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将来の夢は魔王になることです!  作者: 月之木ゆう
第三章 ゴブリンとの戦い
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自由研究2

今日は2話連続投稿です。

この話は2話目です。

「次は食べてくれるでしょうか?」

「そろそろ食べてほしいよね。」


そう言って春夏は10種類のアイテムをスライムの前に差し出した。アイカもその様子を見守る。

今行っているのはスライムが何を食べるか調べる為の作業であり、先程から何回も繰り返し行っている。

次で3回目である。


A ただの水

B 塩水

C 砂糖水

D 魔法溶液

E 錬金溶液

F アルコール

G エタノール

H 食用油

I 錬金油

J ミューケルの樹液

…


他にも30種類ほど液体系のアイテムを見繕ってあるが、1度に試す数が多すぎると評価効率が悪いので10種類ずつ試すことにしている。尚、風呂の残り湯はエサ確定なので除外している。


「マスター!私はCに掛けます!1000万ゴールドです!」

「アイカ、何回目よ。もう私にいくら借金してると思ってるの。」

「大丈夫です!これで当たれば取り返せます!」


アイカは確率論や統計が全く通じないこの賭けをたいそう気に入ったようで、エサの研究のあいだずっと掛けている。


何がそんなに楽しいのか。

地球にいた頃は、数学的に賭けに勝ち続けていたのがここへ来て勝てなくなったから闘志に燃えて、もとい投資に燃えているのだろうか。

だが、今のところ食べ物に法則性が見つかっていないのでその投資を回収できる宛はないだろう。


「あ!Cの方に行ってる!」


あくびが出るほどゆっくり動くスライムを取り囲むように、10種類のアイテムは設置されている。

そのうちのCの方向へ向けてスライムはカタツムリのようなゆっくりとした動きで歩みを進める。

しかし──


「食べないね」

「いえ、きっと食べる前のお祈りをしているんです!絶対食べます!」


そんなことを話していると、ようやくスライムが1つのアイテムを食べ始めた。


「あ!!」

「そんなぁ…」


本気でガッカリしているアイカの声を無視して、スライムはDのアイテムを食べている。液体なので飲んでいると言いたいが、皿ごと包み込むように移動して吸収している様なので、飲むと食べるのどちらなのか悩むところだ。


「Dは…魔法溶液か」

「なんで!?私だったら絶対砂糖水飲むのに!むぅー!」


興奮して膨れっ面をしているアイカをなだめつつ私は考察を進める。アイカの言う砂糖水のように、生物ならせめて有機物を選びそうなもんだけど草食動物が塩分を求めて塩を舐めるのと同じ感じなのだろうか。

そんな考察をしていると。


「マスター!私わかっちゃいました!

 あ・・・でも・・・はぁ」


アイカは一瞬歓喜した後、何かに気づいたような顔になった。そして、その声音は落胆の色に変わり何かつぶやきながらアイテムボックスから3つのアイテムをスライムの前に差し出した。


「魔法溶液の材料?」

「はい。多分これです。はぁ。」


そう言って軽くため息をはくアイカが指さすのは、魔水晶の粉である。他にもトカシ草と蒸留水が並んでいるが、本命は淡く光を放つ粉末状のアイテムである魔水晶の粉だそうだ。

アイカの予想通り、スライムが魔水晶の粉を食べ始めた。こころなしか、先程よりも素早い動きで食いついたように見えた。


「ホントだ。でもなんで?」

「スライムの餌は魔力だと思います。これを食べれば確定です。」


アイカがそう言ってもう一つアイテムを取り出した。


「もしかして、炎の宝珠・・・?」

「はい、純粋な火属性の魔力の塊であるこれを食べるなら、スライムの餌は魔力と断定して良いと思います。」


観察していると、魔水晶の粉を食べ終えたスライムは即座に炎の宝珠の上にするりと移動して、あっという間に飲み込んだ。


「本当に食べた!へー、魔力を食べるなんてねぇ」

「もしかしたら、物質化していない魔力も吸収できるかもしれません。」

「そうかも!」

「はい・・・」


スライムの食べ物はわかったが、先程から気になっていたことをアイカに質問する。


「ねぇアイカ、なんで急に元気なくなったの?」

「だって、せっかく新しい遊びを見つけたのに、答えがわかってしまったら、急に楽しくなくなっちゃったんですもん・・・」

「あー、そういうことだったのね」


その気持はよく分かる。


(私も以前スロットアプリをやっていたときに改造して設定をゆるくしたら当たりすぎちゃって急に楽しくなくなったなぁ。)


でもそういうことなら大丈夫。知識欲の深さをアイカに知ってもらう良い機会だ。


「アイカ、大丈夫だよ。研究することの楽しさを嫌というほど知ると良いよ。」


春夏はそう言いながら4つのアイテムをスライムの前に並べた。


「炎の宝珠、雷の宝珠、風の宝珠、水の宝珠があるけど、どれを最初に食べると思う?」

「最初ですか?うーん炎の宝珠でしょうか?」

「ふふ、どうだろうね。」


並べている4つの宝珠はどれも属性魔力の塊だ。魔力を食べるなら4つとも食べられる可能性があるが、順番を考慮すると仮説の幅がぐっと広がる。


「スライムとの距離、魔力量、属性、色、味・・・何で食べる順番が決まっているんだろうね?」

「たしかに色々考えられますね!」

「他には個体差はあるのか。とか、まだまだ楽しめると思うよ。」


春夏の話を聞いたアイカの目は、小学校のときに初めて理科の実験を見た春夏の目と同じように輝いていた。


「マスター!私もっと色々知りたいです!」


(ふふふ、ちょろいぜアイカ。)


アイカの根幹部分では論理的思考アルゴリズムを組んでいる──もっとも、女神様に魔改造された際に変わっていなければの話だ──が、アイカは自分の予想からはずれてくると、そのギャップを埋めるために周辺知識を収集するようにしてある。つまり知らない事態に遭遇すると興味を持つのだ。


そのへんを刺激したのだから、アイカが夢中になるのは必然だ。

そんなことを考えていると。


「あ!マスター食べました!当たりです!」

「ほんとだ」

「あ、賭けるの忘れてました・・・。」


スライムが食べたのは炎の宝珠だった。

この次はどれか食べようとするだろうか。


そんなことを考えていると突如スライムが輝き始めた。


「ひ、光ってますね」

「え、ちょっなに!?」


慌てふためく二人の前で、スライムは直視できないほどの光を放ち──


「うわ!!!」

「きゃっ!」


ポポポポポポポポポポーン!


──分裂した。


◇


部屋を埋め尽くす程に分裂したスライムによって春夏とアイカは身動きが取れないでいた。分裂したのは一瞬のことで、まるでポップコーンが一気に弾けたようだった。


アイカはとっさに春夏が胸元に引き寄せたものの、スライムの圧力で春夏の胸の谷間に押し込まれ目を回していた。



きっかり3秒後。


「お二人とも!無事で・・・わっ!」


メトシェラが勢いよくスライム研究室のドアを開けた瞬間、スライムが部屋から溢れ出した。


「これはいったい・・・」


部屋の惨状を目の当たりにしたメトシェラが呆然と立ち尽くす。じわじわと移動して部屋から抜け出そうとするスライムだが、メトシェラの周囲の蔦が本人の意志と関係なく主を守るためにスライムを押し返す。


「たす、けて・・・」


春夏の声で呆然としていたメトシェラが我に返り、二人を救出。

その後、スライムを部屋に押し込め無理やりドアを閉めた。


◇


「ふぅ。助かったよメトシェラ。」

「いえ、強い魔力と、家が揺れるような振動があったので、急いで駆けつけただけですわ。」

「アイカ、大丈夫?」


そう言って春夏はクッションの上に寝かせたアイカの頬をつつく。


「ふ、あ・・・マスター。おはようございます。綺麗な花畑でした。」


目を覚ましたアイカが寝ぼけたことを言っているが、華麗にスルーしたメトシェラが春夏に質問する。


「春夏様、それで何があったのですか?」

「えーっとね。」


私は、メトシェラに事の顛末を手短に話した。


「なるほど、スライムというのですか。春夏様の世界には不思議な生物がいるのですね。」


(いやいや、地球にスライムは居ないよ!っていうかこの世界の方が私からしたらよっぽど不思議だよ!

 目の前に森の精霊的な不思議生命体がいるし!)


と春夏が心のなかでツッコミを入れる。


「マスター研究室は今どんな状況なのですか?」

「とりあえずスライムは閉じ込めてあるから大丈夫だよ。それにしてもスライムがオレンジ色になってたんだよね。なんでかな。」

「えーっと、スライムの色も気になりますが、一つだけ教えて下さい。宝珠は回収してますか?」

「え?いや、回収してないけど?」

「宝珠ですか?」


私のアホ毛とメトシェラの蔦が頭上に疑問符を作る。


「マスターまずいです!急いで回収しないと!」

「え、どういう・・・」


春夏がアイカに理由を聞こうとした瞬間。


「あ!マスター伏せてください!」


──エクストラ・フォース・シールド


ドカン!!!


アイカが障壁を張ったと同時に、凄まじい爆発音が森に響き、春夏の拠点の屋根を構成する木材が宙を舞った。


「きゃ!何ですの!?」

「なに!?」

「ふう、手遅れでしたか・・・」


突然屋根が吹き飛び、混乱する春夏とメトシェラだったが、アイカは冷静だった。


「もしかして・・・」

「はい、マスターおそらくスライムがまた分裂しました。」

「だよね。とりあえず行ってみよう。」


研究室に向かう途中に、部屋に残してきた宝珠を食べたスライムが爆発的に増殖したのであろうとアイカが説明してくれた。


「うわ・・・」

「これはすごいですわね。」

「やっぱり。」


そこにはおびただしい数のスライムが居た。急激に増えたスライムが山のように積み上がっている。

様子を見に来たエルダーも屋根が無いおかげでよく見える。


「音がしたと思って見に来たんじゃが、急に屋根が飛んできよって。一体何なのじゃ。」

「これはですね・・・」


若干呆れ気味に言うエルダーに、アイカが事情を説明しようと口を開いた瞬間──

──スライムの山の中央から光が漏れ始めた。


「この光って、まさか!!!」

「マスター下がってください!」


──エクストラ・フォ・・・


ポポポポポポポポポポーン!

ポポポーン!

ポポポーン!


スライムは3連続で爆発的に増殖した。

アイカの防御魔法の発動はギリギリ間に合わず、春夏、アイカ、メトシェラの3人は分裂したスライムにより生き埋めとなった。


◇


「お主ら、生きとるかの?」


エルダーによって3人はスライムの山から救出された。


「うん。なんとか。」

「はい」

「はい、ですわ。」


スライムは凄まじい勢いで分裂したものの、樹高60mを超えるエルダーを埋める事はできなかったようだ。


「はぁ、死ぬかと思った。」


私はそう言いながら周りを見渡すと、拠点の周りはスライムに埋め尽くされていた。


「色が何種類かありますわね。」

「はい、おそらく、オレンジが最初の炎の宝珠を食べて分裂した個体で・・・」


アイカの説明を聞きながら、2色のマーブル模様になっているスライムの山を見上げる。オレンジ単色のスライムは少数しかいない。

後の研究でわかったスライムの色はこんな感じだ。


炎の宝珠:オレンジ

風の宝珠:緑

水の宝珠:青

雷の宝珠:紫


「2色なのは、もしかして混合属性かな?」

「おそらくそうだと思いますマスター」

「気持ちいいですね。春夏様」


メトシェラはスライムをモニュモニュ揉みしだいているが、それを放置して春夏とアイカの考察が進められる。

そんな春夏の指にはめられた自我を持つ指輪(プロフェス)が思案する。


(我が主の仲間は皆マイペース過ぎるのであるな。スライムが森に逃げていっているのであるが、言ったほうが良いだろうか。

 しかし我が言葉を発すると小言が増えるからな。うーむ。)


指輪の中の人であるプロフェスは、そんなことを考えていた。

熱心にスライムについて議論する春夏とアイカ、スライムを揉むメトシェラ、及び3人を微笑ましく見守るエルダーに声をかけるか迷っているプロフェスと。

彼らを尻目に、次々に四方へ逃げ出していくスライムたちであった。



この頃、獣人村の村民たちは今まで感じたことのない地面の揺れにたいそう驚き、パニック寸前だった。

その後、村の長老を集めた話し合いの場で、村長がうっかり「天変地異の前触れじゃ」と口走ったことで

村人全員が周章狼狽の大騒ぎとなっていたのだが、今の春夏たちには知るすべもなかった。

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