転職(ジョブチェンジ)
「アイカ、私の今の職業ってどうなってたんだっけ?」
「確か" ─ "となっておりましたね。」
「それって無職ってこと? なんか印象悪い。」
「マスターの場合は大学生なのですから、無職とは呼びませんね。」
アイカのマジレス。
まぁ正直なところ私としては、アイカもいるし卒業したらネオニートもありかなとか思っていたのだが、そもそもまずは異世界から帰還できるかも分からないのだ。
それにしても……
「なんでこの装備を着ているんだろう。」
「いくつか考えられますが、装備品の職業制限が無くなったか、非表示でも実は剣士系職業なのかも知れませんね。」
私が呟きながら思案しているとアイカが答えてくれた。
今着ているクリムゾンシリーズの装備はナイトやクルセイダーなどの剣士系職業でしか装備できないはずなのだが、なぜ今装備できているのだろう。うーん、女神様がなにかしたのかな?
「指輪に使用回数制限はないようですので、実際に試してみてはいかがでしょうか?」
「まぁ確かに試してみれば分かるよね。」
アイカの言うとおりだ。あまり複雑なことを考えても答えはどうせ出ないだろう。そう思って私は思考を切り替え、転職を試してみることにした。
「プロフェス。初仕事だよ。」
『うむ。我に強く念じよ。』
転職をする場合は、なりたい職業をイメージして指輪に向かって念じれば良いらしい。
私は少しだけ思案する。どの職業が良いだろうか。やはり、上位の職業を試してみたいが、ものによってはステータスが下がったり状態異常になる物があるので、今は無難なものが良いだろう。
考えることきっかり10秒。
よし決めた。
──転職──魔法使い
瞬間、指輪が少しだけ熱を帯びると同時に、指輪にはめられた虹色の宝石がまばゆいほどの光を放った。宝石の輝きと同時に、私の全身も白い輝きに包まれた。あっという間に先程まで背負っていた魔剣と、身につけていたクリムゾンシリーズが光となって消えていく。
転職は成功した。
3秒間の静寂。
その姿が顕になる。
だが──
「キャァァァアアアアアーーーッ!!!」
「マスタァーーーッ!!!」
── 一糸もまとわぬ姿であった。
たったの3秒間だけではあるが、透けるような白い肌に細い肩、洗練された美しい形の双丘、健康的にくびれた細い腰回りと小さな臍、そしてなめらかな脚線と、それらすべてが白日の下に晒されてしまった。
事態に気づいた私はとっさに左手で柔らかな双丘を隠し、右手でアイテムボックスに手を勢いよく突っ込む。それと同時にアイカが飛んできて小さい手足をめいいっぱいに広げて私の身体を隠す。
『んむぉ……!』
左手にはめた指輪が双丘にむにっと押し付けられた際に、そんな声が漏れ聞こえてきた。
(……!)
春夏は思わず顔をしかめた。
私はそのまま目にも留まらぬ速さでしゃがみ込み、アイテムボックスから取り出した漆黒のローブを羽織った。
これで安心……
……はせずに魔法使い用の装備──黒が基調で細部まで金の糸で装飾が施されたノワールシリーズ──に身を包んでいた。
ちなみに、こちらも非常に強力な装備で魔力とMPが大幅に強化される。もっとも、加算ではなく掛算なので素のステータスが低い私にとってはあまり効果が期待できないが。防御力も十分に高いので現時点ではこの装備で問題ないだろう。我ながらあの状況でよくこの装備をとっさに選べたものだ。見た目的にも、いかにも魔法使いと言った感じのローブにとんがり帽子と分かりやすく魔法使い然としているので私は好きだ。しかし、クリムゾンシリーズと言いノワールシリーズと言い、ドラゴンズリング内のアイテムはコンセプトカラーがそのまま装備名称になっていることがしばしばあるような気がする。
っと、そんなことよりも……
「プロフェス……なにか言い残すことはある?」
「プロフェスさん。分かってますよね?」
私は額に青筋を立てながら神話級の輝きなど失われ青ざめている全能の指輪を鋭い眼光で睨みつけ、自分でも驚くほどの冷たく低い声で言った。
アイカも相当に怒っているらしく、プンプンとした様子で腕組みをしてプロフェスを睨みつけていた。
『うむ…その……あれだな……
……見事であった。』
なぜそんなことを言ってしまったのか
プロフェスが大いに後悔したのは言うまでもない。
◇◇◇
満身創痍。
プロフェスは流石に神話級なだけあって、本来であれば通常の手段では傷一つつかない……はずなのだが、何があったのか。ボロボロであった。
それはまた別の機会に語るとしよう。
ただ私よりアイカの怒りが凄まじかったため私は圧倒されてしまって、かえって溜飲が下がる思いだったことはここに記しておこう。
さて、プロフェスの説明によると、指輪を手に入れてすぐの状態では職業ごとの装備のデータが一切ないらしい。そのため、初めて転職した職業だと『装備なし』の状態になるそうなのだ。
(確信犯じゃん。)
だが、ゲームだと流石に装備なしでも布の服的なインナーが表示されるため裸になることは無い仕組みだった。しかし、こちらの世界ではそんな機能なんて当然無いから、すっぽんぽんにされてしまうという事だ。それで気づかなかったという説明であった。
(ふーん。あ!)
──ということは私は、持っている職業の種類の分だけまた裸にされなければならないということだ。
(はぁ……。)
落ち込むこと5秒。
(少しだけ現実逃避をしよう!ちょうど試したい事もあるし!!)
とあっさり気持ちを切り替える春夏であった。
◇
「今度こそちゃんとしたの放てるかな」
そうつぶやきつつ、アイテムボックスの中を探る。
「魔法ですね。」
『職業補正がつく故に魔法使いとなった今の主であれば魔法の発動は問題ないはずだ。』
アイカとプロフェスが答えた。
「まぁでも念の為試してみるよ。感覚も掴みたいし。」
『それが良かろう』
と言ったような会話をしながら私はアイテムボックスから1本の杖を取り出した。
取り出したのは火喰い鳥の杖だ。
見た目は木製で先端には火喰い鳥の装飾が施されている杖だ。ひときわ目を引くのが赤く内部で炎がゆらめいているこぶし大の宝玉であり、火属性攻撃に特化した杖だ。
名前の通り、火喰い鳥の力が宿っているとされており、火消しにも使えるため火属性の攻撃をある程度防ぐことができる。
しかし、火属性の敵を相手に火属性攻撃は有効でない場合が多いため、ほとんど使う場面がなかった中級装備だが、今が使い所だろう。敵を相手にする訳でもないから、試し打ちにはちょうど良い。
丁度いい的がないかと周囲を見渡す。
周囲は森で木が多いため火事にでもなったら大変だと考えた私は、ひとまず上空に向かって魔法を放つことにした。
都合の良いことに、私達がこの世界に降り立った場所は森の中ではあるがどういう訳か開けた草むらになっていたので、上空に対して遮るものがない。
私は杖を握る感触をよしよしとうなずきながら確かめる。
行けそう。
「アイカ、念の為私の今のステータスを見せて」
「がってんしょうちのすけ。」
「『?』」
そんな言葉どこで覚えたのだろうと怪訝な表情をする私。
プロフェスもそう思っているのだろう。私の目には、指輪に浮かぶクエスチョンマークが見える……気がする。
そんなことを考えていると、アイカは私の肩に乗って解析を始めた。
さて、魔法使いはどんなステータスなのか。




