姉、うつらとする
馬車の中の雰囲気にままマルチダへ
視線を向けると一瞬にも満たない
程だったけマルチダは目元を動かした。
けれど、
「お帰りなさいませ、エスメ様」
メイドの見本通り感情を一切出さず
出迎えの挨拶をくれたので、
「ただいま」
挨拶を返したが、困っているのだと
マルチダに視線で助けを求めると、
「昨晩からでお疲れが出ておりませんか?
暖かな飲み物と菓子を準備しております」
どうぞお急ぎ部屋へ。
そう言うと誰もが口を開く事なく
屋敷へと足を進め自室へと向かった。
ディランとフレディにルイと別れ
自室に入るとすぐさま制服を脱ぎ
生成りのワンピースへと着替えると
不思議と眠気がやってくる。
おぼつかない足取りでソファへ
腰を下ろし、マルチダが用意してくれた
甘くて暖かな蜂蜜とミルクがたっぷり
入ったミルクティーに大好きな
クック長特製のキャロットケーキ。
眠気がやってくる中、甘いミルクティー
を飲んでいると、遠くからノックの音が
聞こえた様な気がし、マルチダに視線を
向けると、自分の意図を感じ取ってくれ
扉へとむけ歩きだし、対応をしてくれ、
「姉様。お疲れの所、失礼します」
聞こえてきたディランの声に
ゆっくりとを視線を向けると、
申し訳なさそうに眉を下げ自分へ
近づいてくるディランとフレディと
ルイが見え、出迎えるべき
立ちあがろうとするも、
「姉様、そのままで」
ディランの静止の声に動きを止め
隣に座るのを視界の端に入れつつ、
ソファを挟み正面にルイとフレディを
立っている姿に首を傾げると、
「長居はしません。
領での話を聞きたいんです」
ディランの言葉に、
そうだ、たくさんはなしたいことが
眠さの中、話す順番など考え付かず
思い付いた事を伝えてゆく。
お祖母様もお祖父様も元気だった事。
一晩中ミランダと話して楽しかった事
「姉様、ミランダ嬢は姉様へ何か
仰っておりませんでした?」
大きな手に包まれ、尋ねられた質問に
「えっと、
気をつけなさい。と言っていたわ」
何度も繰り返し告げられた言葉を思い出し
ディランに伝えると、
「何を、
気をつけなければならないのですか?」
どこか真剣で硬い声で尋ねてくるが
可笑しくて、小さく笑っていると、
「姉様」
咎める意味を込め呼ばれたが、
「1回しか話した事ない女性生徒に
気を付けなさいと言われたわ」
なぜそんなに深刻なのか分からず
微笑みながら告げると、ディランの
呼吸が一瞬止まった様な音が聞こえたが
「そうですか。姉様を思っての言葉。
どうぞミランダ嬢の言葉をお心に止め
てください」
「そうね。気をつけるわ」
ディランの言葉に頷いた後、
そうだ! と、思いつき
「ミラの話をしたの。勤勉で優しくて
面倒見も良くて、街で評判なんですって」
眠気がある中、思い付いた事を伝え、
フレディを見つめると、表情は一切変えず
聞いている姿に、
「街のお母さん達が自分の息子の嫁に。と
虎視眈々と狙っているそうよ」
嫌味と言わんばかりに伝えても、
大人の余裕なのか、紳士のように
微笑むだけで狙っていた反応は無く、
じっと見つめると、眉を下げわざと
困った表情を出してくるので、
「全て、『ありがとう。
私には大好きな人がいるの。だから
ごめんなさい』
そう断っているそうよ。
良かったわね、フレディ」
同様に大袈裟にため息を付き
告げると、はつりと瞬きをした後、
無言で微笑みの表情を作り返事として
返してきた。
ああ、腹ただしい。
気にしていません。と言わんばかりの
態度に苛立ちを覚え大きなため息を
落とすと、一気に眠気に襲われ、
手で隠しながら口を開け欠伸をする
フレディから嗜める視線を受けたが
ディランの手、あったかい。
「ディランの手あったかいわ」
微睡へと誘われ、遠くから自分を
呼ぶディランの声が聞こえつつも
領でミランダから告げられた言葉が
混じる。
そうか、ミランダは自分と同じ様に
ならない様に。と言いたかったのか。
婚約者に言われなき冤罪をかけられ、
ドレスのまま闇に放り込まれた。
ミランダの心情はどうだったのだろう?
前の人生で娘から聞いた主人公の様に
悔し思いつつも、
王族の婚約者として
学園内の最高位の公爵令嬢として
凛として立ち振る舞ったのだろう。
今はどうだろう?
領に来て、自立できる様に令嬢の
時にはやらなかった自炊もしていると
手紙で書かれていた。
紙刺繍工房もミランダの知恵と手腕に
人柄もあってここまで大きくできて、
家庭内で家事をしていた多くの女性が
工房で働き、
また、働きたいと夢みてくれていると
聞く。
ミランダあっての紙刺繍工房の繁栄で
多分だけど後継者はミラを指名するはず。
長きに渡り継続できる様にと、使用品も
ご婦人方の購買力を掻き立てる販売も
将来国営の為の流行を作る為、学んだ
知識を存分に使ってくれているからで、
感謝しても仕切れなくて、
もし、
もしミランダが、
見返してやりたい。
そんなん気持ちはもう無さそうだけど、
そう思うならば、
「あ…、れいじ…ょに」
思い浮かんが考えに首を振り、手招き
する睡魔と、
遠くから途切れ途切れに聞こえる
ディランの声に聞かなければと
思うも
意識は眠りの底に落ちた。




