狼の月三日
朝目が覚めたら顔を洗う。
耳や首の後ろも洗う。
そして走る。掃除をする。
他の手伝い。子供の相手。
日頃のルーチンが熟されて行く。
今回はすぐ川に入らず、ロッキーに化けて例の店に行った。
「なんだ。何しに来た?
まさかオーブを返しに来たんじゃないだろうな?
もうあれは返さないぞ」
「そんなんじゃない。
今日で三日目だ」
「なにが?
えっ、もう始めたのか?
それで何ともないのか、お前?」
「なんだ。なんかあって欲しいような口ぶりだな」
「そんなことねえよ。
俺はお前のこと好きじゃないが、死なれたら寝ざめが悪いからよ」
「聞きたいことがある」
「なんだ?」
「あれをやって死んだ奴はどうして死んだ?
知らないか?
まさか説明書を読まなかったとか?」
「俺の店は関係してないからわかんねえよ、そんなこと」
「だよなあ、そんなこと分かる筈が」
「ただなあ……こういう話を聞いたことがある。
そいつも挑戦した五日目だったか六日目だったかになって、あまりにも自分が凄い超人になったもんだから、どういう訳か慢心してしまったんだな。
そして酒を食らい、飲み過ぎて次の日は昼まで寝ていたんだよ。
そして体が重いのは二日酔いのせいだと思って放っておいた。
迎え酒をのんだりしてなあ。そして次の日は起き上がることができなかった。
後はご想像の通りだ。
なんだこれを聞きたかったんじゃないのか?」
「そいつは馬鹿なのか?」
「いや頭は良いと聞いたぞ」
「いや、馬鹿だ。
本を読んでいたらそんな無謀なことはできない筈だ」
「本を読んであんたも思わなかったか?」
「なにを?」
「面倒くさくて分かりづらいことをダラダラと書いて正直まともに相手にしなくてもいいかなんて」
「少しは……思った」
「だからまともにはとりあわなかったんだよ」
「やっぱり……馬鹿だ」
「何か言ったか?」
「いや別に。分かった。
とても参考になった。
だがこれは知ってるか?
訓練の後数値が予定以上上がったという話は?」
店主はジロリと見た。
「そいつはきっとやり過ぎだよ。
やり過ぎもよくねえ。
疲れがたまっていつかは逆効果になる」
「ありがとうよ。これは取っておいてくれ」
チェリーはスクロールを店主に渡した。
「なんだ、まだ持っていたのか?
おい、これは弓矢や投擲の百発百中すきるじゃねえか」
親父の喜ぶ声を背にチェリーは店を出た。
そして周囲に人がいないのを確かめてから川に潜った。
今度は川上側の城壁の鉄柵を壊して昨日とは反対側を少しだけ歩いた。
やり過ぎは良くないのでそれで戻る。
昨日は十二キロの長さを水の中と陸上を進んだので数値が一日分先に進んでしまったようだ。
何故なら昨日帰ってから持ち上げた重さは四十キロの筈が何故か五十キロになっていた。
これは今日の分の終わりに得る筋力だった筈だ。
つまり十二キロ往復分の運動が余計だったのだ。
そのせいで筋繊維の分裂が進み過ぎてしまったのかもしれないのだ。
今日はきっと六十キロ持てることになるだろう。
それは成人男子なら持ち上げることができるとされている重さだ。
今日一日頑張れば女の身で普通の男並みの力が得られる。
待て待てここで満足しては駄目だ。
気を引き締めて明日もがんばらばなくては。




