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狼の月五日目

本来なら今日の終わりで、累計負荷が二十五キロになるから、基本筋力三十五キロ、疑似体重最大値八十五キロ、外殻筋三十五キロ、よって最大合成筋力七十キロになる筈だった。


そして結界防御力=疑似体重だから八十五キロの攻撃までは衝撃をゼロに出来る筈だ。


それだけでも凄いことなのに一日分先取りして筋力八十キロ以上になっている。


そして重りを集めて持ち上げてみたが、なんと百キロまで持てるようになっていた!!


これは八日目の終わりの数値になっている。


つまり一日分先取りじゃなくて、三日分も先に進んでいるということだ。


すべてはあの二日目の川下り十二キロが災いしているのだ。


昨日の川登りも関係しているかもしれない。


つまり通常だと五キロ分の負荷で過ごすはずが、水中で水の抵抗を受けながら動いたせいで、筋繊維の分裂成長への加速的な刺激になったのかもということだ。


そして昨日のような全身骨折の恐怖に耐えるという不祥事が起きたということだ。


つまりそれが余剰の刺激になって筋繊維の分裂を促進させてしまったとか……。


ああ。


もうどうでも良い。


昨日の魔獣との戦いで十分な力が付きすぎたというのが分かった。


もしああいう風な制御が付きづらい状態になったら、どうする?


筋繊維が爆発的に分裂し始めて全身の骨が折れたら?


それはともかく、今日孤児院の子どもに顔が怖いと言われた。


鏡を見ると昨日だけで眉間の皺が深くなったようなのだ。


顔の筋肉で、憤怒の表情が強く発達したら、金剛力士像のような顔になってしまう!!


だから私は美しい表情の為に笑顔でいることにした。


笑顔笑顔笑顔だ。


スマイル、スマイルだぁぁ。


眉間の皺なんか滅びてしまえ。


眉間の皺と法令線はいらないっ。


どんなにつらい時でも苦しい時でも、笑顔なんだ!


祈りの心を笑顔で表す!


亜空間鎧装の訓練は笑顔でのりきるぞぉぉぉ。


いけない。


ちょっと興奮しすぎた。







防具屋の親父は鎧を磨いている手を止めた。目の前にまたあの少女がやって来たのだ。しかも今日は満面の笑みを浮かべて。


「あのう……その鎧磨いてますが、どこかに売りに出すお積りでしょうか?」


「い……いや、手持無沙汰だからついつい磨いていただけだが。

う……売る予定はねえ」


「良かった。

実は今日も体の骨が変な音で軋むので、またその中に入って良いでしょうか?

もしお金が必要なら……」


「必要ねえっ!

入りたいならどうか入って行ってくれ。

俺は何も見てないし何も知らねえ!」


「ありがとうございます。では」


親父はその笑顔を見て鳥肌が立った。


見れば見るほど最上級の美少女だ。


だがこの変な申し出を断れば、少女の笑顔は夜叉の顔になって自分を呪い殺すのではないかと恐怖を感じたのだ。


本当は関わりたくないのだが、自分は人外の何かと変な縁を持ってしまったという不運に遭遇したのだと思ったのだ。


ただこれだけで済むならそれで良い。


どうか好きなだけ入って行って、大人しく帰ってくれればそれで良い。


いつの間にか親父は祈りに似た思いを胸に抱いていた。


たまに入って来た客が店の隅に置いてある子供用のフルアーマーに関心を寄せようとすると、親父は目顔で『関わるな』という合図を送る。


するとその客は何かがあると察して目を逸らせるようになる。


主に午後から黄昏時の店でそういことが起きるのだ。


だから常連客はその時刻に店に来て、目の端に見えるフルアーマーが細かく振動していたり、ミシッミシッと不気味な軋み音を聞いた時も、何も聞かなかったように日常会話を交わして帰って行くのだ。


いつしかその店に来て、その鎧のことを話題にするのはタブーになったというのはこのずっと先の話だが。


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