ファイアーボールの後
春夏がファイアーボールを上空へ向けて放った後のお話。
─ アイカ視点 ─
マスターが上空へ向けた魔法発動と同時に倒れた。
しかも、魔法の反動のせいで、このままでは後頭部から地面にぶつかってしまう。
「マスタァアアアーーー!!!」
私は叫び声をあげると同時に、弾かれたように飛び出した。
そして慌ててマスターの身体を背中から支えようとした。しかし一瞬遅く間に合わなかった。マスターの頭からは血が流れている。
いますぐ手当をしなければ。
私はすぐさまマスターの頭部に手を当て治癒魔法を発動させた。
──エクストラ・ヒール
私は、治癒魔法発動と同時にマスターの身体の状態を解析した。
名称:朝比奈春夏
年齢:20歳
種族:魔王種
職業:魔法使い
ステータス レベル:1
HP:3→13/13
MP:0/6+6
腕力:21
体力:6
敏捷:5
知力:4+2
魔力:1+1
器用:3+2
危なかった。
だが上級の治癒魔法をかけたのでHPは一気に全開した。
もう少し打ちどころが悪かったりしたらと考えるとゾッとする思いだった。
MPが0になっていることから、魔力を使い果たして気を失ったのだと推測できるが、魔法を放った瞬間に気絶というのは考えていたよりも危険だった。
魔法発動の反動があるのに受け身が取れないのはかなりリスキーだ。もっと高レベルの魔法だったらマスターは本当に死んでしまっていたかもしれない。
マスターは『小石にぶつかってプチッと死んじゃうかも』なんて言っていたが、危うく本当にフラグを回収してしまう所だった。
魔力が低いせいか、MPや器用が足りないからかは分からないが、マスターの魔法が人並みサイズのサッカーボール程度で本当によかったと思ってしまった。きっとマスターは全力でMPを使い切ってあれなのだから落ち込むだろうが、今は魔法の才の無さに感謝することにした。
「ひとまず、マスターを一旦寝かそう。」
私は念動でマスターの身体をふわりと持ち上げた。彼女が着ていたローブを地面に敷き、その上に身体を寝かせた。私は軽いものなら念力のような力で簡単に動かすことができていた。他にもMP消費なしでテレパシーなども使えた。これも妖精の力の一つなのかも知れない。
◇
「はぁ、またMPが減少していますね。」
現在のMPは9611/10064だ。先程、治癒魔法を放った直後のMPは9613/10064だった。2減っている。
なぜだろう。職業に関係なくスキルが使えるからだろうか……。当初は念力の力のせいかとも思ったのだが、特に何もしなくても減っていくのだ。
もしドラゴンズリング内であればMPは自然回復するはずで、実際に先程までのマスターもMPが自然回復していた。私の場合はもともとの絶対量がとにかく多いので、今すぐどうこうなる訳ではないが、いずれ枯渇してしまう。早めに自力で改善策を見つけなくてはならないだろうが、マスターに心配をかけてはいけないので、バレないようになんとかしなければ。
だが、今はそんなことを考えるよりもマスターの安全の確保が優先だ。
MPの千や2千なんでもない。マスターのためなら私はこの命すら惜しくはない。
「今はマスターのことが先です!」
私は頭を振って思考を切り替えた。
そして、少しだけ思案した後、即座に行動に移した。
「まずは状況把握ですね。」
私は一気に上空まで飛んだ。
そして、むむむっと顔をしかめながら手を額にかざし周辺を見渡した。
「見える範囲には敵は居ないようですが、万が一にでも何かあったら嫌ですから……。」
──広範囲索敵──ワイドレンジ・サーチエネミー
「少なくとも周囲1kmは敵性反応はないようですが……
……あれはゴブリンでしょうか?」
正確な数はわからないが、かなり離れたところにゴブリンの集団が確認できた。
ドラゴンズリングではゴブリンは最弱のモンスターだったし、距離もあれだけ離れていれば大丈夫だとは思う。
だが。
「先程の上空で何かが割れたような感覚……
……もしや結界が破れたのでしょうか。」
アイカはこの世界に渡る際に女神が、安全地帯を構築すると言っていたのを思い出していた。
もし女神が安全を確保するなにかを行っていたのだとしたら、代わりになるものを用意したほうが良いだろう。
そんなことを考えながら、その索敵範囲の外側ギリギリのところにある岩の前まで飛んでいった。
そこで、指先に込めた魔力でルーンを岩に刻んでいく。それを合計6箇所行った。
最後に、寝かせている春夏の近くの地面に右手をかざし──
──結界展開──タリスマン・フィールド
アイカの術に反応して、6箇所のルーンが一瞬だけ淡く光ると同時に、アイカを中心としたドーム状に結界が構築された。
これで、ゴブリンは近づけないだろう。
一安心だ。




