私は魔王じゃありません
「勇者にあってみたいな。」
「え!?それって勇者をやっつけるってこと?」
ティグリスがひどく驚いた様子で、この世界に降臨して間もないのに早速ラスボス的な存在(ティグリス主観だが)の勇者に挑もうとしているのか尋ねてきた。
「え、いや、そういうわけじゃなくてただ単純にどんな人なのかなって思って。」
「ふーん。あ!分かった。
弱点がどこか知りたいってことだね!母さんが教えてくれた物語だとね、魔王様は勇者のこと……。」
再び語りだしてしまった、かわいい猫耳獣人の少年ティグリスの話を聞きながら、私はウンウンと適当に相槌を打ちながら思案する。
半分くらいあきらめの境地だった。
勇者が本当にいるなら会ってみたい気もするが、ティグリスの話では人間は悪として考えているようだし、逆に人間にとっては亜人が悪って考えているような気がする。そうなると私は勇者に倒される運命なのだろうか?でも、種族が魔王ってだけで中身は平凡な20歳の女子大生なんだし、いきなり敵対されるなんてことがあるのだろうか。
色々考えていたら、こんがらがってきた。
思案顔で色々と考えていた私に、魔王の物語を語り終えたティグリスが言う。
「うーん、こんなこと聞くのは失礼だと思うんだけど……。」
「どうしたの?」
「春夏さんって本当に魔王様なの…?
なんだか、こうして話していると優しいし思っていたのと違って角とかも生えてないし
かわりに耳があるから、僕ら獣人と同じに見えるんだ。」
(これってチャンスじゃない!?
よし。ここは乗っかろう。)
さっきはアイカが勢い余って言ってしまったが、魔王として名乗っていると、色々面倒そうだ。
今なら、じつは獣人でしたーって言えばティグリスも納得はしてくれるか分からないが、今ならなんとかなるかも知れない。そもそも、ティグリスが猫耳魔王なんてのを受け入れていたのが疑問だ。
まぁ実際は、人間でしたーっていうのが真実なのだが、明らかに敵対関係にある人間よりは獣人と説明したほうが良いだろう。
「じつは私は魔王じゃ……」
「もちろん魔王です!!!」
◇
ダメだった。
結局、アイカがドラゴンズリングでの私の武勇伝を語り聞かせてしまったため、ティグリスは完全に私が魔王だと信じてしまったようだ。
まぁ、魔王種なのは間違いないのだから仕方ないか。
「ところで、ティグリスくんはお家に帰らなくて良いの?」
「あ…帰らないとお姉ちゃん達が心配すると思う。もしかしたらもう探しに出てるかも。どうしよう。」
先程まで元気いっぱいの様子だったティグリスの顔色がみるみる青ざめてゆく。
「(マスターどうしましょう?)」
小声で私に尋ねるアイカ。
私は少しだけ思案し、答える。
「ティグリスを村まで送ろう。」




