焼肉女子の叫び
ゴーレムが棒に括りつけられた獲物を火にかける。
ファイアエレメンタルの絶妙な火加減。
ジュージューと焼ける音。
美味しそうな肉の香り──
──を嗅ぐ前に、棒に吊るされた肉が叫んだ。
「ぎゃぁあああああ!!!熱い熱い熱い!!!!!」
真っ先に異常に気づいたのは春夏だった。
「待ってゴーレムさん!それ人だよ!?」
「え!?」
私が慌てて叫ぶと、先程まで目が肉マークになってしまっていたアイカが我に返った。
ゴーレムが即座に彼を火から外す。
焼かれている獲物をよく見てみると、少年のようだった。
いや、よく見なくても少年なのだが、肉の魅了にかかってしまっていたアイカは、全く気づいていなかった。
肉の力は恐ろしい。
メトシェラやエルダーに聞くと、人も魔物も動物も、特に分けて考えることはしないらしい。等しく生き物というくくりで考えているようだ。そのため、獣人族を焼いて食べるのも、豚を焼いて食べるのも変わらないという感覚らしい。
そもそも、二人共植物系なので肉を食べたりなんてしない。感覚としては、お酒を飲んだことがない人が、日本酒やビールやウイスキーの見た目の違いが分かっても、どれもお酒とひとくくりに考えるのと似ているのかも知れない。
「もしかして死んじゃった……?」
少年を見ると、先程までお尻と背中が焼かれて転げ回っていたのに、白目を向いて仰向けになったあと急に動かなくなってしまっていた。
「う……ごめんなさい。マスター……私は……」
泣きそうになり私にふらふらと安定しない軌道で飛びながら近寄ってくるアイカを両手で受け止めた。
そして息を飲んだ。
ゴクリ。
私は恐る恐る少年を見た。
「生きてる。でも……」
胸が上下に動いている。
荒い呼吸だが息はあるようだ。
よかった。
しかし……
人間には無いはずのものが彼の身体にはあった。
「しっぽ…?」
尻尾が生えていた。耳も顔の脇ではなく、頭の上に着いていた。白目を向いて開けた口からは鋭い犬歯が覗いている。
人間ではない──
「獣人!?」
「獣人族でしょうか?」
──獣人──もふもふだ!
少年の手足や身体、顔は普通……よりは将来美男子になりそうな整った人間の顔なのだが
体の一部分が獣のそれであった。
獣人族ということに驚いてしまってたが、今はそれより先に傷を直さなければ。
「アイカ!急いで治癒を!」
──ミドル・ヒール
アイカが治癒魔法をかけると、少年の身体が一瞬暖かな光に包まれる。
すると、背中の火傷がみるみる治っていった。それに合わせて少年の顔に生気が戻り、頭部の耳がピクピク動いている。
一命は取り留めたようだ。
◇
少年は、アイカ達が作ってくれた屋敷の中に連れていきベッドに寝かした。もちろん春夏の部屋のベッドではなく、別の部屋に設置したベッドだ。
メトシェラに看病&見張りは任せて、私達は再び焚き火でエルダー達が捕らえたイノシシを焼いていた。ちなみに、他の獲物を確認したが、獣人は一人だけだった。残りの獲物は、鹿にイノシシにでかいうさぎの3匹だ。なんでも、イノシシに追いかけられていた獣人の少年を見つけたので、漁夫の利でまとめて頂いたそうだが、それはまた別の機会に語るとしよう。
「マスター!今度こそ焼き肉です!丸焼きです!」
「すごく美味しそうな香りがするね!」
こうしてみると丸焼きとは、なんとも豪快な食べ方だ。
本来なら回転させながら焼くのだろうが、いまはファイアエレメンタルのおかげで全体にまんべんなく丁寧にじっくり火が通るので、そんなことをする必要はない。ファイアエレメンタルは食器や窓ガラスを作ったりと非常に優秀だ。
アイカと二人でファイアエレメンタルの優秀さについて語っていると、良い感じに肉が焼けてきたようだ。
「そろそろ食べられそうですね。」
春夏が念動を使って肉をお皿に取り分けてくれる。
私はとってもらった肉を凝視し、思わずゴクリと喉を鳴らした。
「美味しそう……。」
切り口からは肉汁が滴り落ち、絶妙な焼き加減だからかパサツキもなさそうだ。滴る油の光沢がより一層おいしそうに見せている。
表面は先程まで炙られていたので、肉の水分が蒸発して油が弾ける音がかすかにジューっと聞こえる。
「ささ、マスター。冷めないうちにどうぞ。」
と言って早く食べるように、私を促しつつ器用にも念動で自分の分もちゃっかりお皿に盛り付けている。
妖精サイズのアイカの身体と同じくらいのお肉をお皿に盛っているが、食べきれるのだろうか。
「うん、いただきます……。」
「いただきます。」
口に入れると、イノシシ独特の臭みは全く無く、ハーブとスパイスの香りが口いっぱいに広がる。
噛むと、ジュワーっと口の中で肉汁が広がり、肉の旨味がとけ出す。適度な塩気と相まって、絶妙な味に仕上がっている。
「「うまぁーーーい!!!」」
焼肉女子2人の叫び声が夜の森に木霊した。




