腐ったりんご
ジャックの顔は見たくなかった。
自分が教え育てた生徒が裏切って何食わぬ顔で双子の姉に近づいて来る?
どの顔下げて?
お前たちのことは忘れてやる。
だから目につかないところで好きにやってくれ。
「ところで探索者始めたんですか?
弟さんがなくなった十階層に行ってお参りしませんか?
僕たちが連れてってあげますよ。
花とかお供えは僕たちの方で用意してますから。」
ほう?計画的だな。
これは断れない雰囲気だ。
もしかして本当にいまさら良心が痛み出したとか?
それならそれで茶番に付き合っても良いかな。
たったさっき行って来たばかりだけどね。
彼ら七人はもう十一階層まで潜っているのだろうか?
普通のミノタウロスを相手にしてるから十階層のボス部屋は楽勝だろう。
「ここからだと一緒に十階層に行けます。
チェリーさんは心配しないで僕らに任せてください」
転移魔法陣で一気に十階層に行くと、途中のミニミノタウロスを蹴散らして一気にボス部屋に着いた。
「さあ、一緒に入りましょう。
ロッキーの弔い合戦です。
僕らがチャッチャッと片付けますから見ててください」
本当に何の苦労もなく階層主のミノタウロスは切り刻まれた。
「さて、花束とお供えをここに置いてっと」
ジャックはニヤリと笑うと、
「お姉さんにはロッキーの霊前でぼくたちに犯されて死んでもらいます。
姉と弟仲良くここで死ねるなんて幸せですね。
ああ、大丈夫です。
もうドアは閉まったので誰も入って来ません。
何があってもこの中のことは誰にも分かりませんよ、安心してください」
そしてみんながげらげらと笑ってズボンを脱ぎ始めた。
私は最高の笑顔を見せた。
「そうね、本当にこの中のことは誰にも知られることがないわね。私待ってました」
「「「えっ?!」」」
私はにこやかに言った。
「もしかしてロッキーはあなた方によってここに放り込まれたとか?
それと『ダンジョンの靴音』の五人はあなた方が殺したとか?
まさかそんなことはないでしょうね?」
ジャックたちは一瞬ドキッとした顔になったが、開き直って笑った。
「そうだよ、ご名答。
ロッキーはこのボス部屋の前で俺たちにボコられて手足を折られ肋骨を折られて中に放り込まれたのさ。
よくわかったな、流石双子の姉弟だ。
夢にでも知らせがはいったのかい?
『ダンジョンの靴音』の連中もおだてあげてここに誘い込んで隙を見て刺殺したのさ。
そしてあんたはここで俺たちに犯されてから死ぬんだ。」
「ふうん、そうなのか?
でもどうしてロッキーを殺したの?
君たちの先生だったじゃない?」
「あいつはただ俺たちに利用されていただけさ。
ただ俺たちが従順な振りをしてれば喜んで色々なことを教えようとするんだ。
十階層の先も行けない能無しが得意になって教えてるんだ笑えるよ。」
私はスラリと剣を抜いた。
「ジャックさん、あなたは剣が得意だそうね。
私と勝負しようよ。
弟のことを侮辱されて黙ってられないな。
受けてくれる?」
ジャックは邪悪に笑った。
「へええ、今日探索者Fランクになったばかりの女が俺と勝負するって?
面白い。
やってやろうじゃないか。
余ほど死にたいとみえるぜ」
「あなたらしいわね。
絶対勝てると思う勝負しか受けないもの。
あなたはきっとロッキーを油断させといて剣を奪ったのでしょうね。
ダンジョンの靴音のメンバーも信用させといて背中から刺したのでしょうね」
「なんで俺がロッキーを恐れる必要がある?」
「ウフフそう言いながら万が一負けたら嫌だからだまし討ちにしたんでしょう?
しかも数を頼んで。
あなたらしい卑怯な意気地のないやりかたね」
「てめえ、その口を裂いてやろうか」
「あら、さっきからどうしたの?
かかって来ないの?
そうか、私を斬ろうとすると反対に返される気がして仕掛けて来れないのね?」
チェリーは計算してジャックの構えに合わせていつでも反撃できるように形を変化させて行く。
だからジャックは飛び込めない。
却って剣術を知っているからこそ入り込めないのだ。
だからチェリーは誘った。
「そこだ!……うわっ!」
ガシャ――ン
隙を狙って飛び込んで来たジャックの手元を剣の平地で叩くと、ジャックは剣を落とす。
「勝てると思った?
甘いなぁ。
これじゃあ、ロッキーには勝てないね」
そこでまたスキルの声がした。
『弓士と魔法使いが狙ってます。
亜空間の入り口で受けて出口を襲撃者の背後に作りますか?
亜空間パスと言います。」
イエス。
「うわっ」
「ぎゃああああああ」
弓を射た男が背中に矢を受けて倒れる。
魔法使いが自分で撃ったファイヤーボールを背面に受けて炎を背負って悲鳴を上げる。
「あら?自業自得の人が二人いるわね」
槍を持った男が突き殺そうと突進して来る。
槍を躱して顔面に剣の平地を叩きつける。
「グガッ」
槍士は鼻血を出して仰向けに倒れ痛がって足をばたばたさせる。
「そのくらいで大袈裟な。
あなたはロッキーの足の骨を蹴り砕いたんじゃなかった?」
「どうしてそれを?」
「ロッキ―が夢に出て教えてくれたの?
あなた達は恩知らずのクズだって」
チェリーの視界から外れてジャックは剣を拾って、構えながら仲間に目配せする。
一斉にやろうぜと。
ジャックは無言で忍び寄ると背後から剣を突き出す。
弓士と魔法使い以外の男たちが手に手にバトルアックスやハンマー、短剣、金棒などで飛び掛かる。
もちろん全部躱せる訳はないが、攻撃が当たろうが当たるまいが関係なく、平地で頭部を叩いて廻る。
向こうの攻撃は当たっても外れても痛くも痒くもない。
こっちの攻撃は平地で叩くだけだが、ダメージが大きい。
持っていた剣は亜空間鎧装の対象なので、それ自身が防御力&攻撃力が半端ない。
終いには剣を放した手で叩く。
やがてまともに起きている者は一人もいなくなる。
「どうしようかな?
ここでみんなの手足を切って、ゆっくり死ぬのをみておく?
ううん、冗談じゃなく本当にやるよ?」
「ま待ってくれ。
命だけは助けてくれ。
なんでもする」
ジャックが泣き言を言った。
「本当……あんたたちは粋がって威張ってたのは臆病だったからなのね。
それじゃあ、ジャック、あんたは他の六人を縛りなさい。
あんたは私が縛ってやるわ。」
全員が縛られた状態でチェリーは言った。
「さてっと、ギルドに連れて行って自分たちのしたこと二つとしようとしたこと一つを残らず喋って貰うわ。
それともここで死ぬ?」
「「「白状します!だから殺さないでくれ!」」」
「向こうでそんなことしなかったってとぼけても駄目だよ。
これを飲んでもらうから」
チェリーはポーションを一滴ずつ舐めさせた。
もちろんそれはただのポーションだ。
「これは自白剤だけど、正直に言うと何もないけれど、嘘を言うと苦しんで死ぬ薬よ。
高かったんだからね」
宝箱の中身のポーションをこっそり使って勿体なかったと思ったけどそれはしかたない。
転移魔法陣でダンジョン入り口に戻ると早速ギルドに数珠繋ぎの不折の剣のメンバーが連行された。
ギルド長室で七人に襲われそうになって返り討ちにしたと言ってから白状させようとすると、さっそくジャックがとぼけようとして急に苦しみだした。
それもその筈亜空間パスで彼の喉仏の下のツボにチェリーが指で突き刺したからだ。だがそれは誰にも見えない。
指は亜空間鎧装のお陰で鉄の棒のような固さだ。
ジャックはすぐに本当のことを残らず喋った。
他の者たちも右へ倣いで、ギルド長から処分が下された。
探索者資格はく奪の上犯罪奴隷落ちである。
その身柄の売り渡し金と装備品武器を始め宿舎にある私物は全て売却され、ロッキーとダンジョンの靴音のメンバーの遺族に支払われる。
だがチェルシーは自分が受け取る分は遠慮した。
何故なら自分は死んでいないからだ。
それですべてが終わった。
チェリーは胸が痛かった。
とても優秀な教え子だと思っていたのに。
腐ったリンゴを食べて腹を下したような不快感がいつまでも残った。




