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ディスリスの村へ ─ティグリスの五感─

「なんでメトシェラもきたの?」


私達はディグリスの村へ向かって、ティグリス、アイカ、メトシェラと私の4人で夜の森を歩いていた。

といっても、妖精姿のアイカと、ドライアドのメトシェラに関しては、厳密に言うと歩きではないのだが。


「春夏様に何かあってはいけませんから。」


私が先程から思っていた疑問を口にすると、メトシェラが答えてくれた。

メトシェラはそう言っているが、実際はMPが回復しないアイカをメトシェラが気遣って、ついてきてくれているのだが春夏がそのことを知るのはまだ先の話である。


そんな会話をしていると、先頭を歩くティグリスがつぶやいた。


「ゴブリン……は居ないみたいだ。」


ティグリスはゴブリンとこの周辺で遭遇して間もないため、ゴブリンをかなり警戒していたようだがどうやら今の所はいないようだ。

私はふと思った疑問を口にする。


「なんで分かるの?」


スキルを使った気配はなかったし、どうやって分かったのか疑問に思っていた。


「うん、臭いもしないし

 それに姿も見えないから大丈夫だと思う。」

「真っ暗だけどもしかして見えてるの?」

「うん。」


ティグリスは、元々五感が優れている獣族の中でも特に感覚が鋭敏だ。そのため、スキルなどが無くとも夜目や嗅覚を駆使して夜の森でも、しっかりと周囲の状況を把握できるようだ。ちなみに、一般的な獣人はティグリスほど五感が優れてはいないため、夜の森を探索しながら安全に移動するなんてことができるものは殆どいない。


「私には全然みえないや。」


私達の足元はルミナスエレメンタルが照らしてくれているが、目立つのを防ぐために光は下方向に集中させている。そのため、周囲は真っ暗で私の目には何も見えなかった。懐中電灯を下にだけ向けて歩いているような状態である。見えてたとしても、せいぜいが数メートル先の枝や樹の葉のみである。

ちなみに、ルミナスエレメンタルに明かりを照らしてもらった際には、ティグリスはとても感動した様子で、村にもほしいとか色々と言っていた。


それにしても、ここまで真っ暗な森は実に不気味だ。

そんな事を考えているとティグリスが不意に声を上げた。


「あ!!!」

「きゃっ!」


ティグリスの声に驚いた私は思わず小さく悲鳴を上げてしまった。

恐る恐るといった様子で尋ねる。


「ど、どうしたの?」

「お姉ちゃんの匂いがする。」


はーびっくりした。オバケじゃないのか。

ほっと胸をなでおろす私であったが、先程ティグリスが話していたような夜行性の魔物よりも、居るかどうかも分からないオバケを気にするあたり、やはり天然なのであった。


「近いの?」

「うーん、少し前にここを通ったようだけど今は近くには居ないみたい。」


どうやらティグリスは、匂いだけでも誰がどれくらい前にここを通ったのかが分かるようだ。私は、スンスンと鼻を鳴らしながら、どれだけ鼻が良ければそんな事が分かるのだろうと不思議に思っていた。


そして、ふと自分の匂いに意識が向いた。

クンクンと自分の匂いを嗅ぐ。特に臭くは無い…と思うが……。

こういう事は気になり始めると止まらないのである。


(あー、シャワー浴びたい。)


危険な夜の森だと言うのに、呑気なことを考える春夏であった。


「(臭く…無いよね……?)」

「お母さんみたいな良い匂いだよ。」


私は小声でアイカに聞いたつもりだったが予想外なことに、ティグリスが反応した。ティグリスの優れた聴覚で聞き取ったのだろうか。

お母さんみたいと言われても正直ピンとこないが、不思議と悪い気はしなかった。


だが、臭くないとは言われても、こちらの世界に来てからまだ一度も入浴できていないのだ。できれば、そろそろ身体を綺麗にしたいと思うのは仕方のないことだろう。

そういえば、アイカが作ってくれた家にシャワー付きのお風呂があったが、あの蛇口から出てくるお湯はどんな仕組みなのだろう。


春夏の呑気な思考はまだまだ続くのであった。

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