決着
「マスター!いきます!」
春夏が色々と諦めそうになる直前で、アイカの声が響いた。
(──ああ間に合った)
心のなかでアイカに五体投地して感謝しながら魔法の発動を見守る。
──咲き誇る氷の花
発動したのはアイカがこの世界に来て最初に開発した魔法だった。
いつの間にか空中に出現していた氷の刃は、アイカが上に挙げた手を振り下ろすと同時に、風切り音をその場に残しゴブリンロードめがけて真っ直ぐに飛翔する。
ヒュンッ!
キンッ!
ゴブリンロードは正面の攻撃を大剣で弾いた。
左肩に直撃した氷の刃は金色の鎧に触れた瞬間、ガラスのように砕けて霧散する。
しかし、春夏はそれを予想していた。
ゴブリンロードを取り囲むように浮遊する氷の刃が全方位から襲いかかった。
正面からの攻撃は剣と鎧で防がれてしまったが、側面、背後からの氷の刃がその巨体を貫いた。
なおも無限に生成され続ける氷の刃は空中に浮かんで、ゴブリンロードの包囲を解かない。
「グア・・・アガ・・・」
ゴブリンロードの屈強な身体を貫いた何本もの氷の刃は、徐々に成長し、彼の命を削っていく。
ピキピキ・・・
次第に大きく成長していく氷の刃は、彼の身体の傷を引き裂きそれでも成長を止めない。やがて彼は完全に氷に没し、成長した氷の結晶が花のように咲いていた。
その満開の花を見てアイカが前に突き出していた手を横に振り、小さく呟いた。
「──砕け散れ」
アイカとの魂の繋がりを通して、深い憎悪が一瞬だけ私に流れ込み、寒気がして二の腕をこする。自分の主人に刃を向ける愚か者へのはっきりとした憎しみがそこにはあった。
「終わりましたね。」
砕け散った氷の結晶がキラキラと舞い散る中、アイカが明るい笑顔でそう言ってにこやかに笑いかけてくる。
「あ、うん。」
私は先程の憎悪とのギャップに一瞬びっくりしたものの、なんとか笑って見せた。
(一瞬だけブラックアイカが見えた気がしたけど、あれはきっと気のせい。忘れよう。)
ゴブリン達の様子を見ると、ほとんどのゴブリンは逃げ出してしまったので、そこに残っていたのはボロボロのゴブリンロードの死体だけだった。ゴブリンロードが纏っていた金色の鎧は傷の周りに不自然に集まっていたが、見る間に光となって霧散していった。
それと同時に、ゴブリンロードの左腕の腕輪の赤い宝石が砕け、地面に散る。
「つ、疲れた。」
とても長く感じたゴブリンロードとの死闘だったが、
──今ようやく終わったのだ。
◇
「さて、このゴブリンどうする?」
私たちは生き残った女子供を含むゴブリン達を、先程までゴブリンロードと戦っていた洞窟の最奥に集めた。
アイカ曰く、自分たちの主が亡くなった事を分からせるためらしい。
ゴブリンロードの周りで泣きじゃくる子供達の泣き声の中、こちらを鋭い目付きで睨みつけながら涙を流すゴブリン♀の視線が痛い。
そんなゴブリン達を一同は見つめながら冷酷に告げる。
「始末すべきです。」
「俺たちもその方がいいと思う」
「うん」
「私もそう思う」
「キュィー!」
アイカと獣人達は全会一致で殺処分だと言う。ちゃっかり返事をしているジュベナイル・サラマンダーに「今まで主人を放おってどこに隠れていたの」と冷たい視線を送ると、身を震わせて小さくなった。
(さてどうしようかな。)
もちろんゴブリンのことである。
確かにこのまま放置って訳にもいかないのは分かるが、見た目が醜いゴブリンとはいえ女子供まで手にかけるのは躊躇われる。
私は思案顔で無意識に頬に手を当てた。
(いたっ!)
先程できた傷口からじわりと血が滲み出てくる。
「止血、止血しなきゃ」と呟きながらアイテムボックスからハンカチを取り出して、頬に当てる。
(はぁ。傷跡残らないといいなぁ。)
ため息混じりにそんなことを思っていると──
「──ガハッ!」
死んだと思っていたゴブリンロードが身体をビクリとさせ吐血した。
(え、嘘でしょ・・・)
私は驚きのあまり、血を吹いていた布から手を放し、慌てて盾を構えた。
「「「生きてる!」」」
洞窟内に皆の声が響く中、血の着いたハンカチが──
──ヒラリヒラリと舞い落ちる。
次回、進化。




