表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/28

4ヶ月後: いつもの帰り道

 放課後の先生からの呼び出しは、昼の出来事についての事情聴取だった。

 先輩がなんでもないと説明してくれたものの、「どうせはやとが妹の事で先輩に難癖をつけて用具室に呼び出したんだろう。」とこのとで、話を聞くべく呼び出したらしい。濡れ衣である。


 もちろん、これまでの俺の生活態度と先輩のそれとは比べるべくもないので、この理不尽を大袈裟に訴えるつもりはない。


 だけど、先輩が接触してくる可能性がある今、あまりかなめを一人にしたくない。

 先生からの事情聴取と軽い説教を終えて、小走りでかなめの教室に向かう。


 と、壁を殴り付けるような大きな音がした。


 慌てて教室の中になだれ込むと、ひどく苦々しげな表情を浮かべる長谷川先輩を手前に、奥には笑ってこそいないものの、少し明るい顔をしたかなめが立っている。   

 ここ数日のぼんやりした表情が消え、目元や表情がはっきりしているようにさえ見える。

 その差に驚いていると、かなめが先輩の横をすり抜けて近づいてくる。


「はやと、先生のお話大丈夫だった?」

「おう、大したことなかったよ。…先輩と何かあったか?」

「なんでもないよ。帰ろう。」


 先輩はそのまま振り返らず、項垂れている。


「本当に良いのか?先輩、なんか…」

「大丈夫だよ」


 かなめに手を引かれ教室の外に一歩踏み出した。


挿絵(By みてみん)


「かなめちゃん。」


 かなめは振り返らずに、足だけを止めた。空気が張り詰めたような気がした。


「僕は、君が好きだよ。君さえ望めば、何でもする。それだけは忘れないでいて欲しい。」


 かなめは先輩の言葉を聞き届けると、俺の袖を静かに引いて再び廊下へ歩き出した。



 しばらくの間、無言で歩いた。

 長谷川先輩の言葉にはすがるような必死さがあったし、同時に誠実な響きも感じられた。

 一月前に会って毎朝話す程度の関係から得られるとは思えない感情の重さを感じとり、はやとの感じる違和感も大きくなっていく。


 仮に二人が知り合いだったとしよう。…どこで出会った?


 かなめは、8年間行方不明だった。あらゆる公的手段を使って探したし、噂レベルでも良いからと、ネットにも大きく拡散した。


 分かったのは8年前のあの雪の日、喧嘩して俺がかなめを置き去りにしてから、忽然と消えてしまったことだけ。たった5分程度だったのに、かなめはいなくなって、監視カメラもその5分だけなぜか記録されていなかった。…半径4キロ以内の路上監視カメラ全てが、だ。


 独自に調査もしていたが、一年ほど経って家が放火された。

 放火され時刻には、何らかの(子供には言えない)理由で両親は既に亡くなっていたとのことだったが、そう俺達に告げた刑事は二週間後に遺体となって見つかった。


 かなめが急にいなくなって、怪我はしていたものの五体満足で見つかった以上、あれは誘拐だったんだと思う。7歳の女の子をさらうのだから、―考えたくないが、小児性愛者(ペドフィリア)か人身売買くらいしか思い付かない。

 が、どうしてもその後の放火と、刑事の死が無関係とは思えない。


 そんな中で「以前出会った」としたらどこなのか。犯人がかなめを学校に通わせていて、そこで出会った?

 いや、それならかなめはもっと早く見つかっていたはずだ。例え名前を変えられ指紋を削られても、国民は皆DNA登録が義務付けられているから、入学か健康診断か…何かしらのタイミングで識別されて発覚されたはずだ。


 じゃあ、先輩と犯人との間に何らかの接点があって、かなめと顔見知りで、助けられなかったことに罪悪感を持っているとか?いや、助けが必要ならば通報しただろう。それにかなめ自身は先輩を知らない風だった。


 思考の海に沈んでいると、不意に袖を引っ張る感触があった。正確には、かなめが立ち止まったようだった。


 はやとが振り返ると、ちょうどかなめの頬を汗が一筋流れたところだった。かなめは、どこか遠くを真剣な表情で凝視している。


 ここ数ヵ月、こういうことは度々あったが、かなめの硬直は長くても数分程度なのではやとは静かにかなめを待った。ただ、今日だけは何か落ち着かない心地だった。


 いつの間にか帰り道の桜並木まで来ていた。

 車も通らず、蝉の声しか聞こえない。汗でシャツが背中に張り付く。

 まるで蝉の声に合わせて、はやとの胸の内の不安が膨れ上がっていくようだった。


 耐えきれなくなって、はやとが口を開いた瞬間、ちょうどかなめも硬直を解いて、はやとに視線を写した。

「おまたせ」

「かなめ、何が」

「帰ろう?」


 いつものニュートラルなかなめの表情だったが、声色に有無を言わさない圧を感じて、はやとは口を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