ディスリスの村へ ─村の篝火─
ティグリスが姉の匂いがすると言ってから、さらに歩くこと40分。
ここまで、かなりの時間歩き続けていた。
夜の森での移動のためルミナスエレメンタルが足元を照らしてくれていると言ってもどうしても移動速度は落ちる。ましてや、森は元々歩道が整備されてもおらず、倒木を乗り越えたり茂みをかき分けながら進んだりと、慣れない春夏にとってはかなり過酷な道のりであった。
「見えてきた。あそこが僕の村だよ。」
「やったーーーっ!!!」
私は無意識のうちに歓喜の叫びを上げていた。
やっと付いた。嬉しい。
慣れない道をひたすらに歩き続け、私は疲れ切っていたが、これでようやく開放される……
……と思っていたのだが。
「あれ?村は?」
「あそこだよ。」
「え?どこ?私はまだ何も見えないんだけど。」
私の目には見えていなかった。
夜目も効かないのだから見えないのは当然だ。
そう思っていたのだが──
「ここから大体2kmくらいのところに、大きな倒木があるでしょ?そこから少し行った辺りに僕らの村があるんだ。
ほら、チラチラ篝火がみえるでしょ?」
「え……。見えるわけないよ。」
──遠すぎる。
私はがっくりと肩を落とした。
ティグリスはとても目が良いらしく、しかも夜目が効くためかなり先のものが見えるようだ。ティグリスの目で村が見えたといっても、かなり離れていた。
まだまだ先は長い。
◇
「やっと見えてきた。」
ようやく私の目でもティグリスの村の篝火の明かりが見えてきた。
森の木々の隙間から村の明かりがうっすら見え隠れしている。
ティグリスの視覚は凄まじかった。夜目が効くだけではなく、かなり遠くの方まで見通すことができるようだ。
村に近づくと、村の方から誰かが言い争っているような声が聞こえた。
男性と女声の声だろうか。男性の方の声は、低くて太い大人の声だ。女性の方は、鈴がなるような若々しく可愛らしい声である。
「お姉ちゃん!」
「ティグリスのお姉ちゃん?」
「うん!僕いかなきゃ!!」
そう言ってティグリスは慌てて村に向かって走り出した。
「行っちゃった。」
私は少し寂しさを感じながら、そうつぶやいた。
私はティグリスの素早い動きに静止をかけることもできなかった。きっとティグリスも急いでいたのだろう。
夜だったし、お姉さんも両親も心配していただろう。
お別れくらい言いたかったが仕方ない。
そんな事を考えながら、姉に向かって走っていくティグリスの背中を見つめ弟のことを思い出していた。
春夏の表情が一瞬だけ曇ったのを、アイカは見逃さなかった。
「マスター。帰りましょう!」
アイカが元気よく春夏を促した。
この村には、また今度来れば良い。
近所?なんだし。
「うん。帰ろう。」
そう言って春夏にとって長い道のりを引き返していくのであった。




