魔法使い
「がってんしょうちのすけ。」
「『?』」
そんな言葉どこで覚えたのだろうと怪訝な表情をする私。
プロフェスもそう思っているのだろう。私の目には、指輪に浮かぶクエスチョンマークが見える……気がする。
そんなことを考えていると、
「マスター、解析始めますね。」
アイカは私の肩に乗って解析を始めた。
名称:朝比奈春夏
年齢:20歳
種族:魔王種
職業:魔法使い
ステータス レベル:1
HP:13/13
MP:3+6/6+6
腕力:21
体力:6
敏捷:5
知力:4+2
魔力:1+1
器用:3+1
「……微妙。」
「ごめんなさい。マスター。」
『MPと魔力は倍であるぞ。』
やはり弱い。
確かにプロフェスの言う通り、MPも倍ではあるが元がとても弱いので満タンでもMP:12とは……。
「っていうか、アイカはなんで謝ってるの」
「なんとなく申し訳なくて……」
「アイカが悪いんじゃないんだから気にしないで。
まー、とりあえずやってみるよ。今度はちょっと全力を出してみる。」
アイカ先生と比べたら虫程度の強さだろうけど、どこまで足掻けるか試してはみたい。
私は杖を上空に向けて掲げ、魔力を込める。
それに反応して、杖の周囲にマジックサークルが出現した。素手で魔法を放ったときのサークルは1つだけだったが、今回は複数展開しているのが分かる。
(すごい。杖だと全然違う。)
心のなかで感嘆の声を上げながらも、魔力を練り上げていく。練り上げた魔力を杖に通していくと、杖がぐんぐん魔力を吸い上げていくのを感じる。すると杖の先端の炎の宝珠が輝きをましていき、マジックサークルの数も更に増える。
それに合わせて光となった臨界状態の魔力がサークルの周囲で踊る。
「これが私の全力!!!」
私はありったけの魔力を込めて火球を放った。
──ファイアーボール
瞬間、私の視界がブラックアウトした。
身体に力が入らない。声も出せない。
私の目に最後に写ったのは、人並みサイズの火球が上空に向けて飛んでいく姿だった。
(全力でこれか……。)
魔力を完全に使い果たしてしまっていた。
素手で魔法を放った時のようにMPを1だけ残すつもりだったが、下り坂で急には止まれないように魔力の放出を抑えられなかった。杖だと素手とは勝手が違ったようだが今更気づいても遅い。
(……まさか……このまま死んじゃうなんてこと……
……無いよね。)
春夏が意識を手放した直後、放った火球が上空で何かに当たり──
──夕日で薄っすらと赤く染まり始めていた空の何かが割れた。
◇◇◇
「ん……」
私が目を覚ますと、そこにはよく知るクロス張りの天井……
ではなく、木目調の天井が見える。それに、木の香りがする。
外を見ると、薄っすらと空が赤みがかって見える。時刻は夕方だ。
これが、知らない天井というやつか。
「マスター、目が冷めたのですね。」
「あ、アイカここは?」
◇
アイカに現状と経緯について一通り説明してもらった。
どうやら私は、魔力切れで気絶してしまって丸1日眠ってしまっていたらしい。
私を護るために、周辺を調査しつつ結界を張り、安全が確保できたところでゴーレムを使って、家を作ることにしたそうな。
ちなみに庭には池もあるようだ。
井戸は別に掘ってある。
地下100mから組み上げており、解析で飲めることも確認済みだそうだ。家造りを終えたゴーレム達は周辺の警備と、食べられそうな動物や魔物を探しに行っている。
「この家ってなんだかファンタジーだね……!」
「気に入って頂けましたか?」
目覚めてすぐはぼんやりしてて気づかなかったが、照明が謎の光る植物だったり、部屋に置かれた家具や小物の周辺に光が舞っているように見える。
「もちろん!すごいよアイカ!!」
「えへへ、頑張ってよかったです!」
アイカはそう言って、にへらと笑った。
「ところであのキラキラって?」
「ああ、精霊達の光ですね。マスターにも見えるのですか。」
私が部屋を舞っている謎の光について訪ねると、どうやら小さな精霊達のようだ。微精霊とも呼ばれるらしいが。
なんでも、家を作るときに手伝ってくれたらしい。
「え!精霊さん!? ありがと。」
私が例を告げると、光がぴょんぴょん飛び跳ねた後、私の頭上で踊り始めた。
「どういたしまして。また何でも手伝うよ。とのことです。」
「え?言葉わかるの?」
「分かるわけではないですが予測可能です。」
「すご!それも大精霊の力?」
そう尋ねたのだが。
どうやら、アイカの場合は言葉が分かるわけではないようだ。精霊達の瞬きや動きの微細な変化と、行動パターンの関連性を分析して、考えを予測しているらしい。
(これが元AIの血?というやつか。)
まぁ元は血なんて流れてないんだけど。
なんて考えていると。
「マスター、目覚めの一杯です」
「え?あ、ありがと」
アイカに透き通った水が入ったコップを渡された。
渡されたコップは、少し無骨だが透明なガラス製だ。これも手作りなのだろうか。
一口くちに含む。
「あ、美味しい」
ふう、生き返る。
思えば、こちらの世界にきてから初めて何かを口にした気がする。
私はあっという間に飲み干し、おかわりを要求した。
「マスター、身体の具合はいかがですか?」
アイカが水瓶からコップに水を移しながら尋ねてくる。
「んー、痛みとかは無いけどお腹が空いちゃった。」
「果物で良ければありますよ。他の食料は現在ゴーレム達が調達中です。」
おまけに果物も見つけてきてくれているとは、しかも私の好きなりんごだった。
この世界にもりんごがあるとは嬉しい限りだ。お腹が空いていたこともあって、私はりんご2つをあっという間に平らげさらに3つ目を食べている。
ちなみに、アイカが念動でナイフを使って丁寧に革を剥いてくれて、うち2つはうさぎの飾り切りつきだ。芸が細かい。
(こういうの私的には結構ツボなんだよなぁ。
私は幸せものだ。)
アイカにも私の感じた幸せが魂のつながりを通して伝わったのだろう。それに気づいたアイカが花が咲いたような満面の笑みで微笑み返してくれる。
アイカも妖精の姿なので食事ができるらしく、私にとっては一口サイズのりんごを両手で持ち私の肩に乗ってきた。ここがお気に入りらしい。アイカは一生懸命に両手で持ったりんごを少しずつかじりながら食べている。お互いの幸せがお互いに流れ込むため相乗効果でものすごい幸福感だ。
異世界に突然きてしまったがアイカと一緒なら、きっと楽しくやっていける。
アイカが一緒で本当に良かった。
「アイカ、ありがとう。」
「……はい。」
小さく笑うアイカの頬に一筋の涙がつたっていた。
◇◇◇
私達は暖炉の火の近くで揺り椅子に腰掛け、ハーブティーを飲んでいた。
外を見ると日が完全に落ちて真っ暗だ。
目を閉じれば……
心地よい虫の声と、パチリと弾ける薪の音が心を癒やす。
「……明日は、私も周辺を見て回りたいな。」
「はい、お供します。」
アイカが嬉しそうににっこりと微笑み返してくれる。
ゆったりとした時が流れていたのだが──
ドスンドスンドスン!!!
──突如、地響きが聞こえ、振動でアイカが作った食器がカタカタと音を立て始める。
「……地震!?」




