ゴブリンの長 ゴブロー
ゴブリン族をまとめ上げる者──ゴブロー。
森のハイゴブリンの長で、春夏との戦いに破れた後、不思議な現象が起きたことにより配下になった。ハイゴブリンの中ではかなり恵まれた大柄で身長が2m程度ある。
いずれ彼は、マーンズ大森林に住むハイゴブリン族の頂点に君臨することになる。
ハイゴブリンとは、その不思議現象により進化したゴブリンの上位種であり、見た目の特徴は耳が長く平均的な身長が150cm程度で少し小さい以外は、ほとんど人間と変わらない。肌の色も当然緑ではなく、人間のそれと同じである。ただし、ゴブリンだった頃の名残で、肌のメラニン色素が極端に薄く色白で、特に幼児は日光に弱いが成長も早いためあっという間に大人になるため、その影響は少ない。
内面的な特徴としては、陽気でお祭り好きくだらないことでよく笑う。
感情の動きが激しく、笑うのも泣くのも怒るのも人間から見たらとにかく大げさで、かえってコミカルな印象を受けてしまう。
そのハイゴブリンの最大の特徴は、繁殖力である。つまり多産なのだ。一度に5~8人程度の子供を生む。成長も早いのであっという間に大人になり、次の世代を生んでいく。この特徴もゴブリンだった頃の名残である。
神話の時代の話だが、原種つまり在来種であるゴブリンは元は人間種だったらしい。
遠い昔、とある人間が大罪を犯した呪により、その者の住む村の全員が醜く弱い存在にされてしまったのだという。
そして、厳しい自然界で淘汰されずに生き残るには、種として強くなるか淘汰される数を凌駕するほど子孫を多く残すかの2択だった。しかし、前者は呪いにより許されなかった。
その結果として、多産なものだけが淘汰されずに生き残ったという説を唱える魔物学者がいるようだ。
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ゴブロー視点。
「グォオオアアアアアアアアアアア!!!(なぜだ!!!)」
腕輪に込められた呪いにより、狂乱状態のゴブリンロードが春夏の構える大盾に渾身の一撃を加える。
「ガァァァアアアアアアアアアアア!!!(なぜ勝てんのだ!!!)」
怒りに支配された頭で必至に目の前の敵を排除することだけを考える。
後先かまわずに腕輪に込められた禁呪の鎧まで使った。
私は勝たねばならんのだ。
絶対に勝たねば・・・。
──咲き誇る氷の花
◇
「ほんぎゃあ!」
隣の部屋から赤子の泣き声がする。ここは春夏様に用意して頂いた新しい住処である。
どうやら、うたた寝をしてしまっていたようだ。
私はゴブロー。
私はハイゴブリン1356人をまとめ上げる者。
ハイゴブリン族最強の戦士ハイゴブリンロードである。
ゴブローと言う名は、春夏様に直々に名付けて頂いた誇り高き名だ。ゴブリンの長としての誇りをそのまま表して下さった素晴らしい名前である。
春夏様とは我々の救世主である。
私があの時に使った禁呪の鎧は、周囲に死を与え最後には使用者の命までも蝕まれるものだった。春夏様たちが私を止めてくださらなければ、我ら一族は滅んでいただろう。
私以外の者も名は頂いたが、頂いたのは春夏様からではなくアイカ様からだ。一部のものは私だけが春夏様から名を頂いたことに不満を口にしていたが、我らが主君たる魔王様に向かって、不敬な態度を取るなど大切な同胞と言えどあってはならん。
故にしっかりとお灸を据えておいた。
(まったく、誰があのような者の指導をしておるのか)
と言いたくなるが、彼らの長は私である。
私は以前から、皆を率いてきたはずなのだが、春夏様に助け出される前の記憶がはっきりせず曖昧なのだ。たまに、ああして夢に見る程度である。
しかし、過去など関係ないと春夏様はおっしゃった。
それ故、今の私にあるのは、春夏様の忠実な臣下として全身全霊をかけてお使えし、我ら部族が一丸となり忠を尽くすのみである。
まずは春夏様から「子育て頑張ってね」と命令を受けた故、部族の総力を結集し育児に励むのである。
数は力だ。
一人でも多くのハイゴブリンを育て、春夏様のお役に立つのだ。
「ほんぎゃぁ!ほんぎゃあああ!」
おっといかん。
我が子が泣き出してしまった。
158番目の子である。
こうしてゴブローは、部族の先頭に立って子育てに全力を尽くすのであった。
◇
「どうちまちたかー?おなかちゅきまちたかぁ?」
「ほんぎゃあああああ!!!」
傷が刻まれた渋い顔立ちに全く似合わない、なれた手付きのゴブローが、泣き叫ぶ赤子を抱きかかえる。
すかさずアイカ様から頂いた魔法袋から哺乳瓶なるものを取り出し、赤子の口元へ運ぶ。
「んぎゃぁあああ!!」
「ごめんねぇ。おなかいっぱいでちたねー。」
ふむ、ミルクでもオシメでもないか。
赤子の世話をしていて分かったことがある。赤子は何も理由がなくても泣くことがあるのだ。
だが、この子は特にそれが顕著である。
どうしても気になったので一度、アイカ様に相談したこともある。
◇
「アイカ様、やはり何かの病気か呪いなのでしょうか。」
私は恐縮しながらも、アイカ様が春夏様と共に視察にいらっしゃった際に、我が子について相談してみた。
「これは病気ではなさそうですね。
しかし呪いですか。いえ、呪いでもないようですね。」
急に私から質問されたアイカ様は、一瞬面食らったような顔になったものの、快く答えてくださった。
春夏様は偉大だが、こういうことに関しては、やはりアイカ様のほうが頼りになる。
「では、何なのでしょう?」
私は大切な我が子のために、アイカ様に食い下がって繰り返し質問した。今にして思えば失礼な行為だったと思うが、アイカ様は寛大にお答えくださった。
「心配でしょうが、問題ありません。いたって健康ですよ。
強いて言うならこの子の個性だと思ってあげてください。」
「おお、ありがとうございます!アイカ様!」
アイカ様の言葉に、胸のつかえが取れたような気がした。
(個性か。なるほど。)
確かに、良く泣く子、全然泣かない子、無き声が大きい子、小さい子と、皆様々だった。理由が分からないくらいで不安になる必要もなかったかもしれない。
「大丈夫、私も赤ちゃんの頃は全然泣かない変な子だったらしいからね。」
春夏様もこうして元気づけてくださったので、私の心は随分と軽くなった。
「ありがとうございます。」
「お気になさらず。」
「イクメンも大変だね。ファイト。」
春夏様が帰り際に「子と孫が一緒に育てられるってファンタジーだね」と、言っていたが"ふぁんたじー"とはどういった意味なのだろうか。素晴らしいとか素敵という意味だろうと私は解釈した。
お褒めに預かり光栄の極みである。
こうしては居られぬ。より一層子育てに励むのだ。
◇
「ほんぎゃぁ」
「よーしよーし。もうだいじょうぶでちゅよー。
べろべろばー!」
そうして甲斐甲斐しく赤子の世話をするゴブローであった。
赤子の名はボルグ。
この子は、やがて類まれな才能を発揮し魔王軍の幹部として大いに活躍することになるのだが、その才能に気づいている者は今はまだ誰もいない。
ただ一人、アイカを除いては──。
今回はゴブロー視点のお話でした。
他作品でハイゴブリンというものが出てきているかも知れませんが
それとは設定が異なるかもしれません。




