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狼の月六日

昨日は八日目と同じ筋成長になっていると言ったが、基本筋力が伸びれば外殻筋も同じ数値になってバランスが取れるので、力は倍になるということが分かる。


だが疑似体重が百キロの大台に登った時にそれと同じ数値の結界防御力にある効果があることが分かった。


つまり防御力は攻撃力にもなるということだ。


一昨日上流の村で手刀を使って魔獣の頭を唐竹割にしたが、それは亜空間鎧装の部分が強靭になっていたため手刀を包む亜空間の膜が硬くなってまるで斧のような働きをしたということだ。


私はそのことを思い出して試したことがあった。


衣服が体と同じに亜空間の膜で包まれているとすれば、何者もその服を掴んだり破くことはできない。それで、わたしは一枚の紙を手にした。


そしてその紙が亜空間の膜に包まれるまで神経を集中してから、その紙で野菜を切ってみた。


なんとスパスパ切れるではないか?!


例えばその紙で人間の首を切り落とすことも可能なのかもしれない。


何という恐ろしい能力……スキルなんだろう。


私は震え上がった。


極端なことを言えば私の髪の毛一本で人間の胴体を上下に切り離すこともできるのではと考えがそこに及んだとき私は恐怖に震えた。


震えたけれど笑顔は崩さない。


いつも笑顔でいたいから。


私は笑顔のまま思う。


ああ、私は今月の一日からここまで来て、これほどまでに人間らしさから離れたところに来てしまったのだと。


すると私の笑顔の瞳から涙がポロリと零れ落ちた。


自分が選んだ道だから。


そしていくら包丁を手にしてもそれを凶器として用いなければ良い話ではないか。


包丁は野菜を切って料理に使えば良い話だ。


私は涙を拭うとそう自分に言い聞かせた。


顔に浮かべた笑顔はそのままで。


今日も毎朝のルーチンは瞬く間に終わり、することがなくて川に入った。


今度も川上に向かった。


何故か最近はやたらお腹がすくようになった。


でも孤児たちの為の朝食を余分に食べる訳には行かないから、普通の量で我慢する。


でも上流に向かうと水の抵抗が大きいから余計腹が空くような気がする。


実際に水の中で走りながら腹がグーグーと音を立ててるのがわかる。


筋繊維の分裂はそんなに蛋白質とか糖質のエネルギーを必要とするのか?


この間魔獣と戦ったフルール村の近くを通った時何となく気になって水から顔を出したら子供たちも村人も川岸に並んで何かを並べていた。


それは果物とか団子とかいろいろな食べ物のお供えだ。


私は腹がグー―――と鳴って、生唾がゴックンとなった。


「あっ!」


「リバーメイデンさまだ」


「川の守り神のお嬢様、どうぞ私たちのお供えをお食べ下さい。

そして私たちをお守りくださいまし」


「もしお望みなら若い男の子を生贄に捧げますので、どうかお怒りにならぬようお願い申し上げます」


いやいや何言ってんの?


生贄なんていらないよ。


でもお供えは頂こうかな?


私はニコニコ笑顔で川から上がってお供えの食べものを頂くことにした。


私が近づくと、村人も子供たちもサー――ッと後ろに退却し、十メートルくらいの距離を保った。


いや、そんなに離れなくても良くない?




食べるけど……うまいっ!


けれどできればカルシウムと蛋白質がもう少し欲しい。


となれば焼き魚かな?


そうか私って信仰の対象になってるのか?


それじゃあそれにあやかっておねがいしようかな?


「ごほん、村の衆よ、お供えありがとう。

それで何か勘違いしてるようだが、生贄はいらない。

その代わりお供えに焼き魚を加えてくれないかな?

魔物と戦うには魚や肉の料理が必要なのだ。

これからもっと上流に行って、魔物を間引きして来るから、そいつらが下りて来ないように頑張る積りじゃ。

ああ、それとそんなに離れないでくれ。

嫌われているんじゃないかと淋しい。

お前たちには悪さはしないから安心するのだ。

またお供えを食べに来ても良いかな?」


「「「もちろんでございます、お嬢様!!」」」







リバーメイデンが去った後、村人は口々に言った。


「あの笑顔とっても美しかったけれど、何故か怖かったな」


「うんうん、おらもそう思っただ」


でもそんなことを言われていたとは当人は夢にも思ってない。







今日もこの後防具屋に行って鎧の中に入れてもらった。


店主はとても親切で愛想良く、私としても頼みやすかった。


鎧も綺麗に磨いてくれて、店に来たお客さんたちにも私の邪魔をしないように目で合図するまでの気の使いよう。


いずれこのお返しはしなければと思っている。


でも今はお金がないので……。




今日は孤児院の子ども達の体重を合計して、天秤棒の両脇の大皿に乗せ持ち上げてみたら六人で百二十キロになった。


天秤棒と大皿は私の自作だ。


シスターも子供たちも私の怪力を初めて披露したせいか、目玉が飛び出るほど驚いていた。


どうも筋繊維成長のの加速度が止まらない。


ミッチェルさん、どうなってんの?


これって訓練六日目の値じゃないよね?


はっきり言って十日目の数値だよっ!!


このまま行けば、どこかで自爆しないかなぁ??


ああ、不安と悲しみがとまらない!!


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