召喚術師
こちらは本日2話目の投稿です。
春夏の最初の奇行が始まる。
「それじゃプロフェスお願い。」
「うむ。」
プロフェスの声は他人には聞こえないため、春夏は独り言を言っているようにしか見えず、獣人三人組の訝しげな視線が彼女に集まる。当の彼女はそれに気づかずに続ける。
──ジョブチェンジ──召喚術士
瞬間、指輪が少しだけ熱を帯びると同時に、はめ込まれた虹色の宝石がまばゆいほどの光を放った。宝石の輝きと同時に、春夏の全身も白い輝きに包まれ、あっという間に装備が変わる。
アイカにとってはもうすっかりおなじみの魔法少女の変身シーンのような光景だが、獣人三人組は目の前で起こった信じられない光景に、ポカーンと口をあけ放心して立ちつくす。
それに全く気づかない春夏が、能天気に変身後の衣装をチェックしながら、どこか間の抜けた声でつぶやく。
「ふー。これこれ。」
召喚術士となった春夏は、一言でいうとゴシック調のドレスを魔法使い風にアレンジしたような姿になっていた。
豪華な印象の白と黒のコントラストが映えるジャケットとスカート、黒を基調に金色の装飾が施されたブーツと、それによく合う不思議な光沢の白黒ストライプのニーハイである。最後に黒地に白で複雑な文様が刻まれたマントにより、それらが調和する。
名はフェゼメーン王シリーズである。
左手には、華美な装飾の中に王家の紋章があしらわれたグリモア、右手にはグリモアと同じ紋章が刻まれた金色の宝剣を持っていた。この2つはドラゴンズリングで「王の墓」というダンジョンの隠し要素で手に入れた装備である。
これらをセットで使用することで、召喚魔法の成功率を上げる効果が使用者に付与される。
ドラゴンズリングでは上位の召喚獣を呼び出す際には確率で失敗する事があり失敗してもMPは成功時と同様に消費する。さらに運が悪いと、全MPが持っていかれたり状態異常になったりと召喚相手の特性に応じていくつものペナルティが生じるが、もっとも恐ろしいのは、召喚した相手が敵対行動を取る場合だった。
この世界で召喚に失敗した時にどうなるのかなんて、考えるだけでも恐ろしいので、当分は下位の召喚獣だけしか呼び出さないことに決めている春夏であった。
だからこそ彼女は、召喚の成功率を上げるためにこの武器を選んだのだ。
さらに、これらの武器と防具すべての装備フェゼメーン王シリーズを揃えると、追加のセット効果でMP消費が本来の3割まで減少する効果が得られる。
春夏のMPは増えたとは言え、大量にMPを消費する召喚術師にとってはまだ心もとない。しかし、このセット効果により下位の召喚魔法であれば連続で3回は使えるようになるのだ。
春夏が自分の装備のチェックをようやく終えたあたりで、放心していたディックがようやく我に返り、春夏の唐突な変身について聞こうとする。
「今の・・・!?」
しかし、残念ながらそのセリフが言葉になる前に、春夏が召喚魔法を発動させる。
──サモン・ブラッディーバット
装備の確認を終えた春夏がグリモアを開き、宝剣を軽く一振りすると、空中に魔法陣が出現する。そして春夏の呼び出しに答えて、魔法陣から手のひらに乗るくらいの大きさのコウモリが飛び出してきた。
ようやく我に返ったディックたち獣人三人組の目に再び信じられない光景が飛び込み、再び唖然とする。
そんな3人の心は一つだった。
(((魔獣を・・・生み出した!?)))
もちろん、生み出したのではなく召喚なのだが、端から見たら同じことだ。
魔法や魔術についての知識が無い彼らにとっては、「魔法陣から魔獣が出てくる」という光景は、魔獣を0から生み出しているようにしか見えず、驚愕のあまり絶句してしまっていた。
召喚されたコウモリは、そんな彼らの周りを飛んだ後、近くの木の枝にぶら下がった。その後、チチチッと鳴いて指示を待って待機する。
春夏はコウモリって鳴くんだっけと考えながら、その顔を観察する。潤んだ瞳が妙に印象的で惹きつけられるような魅力があった。
(コウモリってこんなに可愛かったっけ?)
内心でそんなことを考えつつ、木にぶら下がるコウモリの顔を見つめる。すると、コウモリの方もこちらをじっと見つめており、子犬のような愛らしい顔で魅力的な瞳をパチクリさせている。
(やばい、かわいい!)
心のなかで叫んでいると、それを感じ取ったアイカに頬を突かれる。
「マスター。帰ってきてください」
「っは!」
アイカのおかげで、コウモリの魅了攻撃から脱した春夏が次の召喚獣を呼び出す。最初に呼び出したのは洞窟に特化した偵察用の魔獣に続き、今度は戦闘用の魔獣を呼び出す。
──サモン・ジュベナイル・サラマンダー
地面の魔法陣から、ウーパールーパーのようなトカゲがするりと這い出てきた。大きめの水槽なら飼えるくらいのサイズで、見た目はウーパールーパーに非常に近いのだが、首の脇はつるりとしており立派なエラはどこにも見当たらない。ドラゴンズリングでは「アイデンティティを奪うなんて」とか「気持ち悪いから無くて良い」など様々な意見が飛び交っていたことが思い出される。
再び魔法陣から”生まれた”魔獣を目にした獣人三人組は、驚愕を通り越してもはや呆れの域に達していた。この頃になると、ディックの感じていた憤懣はどこか遠い所へ行ってしまっていた。
召喚されたジュベナイル・サラマンダーがそんなことを知ってか知らずか、トテトテという擬音が似合うゆっくりとした足取りで春夏の足元にすり寄る。
この魔獣はサラマンダーの幼体であり、かわいい見た目の割にかなり強い。防御面は見た目通りで攻撃を受けるとあっさりやられてしまうのだが、攻撃面が非常に優れていた。
各種火属性ブレスを使い、大量の敵を一気に殲滅できるため、コストパフォーマンス(消費MP対効果)に優れており、召喚術師では定番の魔獣だ。
今回もゴブリン殲滅に一役買ってくれるだろう。
春夏はそう思っていたのだが──
「マスター、洞窟で火魔法を使うのは危険かも知れません。」
「え!?」
このアイカの一声により、ジュベナイル・サラマンダーのアイデンティティである火魔法までもが封じられてしまった。こうなると完全に役に立たないペット枠である。
もともと白い肌のジュベナイル・サラマンダーの表情が蒼白になる。
アイカの説明によると、洞窟内で盛大に火を燃やすと燃焼で酸素が消費されてしまい、酸欠や一酸化炭素中毒になる可能性があるそうだ。
もっとも、魔法による炎の場合は別かも知れないが、安全性が確認できてない現時点で使用するのは危険すぎるとの判断だった。
その話を聞いた春夏が、ポツリとこぼす。
「それって攻撃手段としては有りかも」
そんなえげつない攻撃方法をサラリと思いついてしまう春夏には
意外にも魔王としての素質があるのかも知れない。




