ティグリス編 ─獣人の少年─
ここから幕間的なティグリス編が続きますが、読み飛ばして頂いてOKです。
春夏達がこの世界にやって来る前日。
~ティグリス視点~
獣人国家ユグドラシルが人間たちに堕とされてから、どれくらい経っただろうか。
今の生活にもだいぶ慣れてきた。
僕らはいつもの3人で今日も森に狩りに出ていた。
「ぁ……ビッグラビットだ。」
そう言ったのは僕、ティグリス──白いピンと尖った猫耳と白い尻尾を持ち、色白で少々気弱そうな猫獣人の少年──だ。
僕は腰に短剣を下げている。服装は3人とも布の下着に、革の服と足元にはブーツだが、サイズも合っていない上に使い古してありクタクタだ。
(森は特に変わったところはないかぁ……。)
森の様子はいつもと変わらないが、僕は朝から妙な胸騒ぎがしていた。
それが気になって今朝、村を出てからもずっと上の空だったのだ。
「ティグリス、もっと頭を下げろ!」
ビッグラビット──地球の兎の倍以上はある大きな兎で、その肉は栄養豊富でとても美味である──に見つかってしまうからと
僕の頭を押さえているのは、いつもの狩猟メンバーのリーダーのディックだ。
僕より2歳年上の狼獣人で、今は長剣を背負っている。本人曰く、見た目は犬獣人と変わらないのだが犬と呼ぶと怒るのだ。たしかに犬系の子の平均よりも身体が大きくガタイが良い。それに全身が深い灰色の毛並みで覆われている。
獣人族は、人と動物が混ざったような身体を持っているが、動物に近い方が能力が高く強い戦士になれると言われている。実際に歴代騎士団長は、みんなそうだった。僕の本当の父さんも……。
「おい!ボーッとするな!」
「大きな声出さないでよ。」
弓を装備した猫獣人のミーシャが、シーッと人差し指を口に当てて、ディックを注意する。ミーシャは僕と同い年の10歳だが、僕よりも身長が高く足も早い。血は繋がっていないが、僕のお姉ちゃんだ。
ミーシャの家では、両親を亡くしたティグリスを同じ猫獣人だからと面倒を見てくれている。ミーシャの両親はとても優しく、僕とミーシャ二人共別け隔てなく接してくれており、兄弟のような関係なのだ。
「なんだと!元はと言えばこいつが!」
「ごめん……ぼく気をつけるから……。」
そう言って、うつむいて謝る僕。
僕らは、倒木のかげに隠れてビッグラビットの様子を伺っていたのだが。
「あ、逃げちゃった。」
「ちっ!」
追っていたビッグラビットの動きを監視していたミーシャの言葉に、ディックが舌打ちをする。
「ごめん……。」
僕は眼の端に涙を溜めながら謝った。
「いちいち謝んな!くそ、イライラすんだよ!」
「ちょっとディック静かにしてよ!他の獲物も逃げちゃうでしょう!」
僕をさり気なくかばうように、ミーシャがディックを制した。
彼女もティグリスのことを大切な弟のように思っていた。
ミーシャは、ずっと弟がほしかった。
不謹慎かもしれないが、ティグリスが姉弟になるのを嬉しく思っていたのだ。それもあって、ミーシャの両親はティグリスを快く受け入れたようだ。
もちろん、流石に全く縁のない者の面倒を見たりなどしない。
ティグリスの父親とミーシャの両親は元々は村の出身で、幼馴染なのだ。
ミーシャとティグリスも今より小さい頃には何度か一緒に遊んだこともあった。二人共、とても小さかったので今では忘れているが。その際に、ミーシャがティグリスにとても優しくしていたのを、彼女の両親は鮮明に覚えていた。
ティグリスがユグドラシルの王都から逃げてきたときにも、そのおかげですぐに気づくことができて、迷わず保護してくれたのだ。
◇
ウサギに逃げられてから、しばらく周辺を探したがウサギはおろか子ねずみ一匹見つからなかった。
「見つからないわね。」
一向に獲物が見つからずディックの不満は更にたまっていた。ここ数日、何も仕留められていないので余計にイライラしている。
「くそ、俺のせいじゃないからな。」
ディックの言葉にビクリと方を震わせる僕。
「ぼ、僕が一人で探してくるよ……。」




