ノダ・ヨシフミ: 今日まで
ノダ・ヨシフミ、37歳。
8年前、あの火事の夜、俺は確かに子供の姿を見た。
血の海の中、ただ一人立っていたのは、軍で使う暗視ゴーグルとヘルメットを着用して、上下黒の衣服を見にまとい、防刃グローブのようなものをはめた、―子供。背丈からして10歳にも満たないのではないか。
身に付けているもの全てがぶかぶかで、無理やりサイズを合わせたように見える。
インカムか何かで連絡を取りあっていたのか、はっとして、窓から飛び出て行った。
その日は仕事が早く終わったので、20時頃には家に着いていたと思う。
はやとは宿泊学習でいないから良いとして、家の中に気配が全くないのはおかしい。そう思って靴を脱がずにそのまま家の中に入ったが、居間は既に血の海だったのだ。
その子供が去ると同時に、家の何ヵ所からか爆発音が聞こえて、辺りは直ちに火の海に変わった。双子の両親二人ともを外に担いでいく時間はないと判断して、生命反応だけ確認した。
どちらも確実に息絶えていることを確認した頃には火に囲まれていて、火傷を負いながらも逃げおおせた。
去り際、「待て」と叫んだ俺の声に、子供は一瞬振り返ったようだった。
幸い、家が崩れる前に脱出できていて、目覚めたのは病院のベッドの上だった。しかし、すぐに軍の病院に移され、尋問が始まった。
帰宅した時間から爆発まで5分にも満たなかったことから早い段階で容疑は晴れたが、家の防犯カメラが確認されたことで風向きが変わった。犯人捜しはするなとの明確な警告が与えられたのだ。
かなめの捜索の時にも、明らかに妨害が入っていた。このままでは真相に近づくことはできない。
そうして、俺は特務機関に籍を移した。
かなめを探したい。双子の両親の死の真相を知りたい。
強い目的意識を持ち、目的を達成する為に手段を厭わない俺は、上層部にとって都合の良い駒と映ったようだった。
軍部もかなめを秘密裏に探しており、奪還を試みていたので、俺は定期的に与えられる任務で忠誠を示しつつ、情報を集めることに奔走した。
ひとつ心配だったのは、はやと。あいつがどうなるのか。
あいつもかなめ同様、何らかの理由でさらわれる可能性があるのか?
こちらは早期に回答が与えられた。
はやとは、ごく普通の子供であり、人質として使われる可能性はあっても、はやと自身に利用価値はない。だから、はやとの養育許可は早々に下りた。
はやととかなめを分けていることは何か?それは今も知らされていない。だが、かなめの存在は火星にあるとされる「大量破壊兵器」への影響があるとされている。
正直、突拍子のない話で信じきれていない自分がいるが、軍がかなりのリソースを投入していることからも真実なのだろうと推察される。
何の力もない7歳の奪い合いがあるとしたら、誰かがかなめの生体情報を悪用したのか?
二卵性ではあるものの、双子であるかなめとはやとの違いは何なんだ?
あの日、軍部の協力を得つつもあくまでも単独で火星に侵入し、かなめを連れ帰った。失敗した場合は、密入国者として傍観するために、あくまで政府とは無関係の個人としての救出作業となったのだろう。
かなめは沢山怪我をしていた。怪我の痕もたくさんあり、上下黒の衣服からは、細くやつれた首や鎖骨がのぞいていた。
体だけではなく、精神的にもしばらくは受診が必要だろう。
様々な疑問は残っていたが、かなめをサポートして生活に馴染ませる日々が始まり、それどころではなくなった。
俺は与えられた情報やその後の健康診断からかなめがどんな生活をしていたか察せられたが、はやとはいまだに接し方を迷っているらしい。
聞かない幸せがこの世にはあると思う。でも、はやとのそれは「聞きたくないことを聞かない」とどう違うだろうか。心のどこかでなめの過去に想像がついている様子があるが、それを受け止めきれておらず、かなめもそれを開示するか迷っている。
二人が本心を打ち明けるのか、介入が必要かは見極めねばならない。世話の焼けることだが、まだ15歳。仕方ないことなのかもしれない。
軍部からの呼び出しと任務は未だに続いている。かなめが帰ってきて「全て解決」とはならないようだ。
願わくば、今の生活がずっと続きますように。




