村長の苦戦
村の防衛に参加する村長、ディーベル、ティグリス、ディック、ミーシャだけを残し、獣人村の村人の大半は村長の家に避難していた。
彼らは村長の家を背にして守るように、どちらから攻めてきても問題ないように布陣していた。
そんな村を襲おうと、ゴブリンの不快な怒号が夜の森を飛び交い始める。それを聞いたメトシェラは不敵に微笑んでぶつぶつと何かを呟いていた。
「ふふふ、お二人のためですからね。少しだけ張り切っちゃおうかしら。」
私は、漏れてしまっているメトシェラの声を聞かなかったことにして、装備の最終チェックを行っていた。
ジョブは剣士でクリムゾンシリーズを身に着け、鬼喰を腰に下げている。
私は鬼喰の柄をなでながら、村を見回す。
避難した村人が集まっている村長の家は太い蔓に何重にも覆われ厳重に守られていた。
ここが最終防衛ラインである。
村長の家以外にも村のいたる所に茨のバリケード、風船のような青いキノコや、イガグリのようなトゲトゲ木の実などが設置されていた。
特に目を引くのは、大量に転がっている紫色の気味の悪い果実だ。
「(気持ち悪い。)」
でも、どこかで見たことがある気がする。
そんなことを考えていると、早速ゴブリンたちの先頭集団が見えてきた。見えているのは村の正面だけだが、ゲギャギャと耳障りな叫び声が後方や左右からも聞こえてくる。
多方面から同時に攻めてきているのだろう。
「ゴギャキクク!」
ゴブリンの第一弾が隊長格ゴブリンの号令で、最前列のものが村の松明の明かりで照らされ目視できる距離まで近づいてくる。
「あれ?」
ゴブリン達の手に握られている武器が以前と、大きく異なっていることに気がついた。
この前倒したゴブリンが持っていたのは、サビだらけの剣や、棍棒、木を雑に切っただけの槍だったのだが、今回は黒曜石の切先がくくりつけられた槍や、石と木を組み合わせた斧、サビが落とされ鋭く研がれた剣を持っているものもいる。前と同じような装備のものは一匹もいなかった。
「はい、装備品が以前より強化されております。お気をつけください。マスター。」
「うん。なんか目つきも違うね。」
私は、この前のゴブリン戦で感じたよりも強い殺気を感じて、ゴクリと息を飲む。
「来るよ!」
私が言うと同時──
──ドレイン・ソーン・バインド
メトシェラが放った魔法で、村全体の茨が自在に動き、村に侵入していたゴブリンに巻き付く。巻き付いてからも茨の成長は止まらず、ジワジワとゴブリンの身体を締め上げ、棘が食い込んでいく。
「捕まえましたわ。オイタはだめですわよ。」
そういったメトシェラの目が怪しく光った瞬間、いくつもの茨が一気にゴブリン達を締め上げ、次々に絶命させた。
その目は、普段の優しさあふれる碧色とは違い、主に仇なす愚か者に対する嫌悪の色が滲んでいた。
絶命したゴブリンは身体から水分を抜かれたように、頬がこけ痩せ細り、骨がクッキリと浮き出ていた。
「うわ。」
あまりの気持ち悪さに春夏が思わず目をそらした瞬間──
「ギャギャゲガガ!!」
──ギリギリのところで茨を躱したゴブリンのうちの一匹が春夏に向かって飛びかかる。
「マスター!」
──ファスト・アイシクル・ランス
アイカの放った氷の槍が、春夏に飛びかかるゴブリンを貫いた。そして、糸が切れたように動かなくなったゴブリンの身体を地面に縫い止める。
「あ、ありがとう。」
「いえ、それよりよそ見しないでください。」
「うん、ごめん!」
春夏は小さく息を吐いて思考を切り替え、集中する。
「はあ!」
──斬撃
両断されたゴブリンの上半身が、下半身と違ったところに落ちる。
茨を抜けてくるゴブリンは想像よりも多かったが、春夏は次から次へと切り伏せていった。
一方アイカは、2本のグレートソードを念動で操っていた。
「たぁ!」
左右それぞれの手の先に剣が浮遊し、手の動きに合わせて振るわれる。時には横一文字に振り抜き、時には矢のように飛ばし、変幻自在の動きで敵を倒していく。
そして、大斧を持った大柄のゴブリンの戦士──ゴブリンファイターは、アイカに向かって大斧を振り下ろした。
カキン!
ズシャッ!
アイカの操る一本のグレートソードが下から大斧を跳ね上げ、バランスを崩したゴブリンウォーリアの腹にもう一本のグレートソードが突き刺さる。このゴブリンの集団の中ではおそらく上位の存在であろうゴブリンウォーリアもアイカと相対して数秒で切り伏せられた。
「ふう」
アイカが、突き刺さるグレートソードを念動で引き抜き、軽くいきを吐く。
アイカが一瞬息をついたその瞬間──
──迫りくるゴブリンの影から1本の矢が春夏に向けて放たれた。
「マスター危ない!」
カキンッ!
アイカは叫ぶと同時に、即座に飛翔させた剣で矢を叩き落とす。
その際に、春夏の目の前をグレートソードの大きな影がよぎった。
「きゃっ!」
春夏は思わず小さな悲鳴を上げる。
「危ないところでした。」
ゴブリンを屠りつつも、そう言ってホッと胸をなでおろすアイカに対して春夏が抗議の声を上げる。
「むしろそのぶっとい剣に刺さって危うく死ぬとこだったよ!
