?」
「うんにゃ。年齢イコール彼女なし歴のただの童貞だったよ」
悲しいかな。
でも、後悔はない。
「えー……」
ちらっとミウの表情を見るも、なんかすごく胡散臭いものを見るような眼差しだった。
あれ、おかしいな?
事実なんだけど。
なんか普通に疑われてない?
「むしろなんでそんな節操のない男になるんだよ?」
「だってお兄ちゃんリードとか妙にうまいし。何かあったらミウを庇うように一歩前に出るでしょ? それに手をつないでいる今だってミウに歩幅合わせてくれるし、しれっと車道側歩いてるじゃん。家事だってできるし」
「そりゃあ、恋人だと思えば普通にできるだろ? 家事に関しては子供の頃からやらされてたから覚えた」
「ふーん。でも、それがお兄ちゃんのように普通にできないから問題になっているんだよ? ミウのお父さんもゴミ出しぐらいしかやらなくて、偶にお母さんと喧嘩になってたし」
「あー、そうなのか?」
前世でもあったようなことが今世でもあったのか。
「うん。だからお兄ちゃんが家事ができてびっくりしてるの。料理もうまいし。あ、もしかして料理関係のお仕事してたとか?」
「まあな。和食から中華に洋食まで幅広くやってた元シェフだ。あまりにもブラックだったから結局辞めちゃったけどね」
なんか隠せそうもなかったので素直に話しておく。
元々は手に職をつけるためと両親や祖父母への配慮でそっちの道に進んだ。
当時はオタクへの偏見もまだ強く残ってた時代だったし。
その結果、入りたかったアニメやゲーム関係の会社に就職せず、とあるホテルの料理人になった結果が今である。
おかげで小説家や同人作家を目指すのが10年も遅れてしまい、頑張ったけど、やっぱり年齢の壁には勝てなかった。
一番は才能の問題だろうけど。
料理人としても、その才能がある人に比べるとどうしても劣ってたし。
「そっか。それでお兄ちゃん。本当に妻とか恋人いなかったの?」
「うん。いなかったね。そもそも恋愛自体してこなかったから」
ミウに聞かれたので素直に答える。
「そっか。じゃあ、ミウが初恋なんだね?」
「あー。言われてみればそうかも。もしも重かったら言ってね? ほら、俺恋愛経験ないから」
「お兄ちゃん。それを言ったらミウもだよ? ミウは重くない?」
「俺は特に気にならないな。なんならもう少し重くてもいいぐらいだぞ? 好みの子が前提だけど、ヤンデレも嫌いじゃない。さすがに他人に危害を与えるような子は遠慮したいけど、ストーカーぐらいなら……」
現実は自分の好みではない女性からの行為だから問題になるんだと思うけど。
「だからお兄ちゃん。そういうところが駄目なんだよ? そのうち悪い女の子に引っかかって破滅しそうな感じがする」
「え、そう?」
「うん。だからミウがしっかりと見ててあげるね?」
そんな話をしていると自宅に着いたので、夕食の支度に取り掛かるのだった。




