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手に入れたブツ

シスターの名はシャルロッテと言った。


彼女はチェリーに経緯を簡単に説明した。



「子どもたちが襤褸布に包んで貴女を運んで来た時は驚きました。

どうして地獄門のゴミ捨て場に貴女が捨てられたのでしょう?

肋骨が三本、鎖骨と両手両足の骨が一か所ずつ折れていました。

副木を当てて初級のヒールをかけ、後は冷やして湿布をして自然治癒に任せました。

頭の怪我がなく、脛骨が折れてなかったのが幸いでした」




そのときチェリーは幻を見聞きした。


笑っているジャックの顔。


「首や頭はやめろ。意識をもったまま殺されるのをじっくり味わってもらうためだ」


「それはいい気味だ。動けないからミノタウロスに頭を踏み砕かれるのを待っているなんざ絵になるぜ」


チェリーは首を振る。


今のはただの幻覚だ。






「どうかしましたか?眩暈でもするのですか?」


「いえ、大丈夫です。助けて下さってありがとうございます」


「どこか連絡するところがありますか?誰かにこんなことされたのなら公爵領の騎士団に訴えることもできますよ」


「いえ、連絡するところはありません。騎士団にも訴えないでください」


「えっでも。これは何かの事件に巻き込まれたように見えますが?」


「はっきり覚えていないのですが、ダンジョン内の崖のような所に足を滑らせて落ちたような気がします。」


「それならギルドに連絡しなければ」


「お願いです。ギルドに知られると私の失策が明らかになるので黙っていてくれませんか?

回復したら自分で説明しますので」


「分かりました。」


「申し訳ありませんが、治るまで私をここに置いて頂けませんか?

その後御恩返しにこの教会の中の掃除とか御奉仕したいと思います」


それから数日してチェリーは教会から借りた女物の服に身を包み探索者ギルドに向かった。


「すみません。

弟と連絡が取れないので何かあったのかと」


ギルドの受付嬢のメアリーは普段から世話になっていて、双子の姉がいることも教えていた。


「それじゃあ、あなたがチェリーさん?」


ギルドの奥の応接室に案内されたチェリーは弟のロッキーが十階層のボス部屋に1人で挑んで帰って来ないことを知らされる。


「彼の教え子たちが止めたそうですが、良い所を見せたかったらしくて、一人で飛び込んで行ったそうです。」


「あのう、ロッキーが使っていたという仮眠室はどこでしょうか?」


「遺品ならもう回収してますが」


「それはありがとうございます。

でもどんな所で寝ていたのか見ておきたくて」


「鍵は予備のがありますからお渡しします。

どうぞお気が済むまで見て行ってください」


幸い自分が使った仮眠室は誰も使っていないようだ。


チェリーはベッドの下の床板を持ち上げてそこに隠していたものを確かめた。


まずロッキーの顔の痣の型紙と顔料。


男女両方の着替え、そしてダンジョン産のスクロールやオーブの数々だ。


深いフードで顔を隠してそこから真っすぐ行ったのは裏通りの怪しげな場所。


「誰だね、何の用でここに来たんだね?」


「俺だ」


フードを少しあげて眼帯と顔の痣を見せると相手の顔はほころんだ。


「なんでえ、ロッキーかい?

何か持って来たのかい?」


言われてカウンターの上にバラバラとスクロールやオーブをぶちまけた。


「おっ、こりゃ、すごいじゃねえか。

全部未使用だ。

剣豪、槍聖、剛力、俊敏、格闘術、魔法もある。

水魔法、火魔法……おい。魔法は使えないのは知ってるが、それ以外のをなぜ手放すんだ?」


「こういうのは武芸百般の中に全て入っているんだよ。

それにこういうもので得たスキルはアクティブスキルが殆どで、単発で使う分には良いが他のスキルと併用するときに切りかえるときに僅かなタイムラグが起きるんだ。

自分で訓練して体に沁み込んだ技術には敵わないんだ」


「でも随分溜め込んだな。

おいおい、こんなの全部買い取るにも資金がないよ。

せめて三分の一くらいにしてくれ」


「いや……金はいらないよ。ブツで欲しい」


「ブツってこれと同じ価値のあるものって、お前うちの店ごと持って行く気か?」


「何言ってんだ。

値段だけ高くて絶対売れないものがあるだろう?

あれを出せよ。

俺に寄こせば処分できるだろう」


「ま……まさかお前、あれのことか?やめておけ。

死ぬ気か?

今まであれに挑戦した奴はみんな死んでるんだ。」



「みんなじゃないだろう?」


「ああ、あの本の著者だよな。

だけど成功したけど今は死んでいないからな。

俺はお前を好きじゃないけど、別に死んでもらいたいとは思ってないんだ。

だからやめろ」


「分かってる。

30日間一日でも気を緩めて訓練を怠れば体が動けなくなって呼吸困難になり窒息するって言うんだろう。

そんなことは百も承知だ。

だから例の本と一緒にそれを寄こせ。」


「俺は構わないぜ。

疫病神のオーブという負の財産を処分できるんだからな。

後は死ぬのは勝手だが、俺から買ったっていうんじゃねえぞ」


「分かってる。じゃあな」


チェリーがオーブの入った箱と一冊の本を受け取ると店を出ようとした。


その背中に店主は声をかける。


「待て」


チェリーがゆっくり振り返る。


「お前何かあったのか?

死にたいようなことが」


「かもな」


チェリーはそのまま出て行く。


ギルドの仮眠室で女の姿に戻るとメアリーに鍵を返してギルドを出る。


教会に戻ると例の小部屋に戻り本を取り出す。


その本の表題は、『亜空間鎧装(あくうかんがいそう)のスキルの正しい身につけ方 ミッチェル・エンドレス著』とあった。

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