アローシールドがあるんだから大丈夫だって!」
当然、防御魔法をかけたのはアイカ自身なのであの程度の矢では主人が傷つかないのは分かっているのだが、過保護すぎる彼女は思わずとっさに矢を防いでしまったのだ。
「申し訳ありません。」
この場は素直に謝ったアイカだが、これで彼女の病的な過保護が治ることはなかった。
春夏は、まったくもう!と言いつつ周囲のゴブリンを見回す。
「にしても、きりがないね」
「はい、先程より数が増えているかも知れません」
ゴブリンのあまりの数の多さに辟易する2人だったが、
その時メトシェラはゴブリンを倒しつつも、次の作戦を実行に移す機を伺っていた。
◇
カキンッ!
ディックが大柄のゴブリンファイターに肉薄し、数度剣が打ち鳴らされる。
そうして肉薄する2人の横を、1匹のゴブリンが抜けてきた。
「ティグリス!」
「うん!」
抜けてきたゴブリンを、後ろで備えていたティグリスが短剣の一撃で仕留める。
「この剣すごい。」
戦闘中ではあったが、手にした短剣のあまりの切れ味の良さと付与効果による扱いやすさに、思わず感嘆の息をもらす。ティグリスたち獣人は、春夏から武器を貸し与えられていたのだ。ティグリスが持つ短剣もそのうちの一つである。
そうして彼がその短剣に目を奪われていると──
「伏せて!ティグリス!」
ミーシャの声に、ティグリスがとっさにその場に伏せる。
その瞬間、目の前まで飛びかかってきていたゴブリンが、ミーシャに脳天を射抜かれ、糸が切れたように崩れ落ちる。
ズシャッ!
「数が多い。油断するな!」
ディックが倒したゴブリンファイターに止めを刺しつつ、振り返らずに言った。
「うん」
その返事に、よしと小さくつぶやき自分自身も気持ちを引き締める。
「次、来るぞ!」
ティグリス、ディック、ミーシャの三人は陣形を組み、お互いの弱点を補いながらゴブリンを確実に倒していく。
しかし、終わりの見えない戦いに疲労の色を隠せないでいた。
「一体・・・何匹・・・
倒せば・・・いいんだ・・・」
ディックが肩で息をし、剣を杖にして必死に立ち上がる。
3人の連携で確実に敵を倒してはいるが、最前列のディックは最も負担が大きく、全身に切り傷がある。
「僕も・・・そろそろ限界かも・・・」
素早い動きで、敵を数多く倒していたティグリスも背中に斬撃を受けて焼けるような痛みに歯を食いしばって耐えながら戦っていた。
「これで最後の矢だよ」
ミーシャは弓の名手だが、矢がなければ弓は使えない。
そうなれば、不慣れな短剣で戦うしか無い。
ミーシャは腰の短剣にチラリと目を向け、最後の一本の矢を構える。
軽く息を吐いて覚悟を決め、弓を力強く引き絞り──
──放った。
◇
その頃村長は、自身の身長よりも長い木製の棍を持ってゴブリンと相対していた。
春夏から、木だと頼りないからと言われ金属の棍を渡されたが結局重すぎて振り回せないので、長年愛用している木製の棍を携えて、戦いに望むことにしたのである。
メトシェラが放った茨を抜けて、一匹のゴブリンが村長の前に躍り出てきた。そのゴブリンはこちらを見つけると邪悪な笑みを浮かべ、グゲゲと軽く笑った後、完全に舐めきった隙だらけの動きで石槍を突き出してきた。
「年寄りを甘く見るもんじゃないぞよ。」
村長は棍をくるりと回し、軽くゴブリンが突き出してきた石槍を弾き、攻撃をいなす。
そのまま、棍の反対側で突っ込んできたゴブリンの顔の位置に軽い突きを入れる。
「はっ!」
その突きは、勢いよく突っ込んできたゴブリンにカウンター気味に決まり、その一撃だけでゴブリンの意識は刈り取られた。
その後も襲いかかるゴブリンに対し、村長は一歩も引かず攻撃をいなしつつ、敵の勢いを利用して急所に一撃を入れる。
村長は、若い頃に冒険者として世界を旅していた。
その旅で、彼は数え切れないほど多くの戦闘経験を積んでおり、相手の攻撃の勢いを利用してダメージを与える技術を自然と身に着けていったのである。
そんな彼の戦い方は、派手さこそ無いものの洗練された流れるような動きで、確実に敵の数を減らしていた。
しかし、年老いた彼にとって長期戦は想像以上に厳しかったようだ。長引く戦闘で、徐々に息が上がりヒーヒーと苦しそうな呼吸音が時折聞こえる。
彼は息をつく間も無いほど、茨を抜けて続々と押し寄せるゴブリンの攻撃を受け続ける。
「っく、きりがないのぉ」
肩で息をし、本来なら立っているのもやっとのはずだが、意志の力で無理やり棍を振るう。しかし、それももはや限界だった。
「ジャギガガ!」
ひときわガタイの良いゴブリンの闘士──ゴブリンウォーリアが、重量感のある両手剣を振りかぶり、力任せに村長めがけて振り下ろす。
バキッ!!
「ぐぬっ!」
嫌な音とともに棍が限界を迎え中央でポキリと折れてしまい、自身も胸に傷を受けてしまう。
それでも、戦意だけは決して折れない。
なぜなら──
「──ここはワシらの村じゃっ!」
折れた棍を構え、村長は咆哮を轟かせる。
立ち上がった村長は、折れて2本になった棍を両手にそれぞれ持ち、決死の覚悟でゴブリンに相対した。
しかし、それをあざ笑うように、ゴブリンウォーリアは邪悪な笑みを浮かべて斬りかかる──
ズシャッ!!!
戦闘シーンは特に苦手なので、表現にかなり悩んで執筆しました。
成長のためにも、もしご意見いただけたら嬉しいです。




