ティグリス編 ─猪突猛進─
「イノシシだ。」
丸々と太って美味しそうなイノシシがいた。体長は1mほどだろうか。いまは必死に穴を掘って、時よりその穴に鼻を突っ込んでいる。モグラの巣でも見つけたのだろうか。
「森の探索の途中だけど、どうしようか?」
「せっかくの獲物だ。狩ろう。今日の探索は終わりだ。」
探索の成果は芳しくないがもうすぐ日暮れだ。ゴブリンもうろついている状況で、遅くまで森に入っているのは危険だろう。それに久々の獲物だ。
ディックは口には出さないが、やはり母親に食べさせたいという思いが強いのだろう。ミーシャもそう思ったようで、軽くうなずいて同意した。
いつものようにディックが指示を出す。
「ミーシャ、弓を構えろ。やつが襲いかかってきたら俺がカバーする。ティグリスお前はやつが逃げた時に追跡だ。」
「任せて。」
「いつでも良いよ。」
僕らが準備できたのを確認したディックが短く言った。
「やれ。」
「ん」
ディックの合図で放たれた矢は、イノシシに吸い込まれるように飛んで行く。よし、頭部に命中して一撃だろう。僕はそう考えていたのだが──
「避けやがった!」
──イノシシは頭部めがけて飛んでくる弓を既のところで避けた。
鼻先をかすめたのか、血がポタポタと滴っている。矢を受けこちらに気づいたイノシシが一目散に逃げ出した。
僕はすかさずその後を追う。僕は弾かれたような早さで駆け出した。イノシシなら何度か狩ったことがある。普段なら簡単に追いついて、後ろ足に軽く一撃を与え、動きを奪ってから確実に仕留める。
しかし……。
(早い!)
今回の獲物はずんぐりとした身体ではあったが、特に大きな個体でしっかりとした肉付きだった。そのため、ある程度足の早い個体なのだろうと僕は思っていたが、予想よりかなり早かった。
凄まじい早さで森を駆けるイノシシとそれを追う僕。僕は風のような早さでイノシシを追いかけるが、当のイノシシはまさに猪突猛進と言った様子で森を走り抜けて行く。
このままじゃ逃げられる。
そう思った瞬間──
「ブヒィーーーッ!」
イノシシが突如叫びを上げた。
「一体何が……?」




