姉、戸惑い驚く
「あくやく、れいじょう?」
ディランからの突然の言葉に、
理解が遅れ、こぼした自分の声に
考える素振りをし、目を閉じ顔を上げる。
悪役令嬢って、
物語で悪役に仕立てられた令嬢だよね?
え? 私が寝言で言ったの?
どうしよう?
どう、言えばいい?
お姉ちゃんが生まれる前に読んだ
物語で出てくる登場人物だよ。
そういえば良い?
この話をするなら自分の前の人生の
話をする事になる。
ディランはどんな反応をするだろう?
フレディは?
ルイは?
お母様もお父様は?
言い出す勇気が出ず、様々な言い訳を
浮かべていると、
「ミランダ嬢の事ですか?」
フレディの声に、慌て瞼を開け
顔を向けると、真剣な表情をしており
「一時期吟遊詩人が歌い流行らせていた
物語は隣国の王家の1人と平民の女性との
恋物語」
領のいた頃に噴水広場で聞いた物語を
思い出し、何が言いたいのが先が読めず
「ええ、そうね」
返事を返すと、
「その中に王家の1人と幼い頃から
婚約していた者が登場してきます」
この歌で悪役令嬢として仕立てられてのは
ミランダ。
幼い頃より王家に仕え支える為に、
礼儀に勉強とこなしてきたミランダは、
王族と平民との恋を邪魔したとして
領地から追放された。
ミランダ自身が告げたのではない。
ただ、ミランダが領に来た時期が近く、
噴水の広場で吟遊詩人が歌を聞いた時に
ミランダの行動で、
一緒にいた、私とルイはなんとなく
察した。
ディランもフレディも直接会った事は
無いけれど、私とルイの話を聞き、
調べて知ったんのならば、
私より、ミランダの生家の事情に詳しい
はず。
「何かありましたか?」
誰、とは言葉にしないものの、
話の方向から告げられているのは
ミランダの事。
「いいえ、何も」
ミランダとは紙工房の方針の話と
雑談しかしていないわ。
そう伝え、ゆるりと首振り否定すると
「そうですか」
微笑みと共に納得の言葉を
フレディは告げたものの
これは、信じてないわねぇ。
音の無い言葉を心の中に溢し、
どう説明をすれば良いのか答えが
見つからないまま、
馬車は学園の門を潜り、降りる場所
へ到着し
開いた扉からルイとフレディが下り
ディランが
下りた後、
「姉様」
ディランの声に誘われ椅子から
立ち上がり、差し出されている手に
自分の手を乗せ馬車から出ると、
ディランから手を離され、
「姉様、昨日の体調不良はまだ取れて
いないかも知れません、無理をなさらず
お過ごしください」
視線を合わせ告げられた言葉に、
「お心遣いありがとう。
気をつけるわね」
自分も目を合わせ返事を返せば、
「何かあれば、ルイに言ってください」
「分かったわ」
お互いに頷き合い、
「では、行ってきます」
ディランとフレディに手を振り
ルイと共に校舎へ向かって歩いた。
いつも通り。すれ違う後輩の子達や
クラスメイトと挨拶を交わし合い、
途中でピンク色の髪の女性生徒から
の視線を気付かないふりをし教室へ
「おはよう」
扉を潜ると共に挨拶をすると、
教室に居たクラスメイト達から
「おはよう」
朝の挨拶を返して貰い、
自分の席に向かえば、
「おはようございます」
桜色の髪を持つマリーの
嬉しそうな微笑みと共に
「エスメさん、ルイさん、
おはようございます」
「おはよう、マリー」
「おはよう」
互いに朝の挨拶を交わし、
少しの談笑をしたのち、
講義の時間となった。
昼食の時間もいつの間にか
恒例となった庭園の散歩に出れば
貴族クラスの女性生徒が涙を溢して
おり、刺繍の入ったハンカチを
差し出し、
頭りの悲しげな顔に、
慰めるように頭をひと撫ぜし
素早く去る。
そして午後の授業に放課後は
マリーの淑女教育
毎日、同じではなくても
よく似た事が続いていくのだと
思っていた。
「久しぶりだね、エスメさん」
そう声をかけられるまでは。




