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将来の夢は魔王になることです!  作者: 月之木ゆう
第四章 獣人国家ユグドラシル
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─母なる大樹─ 宣戦布告

開戦の前日。


獣人国家ユグドラシルの元老院の意見により、遠方から砂漠を越えて進軍する彼らは、長距離の移動により疲弊していると考えられていた。そのため防衛戦に徹することが得策だろうというのが彼らの予想だった。

しかし、それは間違いだった。使役する魔物に騎乗して移動するフォーレルーン聖王国の軍勢は、ほとんど疲弊すること無く進軍していたのだ。



進軍するフォーレルーン聖王国を迎え撃つのは、獣人国家ユグドラシルの誇る軍勢である。

世界を旅した元冒険者ゴードスを筆頭に、王国最強のダイガスそして、彼と肩を並べるほどの戦士ディーベルが部隊を率いて、最前線で指揮を取る。その後方にティーナが率いる遊軍が布陣していた。


魚鱗の陣や鶴翼の陣、それに偃月の陣。

彼らは、これらの陣形を駆使して、砂漠の民の軍勢を迎え撃った。兵法に精通しているものは少なかったが、エルフの里で得た知識を活用し、彼らは万全を期していた。

獣人国家ユグドラシルの民は、戦闘訓練、武具、そして兵法と、短期間ではあるがあらゆる手段を使って戦争の準備を進めていたのだ。


──全ては母なる大樹──世界樹ユグドラシルを守るために。


◇◇◇


フォーレルーン聖王国の軍勢は、戦術など意味を成さないほどの圧倒的な強さを誇っていた。

彼らは、大量の魔物を使役しており、その中にはジャイアントスコーピオンやデザートオルトロスなどの大型のものも存在し、多くの兵が蹂躙されていった。


森が、大地が、民が──

──フォーレルーン聖王国の圧倒的な軍事力の前に蹂躙されていく。


そんな中、敵の侵攻を食い止める者がいた。


王国最強のダイガスが率いる部隊である。

彼らは、ジャイアントスコーピオンとデザートウルフに騎乗する人間族の部隊の猛攻を必死に抑えていた。


しかし、死を恐れず狂ったような勢いで突進してくる魔物の攻撃により、一人また一人とやられていく。

中でもジャイアントスコーピオンは特に凶悪だった。猛毒の毒針の攻撃は一度受ければ今の獣人族には回復手段はない上に、左右から繰り出されるハサミによる攻撃も一度でも受けたらそのまま死に直結する。


だがダイガスの王国最強という名は伊達ではなく、隊の先頭に立ちジャイアントスコーピオンの猛毒を持つ毒針とハサミによる連続攻撃を防ぎ続けていた。

しかし、敵の人間族がマジックアイテムを使い、ジャイアントスコーピオンに強化魔法をかけた事により、状況は一気に悪化した。

更にそこへ人間族のボウガン部隊が投入され、ついにはダイガスも肩に矢を受けてしまう。

それによって生まれた隙をつかれ、ジャイアントスコーピオンの猛毒の毒針が迫る。

しかし、彼の"天性の感"はこう囁いた。


(避ける必要は無い。攻めろ。)


ダイガスがその声に従って、大剣を大上段に構え渾身の力を込めて振り下ろす。しかし、毒針による攻撃のほうが速かった。崩御できない体勢のダイガスの眼前まで猛毒の毒針が迫る。


──我が生涯に一遍の悔いなし。


いままで"天性の感"で生き抜いてきた。

仮にその感に従って死んだとしても、悔いはない。そう思った彼は死を覚悟したが、それでも剣を振り下ろす勢いは緩めなかった。


──アース・バインド


澄んだ声でそう叫んだのはティーナだった。

遊軍である彼女の加勢により、状況は好転する。

彼女がスクロールを用いて放った魔法によりジャイアントスコーピオンの動きが止まったのだ。

ダイガスはこうして九死に一生を得たのである。


ズシャッ!


ダイガスが渾身の力を込めて振り下ろした大剣により、ジャイアントスコーピオンの毒針が切り落とされ、二の太刀で胴体に致命の一撃を加えた。


◇


それから局所的には善戦するも、戦局は火を見るより明らかだった。圧倒的な敵の猛攻の前にユグドラシル国王は、敗戦を悟ったのである。守るべきは母なる大樹か、民か、国王は苦渋の選択を迫られる事となる。

そして、王は母なる大樹である世界樹を捨て、民が生き残る道を選んだ。


民を先導するのは猿獣人のゴードスである。国王は彼に対し、可能な限り多くの民を救うように最後の命令を下した。

冒険者としての経験がある彼ならば、民を連れて遠くまで逃げられると判断し、希望を託したのだ。


そして国王は自ら殿軍を指揮し、民が逃げる時間を命をとして稼いだのである。ダイガス、ディーベル、ティーナを含む獣人の精鋭部隊が王の指揮の元、傷を受け血を流しながらも一歩も惹かずに殿を努め抜いた。


──我、死して尚、魂は我が同胞と共にあり。


身体にいくつもの矢を受けた王は、最後にそう言い残して戦場に散っていった。こうして、王が自ら時間を稼いだ事により、多くの民が脱出することに成功したのである。


王を失った事により殿軍の兵の間に動揺が走る。

そんな士気の変化を敏感に感じ取ったダイガスが、ティーナと視線を交わす。

そして、ディーベルに告げた。


──息子を──ティグリスを頼んだぞ。

──あの子たちを守ってね。


二人の言葉の意味をディーベルが理解した時には、王国最強のダイガスは敵に特攻を仕掛け、魔物と人間族をまとめて蹴散らしていた。それに続いて、完全に白豹の姿となったティーナも人間族を切り刻み、魔物を鋭い牙で仕留める。


あの二人はどうしていつも──。


心のなかでそうつぶやいたディーベルの声音は呆れの色が滲みつつも、決意に満ちていた。

そうして、生き残った殿郡を引き連れ、敵の包囲を突破し戦場を後にしたのである。


◇


それからまもなくして、獣人国家ユグドラシルの王都である世界樹は人間族の手に落ちる事となった。

王都が落とされてからは、人間絶対主義の彼らによって周辺の村々も次々に焼き払われた。


この戦争で捉えられた獣人族は、隷属の腕輪を着けさせられ奴隷として働く事となる。

その中には戦士ダイガスとティーナも含まれていた。


そんな中、逃げ延びたゴードスとディーベルを始めとする一部の獣人は、世界樹から遠く離れた深い森の中でひっそりと暮らし──

──捉えられた彼らを救い出す機会を密かに伺っていたのであった。

次回、奪還作戦。

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