ゴブリンロード
「行くよ!」
春夏の声に合わせて全員が一斉に駆け出した。
「固まって連携して戦ってください!」
先頭の春夏とアイカに続くのは、ディック、ティグリス、ミーシャの獣人三人組である。
初手はアイカの魔法だった。
──カスタムマジック──ムーン・ブレード・オブ・アイシクル
アイカが魔法で作り出した円月輪を高速回転させて打ち出す。ゴブリンたちは構えた剣や盾で防御を試みるが、氷の刃の驚異的な切れ味の前に武器ごと切り裂かれていく。アイカの魔法により、ゴブリンファイターやゴブリンウォーリアなどの上位個体が優先的に倒されていった。
これにより、ほんの僅かな時間で正面のゴブリンが一掃された。
「はああ!!!」
ゴブリンたちがアイカの攻撃に怯んでいる隙をついて春夏も積極的に攻めていく。
「おりゃあああああ!!!」
アイカと春夏に続いて、ディックもゴブリンに斬りかかる。
春夏が与えた武器の性能とディックの強靭な腕力でもってゴブリンが両断される。
側面はディックとティグリスが抑え、ミーシャが弓で援護する。私たちとの連携も悪くはなかった。
レベルが上がった私はスキルを使うまでもなく次々とゴブリンを宝剣で斬り伏せていく。いま戦っているゴブリンは、村を襲ったものよりも確実に格上ではあるが、今の私にとっては全く相手にならなかった。宝剣で敵を切り裂く度に刀身が淡く光り、その効果によって私の魔力が徐々に回復していく。
カキンッ!
「ゴブリンロード・・・ゴブリンの頭目です!」
勢いづいていた私の剣を止めたのは、ひときわ大きな体躯のゴブリン──ゴブリンロードだった。見上げる程大きく逞しいその体躯はゴブリンと言うよりは巨人種やトロールのほうが近いくらいで、顔には斜めに傷跡があった。
その右手には、紫色のオーラを放っている禍々しい大剣を握り、左手には金の台座に赤い宝石が埋め込まれた腕輪のような装飾品を付けていた。そして、胸元には複雑な文様が刻まれた黄金の胸当てを装備していた。その装備の間から見え隠れする身体に刻まれた無数の傷跡からは、強者の風格が感じられた。
「はあっ!」
私はゴブリンロードに袈裟懸けに斬撃を放った。
決して手加減などしていない一撃だったが・・・
キンッ!
ゴブリンロードが異常に早い動きで大剣を振るい私の一撃を弾き返した。
「だめか。」
──アイシクル・ジャベリン
「マスター、近接戦では不利です!」
私はアイカの言葉に軽く頷き、腰の鞘に宝剣をしまいグリモアを手にする。
──アースバインド
地面から土でできた腕のようなものが生えてきてゴブリンロードの足に絡みつく。その隙に私は距離をとり、アイカの隣まで下がる。
「ンヌ!ジャマダ・・・」
ゴブリンロードは忌々しそうに拘束された足元を軽く睨み、一呼吸おいてから力を貯める。
「ガアアアアアアアア!」
直後ゴブリンロードが洞窟の天井が崩れそうになるほどの咆哮をあげ、足元の土の縛めを引きちぎった。あまりの咆哮の迫力に春夏達一行はおろか、仲間であるはずのゴブリンまでビクリと身体をこわばらせてしまうほどだった。
アースバインドが解けたと言うのに、ゴブリンロードはタガが外れたように吠え続ける。
「オオウアアアアアア!!!」
瞬間──
──ゴブリンロードが黒い闇を纏った。
ゴブリンロードの咆哮に呼応するように、左腕の腕輪から溢れ出す禍々しいオーラが彼の全身を覆い隠してゆく。
更に黄金の胸当ての赤い宝石も脈動を始め、その形を変えてゆっくりと胸から全身へと広がる。じわじわと身体を覆っていくそれは、防具であるはずなのだが、まるで彼の肉体を侵食しているようだった。
(これってかなりまずいんじゃ!)
私が本能的な危機感を感じたと同時──
──横から声がした。
「下がって!マスター!」
その声に私は勢いよく後方へ飛び退くと同時に、アイカの魔法が発動する。
──カスタムマジック──アイシクル・プリズン
アイカが放った魔法により、ゴブリンロードが足元から氷ついていく。ゴブリンの周囲の地面からも同様に氷柱が勢いよく生えてくる。
事態を察したゴブリンロードがとっさに大剣で生成される最中の氷の牢獄を斬りつける。
大剣はたしかに氷に傷を付けた。
しかし、その大剣ごと飲み込むように氷の牢獄は成長していき、やがて完全に覆われた。巨大な氷の柱の中にいる氷漬けのゴブリンロードは剣を振り下ろしたままの体勢で完全に沈黙している。
「ふう・・・アイカ、ありがとう・・・」
私は軽く息を吐き汗を拭いながら、ゴブリンロードの腹と肩まで広がっている金色の鎧に目をやる。どうやら鎧の成長も止められたようだ。
残された10匹ほどのゴブリンは主を救い出そうと氷の柱に必死に攻撃を続けているが全く効果はない。
(あいつらを掃討したら終わりか。)
私がそう思った瞬間──
ピシリ
──氷が軋む嫌な音がした。
先程から、氷の牢獄に魔力を送り込んでいるアイカは、牢獄に入ったヒビを塞ごうと更に送る魔力を強める。
しかし──
「マスター。いくら魔力を込めても亀裂がふさがりません。このままでは檻が砕かれそうです。」
そう言ったアイカの表情には焦燥の色が浮かんでいた。




