ティグリス編 ─森を駆ける─
「ぼ、僕が一人で探してくるよ……。」
確かに怒っているディックは怖いが、僕がそう言い出したのはなにも罪悪感からだけではない。
僕は探索が得意なのだ。
理由は2つ。
一つは体格だ。
僕は身体が小さく10歳になるのに120cmくらいしかなかった。普通は10歳だと小さくても140cmくらいはある。ミーシャは先日150cmを超えたと言っていたし、ディックに至ってはもう160cmはある。
猫獣人は小柄な者が多いが、それにしても120は小さい。それに身体も細い。
小さいと馬鹿にされることはあるが、探索ではこの小さな体が便利なのだ。森では、枝や木、茂みに倒木と障害物が多いが、身体の小さな僕はスルスルとその間を抜けて行くことができるのだ。この森の植物は地球のものと比べるととても大きいので、茂みよりもティグリスのほうが背が低いくらいだ。そのため、ティグリスの身体なら普段はしゃがんだりしなくても隠れられるのだ。
普段からそんな状況なので、先程ディックに注意されたときのように倒木に隠れるのは苦手である。
その理由は背の低さだ。
例えば、高さ1mの倒木があったとしよう。
そこに隠れようとした場合に隙間や横から顔を出せればよいが、上から顔を出さなければならないときには、獣人の頭上の耳がじゃまになってくるのだ。そのままだと顔よりも先に耳が出てしまうので、ディック達は斜めに顔を出すのだが、
僕の場合は少し背伸びしてようやく向こう側が見える程度なので、顔が斜めにできない。そのため、耳が先に飛び出してしまう。それも僕の耳は白い。ついでに、髪の毛も尻尾も真っ白なのだ。だから、ディックのような深い灰色の耳や、ミーシャの黒い耳と比べると、白い耳はどうしても目立ってしまう。
二つ目の理由は感覚の鋭さだ。
僕は生まれつき五感が鋭かった。ときには第六感のようなものも感じることができる。
父さん達が殺された日もはっきりとした胸騒ぎを感じていた。
そんな訳で、僕の感覚は鋭いから獲物の出すかすかな音や臭い、それにかなり離れていても視線が通っていれば1kmくらいなら余裕で見える。
(母さんは鷹の目だと言っていたっけ。)
もちろん異世界での鷹が基準なので地球の鷹よりかなり目が良いのだが。
僕はあらゆる感覚を総動員して、獲物を探し出せる。
ミーシャみたいに木登りができればもっと獲物を効率よく探せると思うが、その場合は僕の真っ白い毛が目立ってしまうし、そもそも僕は背が低いから木登りが苦手なのだ。だって、枝に手が届かないし。
もっとも、獲物を見つけられるからと言って、倒せる訳ではない。
子ねずみ程度なら問題ないが、ビッグラビットとかだと短剣しか使えない僕では首の頸動脈くらいしか狙えるところがない。逃げ回るビッグラビットを追いかけつつ強烈な後ろ蹴りを全て躱して、喉元に一撃入れるのはかなり難しい。他の部位を狙ってもよいがいずれも急所に届かないため一撃では仕留められず、反撃されるだろう。そうなれば身体の小さな僕にとってはひとたまりもない。
ディックだったら大きな身体と強い力でもって長剣を難なく扱える。ミーシャは器用に木に登って弓で遠くから急所を射抜くことができる。
(二人が羨ましい。)
ということで、僕らの狩りの分担はこうだ。
まずは僕が獲物を見つける。
それをミーシャが遠くから弓で狙う。
こちらを襲ってくるイノシシなどの大きな獲物はディックが仕留める。
僕は専ら索敵担当だ。
◇
(こっちの方を探せば、この胸騒ぎの原因が分かるかも知れない。そんな気がする。)
そう思って東の方を見ていると。
「ティグリス、待って一人で行くのは危ないわ。」
「別に大丈夫だろう。昨日だってそうしたんだ。」
「でも……。」
「大丈夫だよ。」
「今日はどの辺りを探すんだ?」
「昨日は北のほうを探したし、東に行ってみるよ。」
「おう、大物たのんだぞ!」
「無理しないで戻ってくるのよ。」
「それじゃ行ってくる。」
心配してくれているミーシャに、もししばらくして戻らなければ探してほしい。と告げて僕は東に向けて走り出す。
五感を駆使して獲物を探しながら、木々の合間を縫い、倒木を飛び越え、茂みをすり抜ける。
僕は森を──
──風のように駆けた。




