─母なる大樹─ 宣戦布告
世界樹の枝の貿易を絶たれたザシュトール王国の民は、水不足に陥り多くの死者が出る事態となっていた。
砂漠の王は、民の不満を抑えるために、亡命してきたユグドラシルの王族を見せしめに処刑した。
しかし、水不足はそんなことでは解決するはずもなく、再び民の不満が溜まっていく。そして、それを抑えるためにユグドラシルの王族が連れてきた獣人の使用人や兵士も次々に処刑されていった。
こんなことが続いたため、民の獣人や亜人を排斥しようとする動きは一気に高まり、人間族絶対主義の国家へと変貌を遂げていく。数年後には、国名がザシュトール王国からフォーレルーン聖王国へと改められた。
新たな国の君主である法王はこう言った。
──人間に祝福を。亜人に裁きを。
国民の意志が統一されているからか、そこからの動きは驚くほどに早かった。
獣人国家ユグドラシルとの戦争に向けて動き出したのである。
従軍する兵士に対しては水の配給を増やすと触れ回ったこともあり、徴兵が始まると多くの民がこぞって志願した。
こうして軍隊が組織され、あっという間に戦争準備が整っていったのである。
◇
一方で、宣戦布告を受けた獣人国家ユグドラシルも、慌てて軍を組織することになる。
獣人は、元々身体能力も高い。
それに、狩猟で培ってきた身のこなしも一流であり、そこらの魔獣相手であればそうそう遅れは取らないだろう。
しかし、人同士の争いに慣れている者は少数だった。
そんな中、名乗りを挙げたのが冒険者として世界を旅して回った経験のある猿獣人のゴードスだった。
彼は、若い頃に国を飛び出し大陸中を回った戦士だった。彼は様々な国を旅する中で、人との戦いを身に着けていったという。
彼の指導の元、ユグドラシルの民は対人戦闘技術を習得し、戦争に備えたのである。開戦までの期間は短く訓練は非常に厳しいものだった。
しかし、彼らには優れた身体能力と豊富な森のめぐみがあった。よく鍛え、よく食べ、よく休んだ獣人たちは、短期間で一流の兵士に仕上がった。中でも、ある3人の獣人の成長が著しかった。
虎人族のダイガスと、狼人族のディーベル、そして猫獣人の娘であるティーナだ。
特に、ダイガスは短期間で師匠であるゴードスを越えるほどの強者へと成長し、王国最強の戦士と呼ばれるようになった。そして、そんなダイガスに勝るとも劣らない強さを誇るのがディーベルである。
彼は、単純な剣の腕だけならダイガスに劣る。しかし、彼には獣人の固有能力である獣化の才能があった。彼はダイガスと毎朝、訓練の前に模擬戦を行い獣化の特訓をしていたのだ。
獣化したディーベルは、腕力が驚異的に上昇する。
しかしそんなディーベルの圧倒的な威力の攻撃を、王国最強と呼ばれるダイガスは天性の感で避け、カウンターの一撃を加える事ができる。ダイガスが王国最強と呼ばれるのは、単純な肉体能力や剣の技術だけではなく、先祖から受け継いだ”天性の感”を持っているからだった。
そんな彼らと肩を並べる存在、それがティーナである。単純な腕力や技量だけであればダイガスとディーベルのほうが強い。
しかし、彼女には敵の動きを鮮明に捉える目と、ディーベルより数段上の獣化能力があった。彼女が獣化すると、体格まで変化し、俊敏さが飛躍的に向上するのだ。彼女にとっては、王国最強と呼ばれるダイガスの渾身の一振りでさえ、スローモーションのように感じるという。
一度、ダイガスとディーベルが二人がかりでティーナと模擬戦をしたことがあるが、意外なことに引き分けに終わった。
獣化したティーナは二人の攻撃を一撃も食らうことは無かった。しかし、非力な彼女にとって、鍛え抜かれた筋肉と毛皮の鎧をまとう彼らに、木剣で決定打となるような攻撃を加えることは出来なかったのである。
仮に、模擬戦用の木剣ではなく真剣だったなら結果は違ったのかも知れないが──。
少なくとも獣化した彼女に攻撃を当てられる者など、獣人国家ユグドラシルには存在しない。
◇
こうして、卓越した対人先頭技術を持つ獣人の軍隊が整っていったのである。
だが、軍隊に必要なものは技量だけではない。
敵を殺し、己を守る武具も必要なのだ。
新しい国王の命により、ドワーフの国からは武器や防具を、エルフの里からは回復薬や魔法のスクロールを購入した。皮肉なことに、砂漠の民が納めてきた財宝と引き換えに、戦争に必要な物資は余裕を持って集めることができた。
こうして戦争準備は着々と進められ、まもなく開戦となった。
しかし、この時彼らは知らなかった──
──砂漠の民が魔物の大群を使役する手段を有していることを。
次回、開戦。
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人、亜人、獣人、獣化、人間族など種族を示す単語が出てきたので、幕間にて簡単に説明しようと思っています。気になる方は御覧ください。(読み飛ばしていただいても構いません。)




