進化
~ゴブリンロード視点~
俺はゴブリンの長。
我ら部族をまとめ上げるものだ。
我々の部族は数が増えすぎた。
生き残るには食料が必要である。
森の獣や木の実はとうの昔に食べ尽くした。だが飢えにあえぐ生活は一向に終りが見えなかった。木の皮まで食べたが、もう食料はない。
あいつら以外は──。
部族が生き残る近くに住む他のゴブリン部族も襲った。
それでも足りない。
なら残る手段は一つしか無い。
「ココオソウ」
獣人どもが生活している村を襲うことにしたのだ。
獣人は強い。
だが幸いにも今や我々の部族は200匹以上いる。おそらくこの戦いで多くのものが命を落とすだろうが、数で押し切るより他に手はない。
「イケ」
我らが部族の強者ファイターとウォーリアを中心に小さな隊を作り、一気に獣人村に攻め込んだ。
我らに有利な夜中の奇襲だ。必ず成功するはずだ。
それなのに──
「ナゼダ」
獣人たちの中に、異常に強いやつがいた。
我らが部族の強者が次々にやられていく。
それに──
「──シュゴシャガ」
森の守護者たるドライアドが何故か獣人に味方していた。
それも強力な植物による魔法まで使って我々を倒していく。
これまでに半数近くの者がやられた。
撤退させなければ全滅する。
そう思って草の笛を鳴らすか迷い始めたその瞬間、木の巨人まで現れた。
勝てるはずがない。
俺はそう悟った。
すぐさま撤退の笛を鳴らす。
脱兎のごとく、皆は巣穴まで逃げ帰った。
途中で何匹もの仲間がやられ、結局逃げ帰ることができたのはたったの30匹だけ。
しかもそれ程待たずに獣人どもから仕返しが来るだろう。
「ヤハリキタカ」
部族の皆を集め、獣人どもが攻めてくることを知らせた。
──この世界は弱肉強食。
昨晩襲った奴らのほうが、俺達より強かった。ただそれだけのこと。
だが、せめて女子供は逃したい。
そう思って、子どもたちを巣穴の一番入り組んでいて見つかりにくいところに隠した。
女も一緒にいさせて騒がないように言い含める。
「オマエラタタカウ」
戦士たち、特にファイターやウォーリアは強い。
我らに有利な洞窟という環境でうまく戦えば勝ち目は──
──いや、勝ち目など関係ない。ただ戦士として、戦うために"作られた"存在として、俺は戦うだけだ。
全てをかけて──。
◇◇◇
~春夏視点~
春夏の血の着いたハンカチが、ヒラヒラと舞い落ち──
──地面に転がる赤い宝石の破片に触れた。
瞬間、地面に魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ待って!なに!?」
「マスター!いったい何が!?」
私が聞きたいわ!
そんなツッコミを心のなかで入れている間にも事態は進み、魔法陣の光がどんどん強くなっていく。そして、ゴブリンロードを中心にして集まっていたゴブリン全員を飲み込んでいった。
「オマエ・・・マサカ・・・」
ゴブリンロードは大きく目を見開いて、春夏を鋭い眼差しで見つめる。
「アアソウカ・・・」
ゴブリンロードは深く息を吐き、すべてを悟ったような穏やかな表情で目を瞑った。
次の瞬間、魔法陣は目を開けていられないほどの強い光を放ち、洞窟の最奥の空間が真っ赤に染まった。
──そして世界の声が響く。
<ゴブリン部族に強制隷属の呪をかけました。>
え、なに!?
隷属!?
呪!?
春夏が目を白黒させている間にも世界の声は続いた。
<隷属に伴い、ゴブリン部族の能力が向上します。>
<ゴブリンがハイゴブリンに進化しました。>
<ゴブリンロードがハイゴブリンロードに進化しました。>
数秒後、その光は魔法陣とともに消えた。
赤い光が収まると──
──そこには跪いた緑髪の美男子が居た。
「誰ぇええええええええ!?」




