# エピソード ## 「深淵王、目覚める」
# エピソード
## 「深淵王、目覚める」
深淵界。
光の届かない世界。
黒い海。
黒い空。
黒い大地。
その中心に。
巨大な玉座があった。
誰も近づけない場所。
深淵六王ですら、
膝をつく場所。
そこに座る存在。
世界最悪の災厄。
──深淵王。
閉じていた瞳が、
ゆっくり開いた。
黄金でもない。
赤でもない。
底の見えない漆黒の瞳。
その瞬間。
深淵界全体が震えた。
六王たちが顔を上げる。
ヴァルグもいた。
先ほどまで春と戦っていた男。
彼は静かに頭を下げる。
『王よ』
深淵王は呟く。
──『光を見た』
空気が凍る。
六王たちは息を呑む。
王が興味を示すことは、
ほとんどない。
深淵王は再び言った。
──『世界樹の光』
──『面白い』
ヴァルグの瞳が揺れる。
『危険ですか』
深淵王は少し考える。
そして。
意外な言葉を口にした。
──『違う』
──『羨ましい』
誰も動けなかった。
羨ましい。
深淵王が?
あり得ない。
だが。
王の視線は遠かった。
まるで。
ずっと昔を思い出しているようだった。
---
その頃。
雪の国ルミナス。
祭りは再開されていた。
街の人々は笑っている。
子どもたちも元気だ。
春たちは宿へ戻っていた。
そして現在。
レオナが叫んだ。
「優勝祝いだぁぁぁ!!」
テーブルいっぱいの料理。
肉。
魚。
ケーキ。
パン。
リリィが泣いていた。
「生きててよかったですぅぅぅ!!」
ミアは苦笑い。
「大げさね」
アリアは少し笑っている。
昔なら考えられなかった。
仲間と食卓を囲むなんて。
その時。
宿のおばちゃんがやって来た。
「英雄さんたち!」
全員振り向く。
おばちゃんは大きな箱を持っていた。
「祭りの優勝賞品だよ!」
結衣が目を輝かせる。
「スイーツ!」
箱オープン。
大量。
本当に大量。
リリィ絶叫。
「夢ですぅぅぅ!!」
レオナも笑う。
「食いきれるか!?」
結衣も嬉しそう。
だが。
春はあることに気づいた。
箱の中。
小さな星型のペンダント。
綺麗だった。
銀色。
青い宝石。
春はそれを手に取る。
結衣が首を傾げる。
「どうしたの?」
春は少し考えて。
そして。
自然に差し出した。
「結衣に似合いそう」
結衣。
停止。
数秒後。
顔面真っ赤。
「え」
春。
「?」
レオナ。
爆笑。
「またやったぁぁぁ!!」
ミア。
頭抱える。
「学習しなさいよ!」
リリィ。
机を叩く。
「天然最強ですぅ!!」
アリアは笑いを堪えている。
黒銀の羽根が舞う。
ルナはしみじみ。
「深淵王より破壊力がある」
「どういう意味!?」
結衣は震える手でペンダントを受け取る。
そして。
小さく笑った。
「……ありがとう」
大事そうに胸元へつける。
春も笑う。
「似合ってる」
結衣。
再起不能。
「もぉぉぉぉ!!」
宿中に笑い声が響いた。
だけど。
誰も知らない。
深淵王が目覚めた理由。
そして。
その王が持つ、
誰にも言えない過去を――。
---
### 次回
# エピソード
## 「深淵王は、なぜ泣いたのか」
(深淵王の過去と、この物語最大の謎が少しずつ明かされる――)




