狼の月十三日
今日は十一日ぶりに川下のレノン村まで足を延ばした。
十二キロというけれどそんなに時間はかからなかった。
流れに逆らわない分楽だったせいもある。
行くとなにやら人が争う声がする。
三人の男が子供たちを掴まえてどこかに連れて行こうとしてるのだ。
川岸には小舟が繋がれているから、それで誘拐しようとしてるのか。
見ると対岸には檻の付いた馬車が停めてある。
とすると計画的に小舟は予め用意しておいて対岸の馬車で閉じ込めて連れ去り違法奴隷で売りさばく積りだな。
私は躊躇った。
飛び出しても良いけれど、フルール村のようなやり方では駄目だ。
力加減を上手にやらないと、惨殺死体を三つつくることになる。
その時、初めてスキルの声が聞こえた。
『同重量同筋力スキルを発動します。
相手に触れた途端敵と同重量同筋力で対戦できます』
なんてことだ!
これこそ私の理想そのもではないか!
ウェイトが同じで力も同じなら後は武道の技術のみの戦いができる!
「まちなさい!その子たちをどこに連れて行くのです?!」
「あっ、チェリーのお姉ちゃん」
見ると捕まっていたうちの一人はリサという子だった。
「おや?どこから現れたんだ?」
「ちょうど良い。
面も体も良いから高い値段がつくぞ」
「よし、俺が」
一人が自分が捕まえていた子供をもう一人に任せて、私を捕まえようと飛び掛かって来た。
私は懐に飛び込んで背負い投げでそいつを川に投げ込んだ。
ドッボ―――ン!
「うおっ、なにかやってるぞ。
それなら俺に任せろ」
たった一人に三人の子を任せて少し筋肉質の男が両手をボクシングポーズで構えた。
間合いに入ってストレートを避けながら腕に触ると、私は相手の目を見ながら足をあげて顎を蹴った。
その足をおろしながらさらに密接な間合いになって背中を向けてから回転して左肘で横っ面を打ち込む。
そのまま左方向の回転を続けて右フックを側頭部に打つとその三連続攻撃で相手は沈んだ。
後は三人の子どもを逃がすまいとおたおたしている男の背後から股間を蹴って終わりにした。
ウエイトや力のハンディがない戦いができて私の心は日本晴れだ。
「あそこです!おーい無事かーー」
村人が兵士たちを連れて来た。その中に少しだけ身なりの良い騎士がいて私に挨拶した。
「私はこのレノン村の領主で騎士爵のアーネスト・レノンです。
この度は人さらいから子供たちを救ってくれてありがとうございます。」
するとリサちゃんがレノンさんに耳打ちをする。
「ああ、あなたが水に濡れない不思議なお姉さんのチェリーさんですね?
もしかして上流のフルール村で騒がれた川のお嬢様って貴女のことでは?」
「はあ、どうもそう呼ばれているようで」
「どうぞ私の家に来てください。
せめて食事でもお礼に」
私はその食事という言葉を聞いてお腹がグー――ッと鳴った。
そしてそのまま子供たちと一緒に領主宅にお邪魔することに。
それとは別に人さらいどもは兵士や村人に縛られて引きずられて行った。
出された食事は高級食材ではないが農村の素朴な料理で量がたくさんあったので、子供たちと一緒に腹いっぱい食べた。
レノン騎士は私のことを一切詮索せずにお礼だけ言って後は関係ない世間話をして別れた。
別れるとき対岸に行って馬車を担ぎながら馬も川を渡して連れてきてやった。
そして馬車の中には他所から攫って来た子供が三人も入っていたのには驚いた。
その子らはレノンさんに任せることにして、私は川の中を悠々と上流へと進んで戻った。
同重量同筋力スキルかぁ……
略して同重同筋?
これは便利だ。
相手と対等条件で戦えるなんて武術マニアの私には最高のスキルね♪




