拠点づくり その4 ~目覚め~
短い仮眠を終えた私は、建築予定の家の裏手に当たる場所に来ていた。
トントントンと建築現場ならではの小気味良い音を聞きながら地面に手を当てる。
──原料抽出
私は鍛冶のスキルである原料抽出を使った。MP消費が少ないスキルなので、今の私にとってはとても助かっていた。
私は地面から金属、粘土、砂を集めた。それぞれ、ナイフ、皿、コップ、窓ガラスなどに使うつもりだ。私はさらに錬金で、炭酸ナトリウムや炭酸カルシウムなど、ガラスを作るのに必要な材料を作った。錬金は無から有を生み出すことすら出来てしまう高位の生産魔法だ。
原料抽出や生産魔法を使っていて分かったのだが、魔法を使うと、元素さえ入手できれば好きな材料を用意に作り出せるようだ。もちろん化学の知識が必要だが。
例えば、水から水素と酸素を取り出す場合、水を電気分解する要領で水素と酸素に分解可能だ。どんな仕組みなのかは分からないが、電気分解の部分を魔力で行っているのだろう。これにはそこそこの魔力が必要だが、水素と酸素から水を作る時は魔力消費は無いようだ。化学エネルギーが下がる分には、魔力を必要としないらしい。しかし、浮いた分の余剰エネルギーでMPが回復するなんてことは無かった。
それに、魔力を多く込めれば足りない元素も補って物質を生産できるようだ。これは錬金だ。
もしかしたら、核融合のように水素をヘリウムに変化させるなんてこともできるのかも知れないが、そこまでは現時点では不明だ。
もっと研究すれば何か分かるかもしれない。しかし、今は時間が無い。
◇
今はメトシェラにお願いして、アースゴーレム3体をこちらに回してもらい、生活用品を作らせている。
材料は例によって魔法で抽出した粘土だ。ゴーレムでは作業ができない細かいところは手隙の精霊達が手伝ってくれている。
その様子を眺めつつ私は土魔法で、ガラスとお皿、それに金属用の炉を作っていた。
「よし。できた。」
土だけで作っているのでやや無骨だが、これで要はたりるはず。
「燃料はこれですね。」
燃料には、ウォーターエレメンタルが家には使えないと判断した木材を使っていた。これなら廃材も有効に使うことが出来る。今流行のゼロ・エミッションだ。
だが炉の外側は土魔法で形成しているので、このままだと温度が上がりにくい。
なので……
──サモン・ファイア・エレメンタル
火の精霊を複数呼び出し、手伝ってもらうことにした。
これできっと温度管理もガラスの整形も上手にこなしてくれるはずだ。温度管理のおかげで焼き物が割れるリスクもさがるだろう。ちなみに私が作ったコップは春夏用なのだが、少々不格好な仕上がりになってしまった。アイカは何でもできそうだが、芸術に関してはその限りではないようだ。
(マスターは使ってくれるかな。)
と心配しているが、杞憂に終わることになる。
焼き物用の炉には、精霊達&ゴーレム作の陶器を風魔法で綺麗に乾燥させてから入れていく。念動で持ち上げているので火の近くまで持っていっても熱さを感じないのは助かった。陶器をファイアエレメンタルに渡した後は、他の炉にガラスの材料を放り込みコップと窓ガラスを作るように指示した。最後の一つの窯には砂鉄を入れて、ナイフを作るようにお願いした。他にも必要なものが出てくるだろうが、その場合は順次指示していけば良いように材料は多めに渡してある。
あとはゴーレムを使って、大量の木材を与え続けることで火を絶やさず適切な温度を維持し作業してくれる。どうやら、上質の木材は火の精霊にとって美味しいものらしい。どこかの動く城のカ〇シュファーのように手足や顔があるわけでは無いのだが、木材の善し悪しが分かるようで、炎が踊るような動きで作業を進めている。
もしかして、火の精霊がこの反応ということは、水の精霊は水の味が分かるのだろうか。
◇
私はファイア・エレメンタルとゴーレム達によって作られたナイフの仕上げをしていた。材料は地面から抽出した砂鉄である。少量のミスリルも含まれているらしく、普通の鋼よりは強度が高いはずだ。魔法で表面を高速で削り形を整えていく。
「後は仕上げに研いだら完成ですね。」
私が呟いたところで、1体のロックゴーレムがドスンドスンと近づいてきた。
どうやら、自分の腕が良い砥石になるから使ってほしいようだ。そのゴーレムは自らの左腕を差し出そうと、反対側の腕で左腕を付け根のところから切り離そうとしてきたので慌てて制した。
「待って!腕とらないでください!」
しかし無言のまま中々に食い下がってくるので、仕方なく腕は外さないことを条件に、手伝いをお願いした。
「お願いします。ゴーレムさん。」
「……。」
無言で頷いたゴーレムが、プルプルと震え始めた。
「(ひっ!)」
ゴーレムには申し訳ないが……
……喜びのあまり震えているのかと思って若干引いてしまったのは内緒だ。
どうやら、砥石を振動させているのでそこで研いで欲しいようで、腕を高速で小刻みに動かしていた。
促されるままに軽く水をたらしナイフをゆっくりと触れさせた。すると、高速振動のおかげでナイフがみるみる研磨されていく。
あっという間にナイフの刀身が仕上がった。
「おお!」
「……。」
私の感嘆の声に、ゴーレムが満足気に頷く。
その様子を遠くから見ていたメトシェラが近づいてきた。
「アイカ様。柄と鞘を作らせて頂けないでしょうか?」
「え、お願いしても良いのですか?」
「もちろんです!お任せください。」
メトシェラが嬉々とした様子で、木魔法で枝を生み出した。それを自在に変形させ柄と鞘の概形を作り、風魔法で表面に紋様を描いていき、最後に植物で磨いて仕上げる。
あっという間に仕上がったが、その工程には眼を見張る物があった。木の精霊の能力だと思うが、植物の操作に関する魔法には卓越した技がある。
仕上がりも上等で、表面にはこの世界の伝統工芸品なのでは無いかと思うような緻密な幾何学模様が刻まれていた。これならマスターも喜んでくれるだろう。
「ありがとう、メトシェラ。」
「いえいえ、当然のことをしたまでです。」
といって豊満な胸を張るメトシェラであったが、頬を薄っすらと朱に染め少々気恥ずかしそうに微笑んでいた。
「ところで、家の方はどうですか?」
「ええ、8割と言ったところでしょうか、あとは屋根の水弾きの草が育つのを待つのと、窓とドアのガラスをはめ込めば完成ですわ。」
言われて見てみると殆ど完成していた。あっという間の早業だった。空を見上げると、星がギリギリ見え始めるくらいの夕闇であった。阿○寛もびっくりなスピード建築である。
完成したログハウスは家と言うより、もはや豪邸と言っても良い程の出来栄えだった。
圧倒的な存在感の2階建てで、家の前には大きな池もあり、VIPがリゾート地に作る別荘のようだ。じつはこの豪邸は、春夏が何年も前にマイ○クラフトで建てていたものを再現している。
(マスターは気づくでしょうか。)
そんなことを考えながら、大きな両開きの木の扉を念動で開く。
「この明かりは…?」
内装を見てみると、部屋のあちこちに淡く光る植物の花が咲いていた。
「それは月光花ですね。合わせて夜光草も植えております。」
「綺麗ですね。」
「そう言って頂けると嬉しい限りですわ。」
「マスターが気に入りそうです。」
幻想的な明るさだった。
寝室のものは小さめの布を付ければ調光出来るだろう。
私は主が喜ぶ姿を想像して、頬を緩めつつ、ベッドなどの家具を設置していった。これは私のアイテムボックスに入っていたものである。間違ってもマスターのアイテムボックスのものを勝手に使うようなことはしない。
「家具も持っていて良かったです。」
色んな状況を想定してアイテムを準備しておくのは、言ってみればアイカの趣味のようなものなので家具も偶然?持っていたのだが、これはまた別の物語である。
◇
私は設置したベッドに、念動で運び込んだマスターの身体をそっと寝かせた。
安らかな寝顔だ。
私は寝ているマスターの顔の横に座り、そっと頬に触れて小さく呟いた。
「マスター、このまま目覚めないなんてこと……無いですよね?」
「……。」
春夏はスースーと寝息を立てているが返事はない。
心の奥底でくすぶっていた不安が膨れ上がっていく。あっという間にアイカの心は不安でいっぱいになってしまった。
アイカの表情がみるみる曇っていく。
「マスター、早く起きてくださいね……。」
アイカは目の端に涙を一杯に溜めていたが、それでも涙が溢れないように必死で耐えていた。
メトシェラが側にきて、優しくアイカの頭をなでた。
「ありがとう。」
未だに目覚めない春夏の横に、妖精姿のアイカ、ドライアドのメトシェラ、そして精霊達の温かい光りが3人を包み込む──
──なんとも絵になる光景だと、春夏の指にはめられたプロフェスは思う。
そして夜が更けていく。
◇◇◇
「マスタ……う……ひっく……。」
「んにゃむにゃ………。」
(起きた!!!)
「ん……」
マスターが目を覚ました。
私は慌てて涙を拭った。目覚めたのは正直、飛び回りそうなくらい嬉しいが、それ以上にマスターに心配はかけたくないので、急いで平静を取り戻す。
マスターはまだ寝起きだからかボーッと天井を眺めている。
少しすると徐々に意識がはっきりしてきたようで、外を眺めている。
まだ私には気づいていないようだった。
私はゴクリと喉を鳴らしてから、少しだけ緊張した声でマスターに声をかけた。
「マスター、目が冷めたのですね。」
「あ、アイカここは?」
良かった。本当に良かった。
記憶喪失とかもないようだ。
一時はどうなるかと思ったが、無事なようだ。
「マスター、ここはですね!」
そう言って春夏に満面の笑みで説明を始めるアイカの様子は、先程まで嗚咽を漏らして泣いていたとは思えないほど明るいものだった。
しかし、春夏はその目に残る涙の後に気づいていた。だが、主人に心配をかけまいと努めて明るく振る舞おうとする彼女の気持ちを無にするようなことはしない。
誰にも聞こえない小さな声でつぶやく。
(アイカ、ありがとう。)
そう言って、春夏は小さく笑った。




