アイカのMP減少対策
─アイカ視点─
(ふわぁ。)
疲れ果てて寝ている春夏の隣で、アイカが小さくあくびをした。
「マスター、おやすみなさい。」
アイカは小さくそうつぶやき、こっそりと家の外に出た。
今日もアイカは春夏にばれないように家を抜け出すことに成功する。
「やはりマスターに心配をかけたくは無いですからね。」
アイカはこれから、MP減少の対策の研究を行うのだ。
◇
月明かりを反射する池の畔で、アイカは切り株に座って思案する。
「また減ってしまっていますね。」
アイカのMPは少しずつ減っていた。アイカのMP総量からすると減少値はそれほど多くない。
「残りは約9割といったところでしょうか。」
じわじわとMPが継続的に減る中、大規模結界を張ったり、家を作ったり、戦闘時に魔法を使ったりと、この世界に来てから何度も魔法を発動したが、それでもまだ全体の9割近くは残っている。だが・・・。
「マナポーションも焼け石に水でしたし、このままではいけませんね。」
まだしばらくは問題ないはずだが、このままではいずれ枯渇してしまう。そうなれば、私は消滅してしまうのだろうとアイカは予想していた。
研究の際、ファイアエレメンタルがMPを使い切ったときに、跡形もなく消えたことからの予想であるので、もちろんアイカが同じことになるとは限らない。
だが、万が一にでも、この世界で主人を一人ぼっちにするわけにはいかない。
対策は急務だろう。
◇
アイカはうーんと顎に手を当て思案顔になり、ブツブツと何かをつぶやきながら原因について考える。
「やはり精霊と同じで・・・。」
これまでの研究で精霊は存在しているだけで徐々にエネルギーを消費していることが分かっていた。自身のMP減少もおそらく精霊のそれと同じものだろうと仮定する。
「もし、そうだとしたら・・・」
分からないこともまだまだ多いが、精霊やゴーレムのエネルギー原を知ることで、MPの補充方法もある程度予想できる。
アイカは、様々な情報をもとに一つの可能性に行き着いていた。
「やってみましょう!」
アイカは主人に内密かつ速やかにMP減少を食い止めるべく、協力者の元へ向かった。
◇
「メトシェラ、お願いします」
「アイカ様!行きます!」
──ミニマム・ライトニング
メトシェラが魔法陣の描かれたスクロールに魔力を込めると、夜の闇に小さな放電が起こりアイカの指先に当たった。
「いったーい!!!はぁびっくりした。
これもだめですか。」
自分で指示してメトシェラにやらせたのに、大げさに痛がってしまうアイカであった。
アイカはメトシェラやゴーレム達の協力の下、雷属性の魔法エネルギーが吸収できないか試していた。原因についてある程度目処を立てていたアイカは失ったMPを回復させる方法を自身の身体を使った実験で模索していたのだ。
「エレクトロ・エレメンタルはこれで魔力補充ができておりましたのに・・・。思うようにいきませんわね。」
「うーん、これで全属性試しましたが吸収できる属性がないですね。」
「困りましたわ。」
研究に協力してくれているメトシェラも使用済みスクロールを丸めながら思案する。
アイカはMPの補充をするために、水を大量に飲んだり、怪しい色の果実を食べたり、土をなめたり、
果ては火の中に飛び込んだりと、様々な方法を試していた。
メトシェラが「おおお、お止めくださいアイカ様!」と普段の優雅な様子からは想像もできないほど逼迫した様子で、手をワナワナとしながら訴えていたのだが、今では遠い昔のように感じる。
色々と試した中で唯一効果があったのは、先にアイカが呟いていた通り、マナポーションの使用だ。この方法ではMPが一定量回復したが、何故か回復量が少なく回復してもすぐに消費されてしまった。要するに焼け石に水だったのだ。
「エリクサーがあれば・・・」
エリクサーとは、ドラゴンズリングのアイテムでHP、MPを全快させる効果があった。しかし、転生直前のエンジェルスライム戦で全て使い果たしてしまっていたのだ。その戦いで、大量にストックしていた最上位のマナポーションも使ってしまい残り少ない。
「こんなことならマスターが同窓会に行っている間に補充しておくんでした。」
しょんぼりと肩を落としアイカがつぶやく。アイカの背中に生えた妖精のきれいな羽も元気なく垂れ下がっている。
「落ち込んでいてはダメですね。回復が難しいのであれば、せめてMP減少を抑えなければ・・・。」
◇
闇夜の森に妖精の声がこだまする。
「ファイア・エレメンタルさん、この甲冑を作ってください。重くていいので強度重視で。」
「ロックゴーレムさん、これと同じ鉱石はこの近くで取れますか?」
「メトシェラさん、エルダーさん達と月光草を集めてください。あとこの花も・・・」
アイカが次々と指示を出す姿が月明かりに照らされていた。
◇
アイカの前には、ひときわ大きな魔法陣が描かれている。その中心には甲冑がおいてあり、植物や鉱石も意味深な位置に配置されていた。
「これでよし。」
そうつぶやいて、アイカは月明かりに照らされた魔法陣の縁に手をかける。
「メトシェラ、よく見ていてくださいね。」
「はい。アイカ様。」
アイカの一挙手一投足にメトシェラの熱い視線が注がれる。
その様子を確認したアイカは魔法陣にゆっくりと魔力を流し込んでいく。
それに答えるように、魔法陣が青白く輝き始めた。
「術式展開」
アイカがそうつぶやいた瞬間、地面に書かれた魔法陣の青白い光の文様は空中に浮かび上がる。
少しすると最初のとは異なる文様の魔法陣が地面から分離し宙に浮かぶ。
そうして現れたいくつもの魔法陣が何段も重なり合い、輝く柱となっていた。やがて、それぞれの魔法陣が異なる速度、異なる向きで回転を始める。
最後にひときわ明るく光る帯状の魔法陣が出現し、すべての魔法陣を飲み込んだ。
──カスタムマジック──クリエイト・フルプレートアーマーゴーレム
アイカがそう言った瞬間、魔法陣の光は一気に強くなり──
──弾けた。
「成功です。これで私に何かあっても・・・。」
小さくつぶやくアイカの視線の先には魔法陣の残滓の光が舞っていた。
宙に舞う魔法陣の残光の中心で跪くのは──
──漆黒の騎士だった。




