なにがあったのか?
剣を抜こうとしたのはジャックだった。
彼は特に剣の才能があってあのとき止めなかったら最低一人か二人は殺していただろう。
だがその後私が必死に説得した甲斐あって、彼等は迷惑をかけたマックスたちに正式に謝罪した。
それで解決したと思ってた。
さらに普通初心者随行指導は三階層~五階層までが定番なのだが、ジャックたちの熱心な要請で十階層まで教えてほしいということになった。
当然ギルドはその分の謝礼は払わないが、ジャックたちが代わりに払うと言ったが、その申し出は断って、自分も討伐に参加して謝礼を均等に人数分けするということで手を打った。
彼らはもう非常に熱心に私から吸収しようとして素直だった。
しかも自分たちのクランの名前を私に名付け親になって欲しいと頼まれ『不折の剣』という名前を贈った。
それからマックスたちのパーティ『ダンジョンの靴音』に対して上位パーティと崇めて、上納金を出すようになった。
それはやり過ぎだと止めたのだが、失礼に対するお詫びの為で向こうも遠慮してるのでほんの1年間だけということを聞いてそれ以上止めなかった。
それがジャックたちなりのけじめのつけ方なのかと納得した次第だ。
色々なことはあったが結局今まで担当した生徒の中で彼らが一番私のことを理解して私から多くを学んで行ったと今にして思う。
あれからまた一年経って全員私より逞しくなった『不折の剣』のメンバーと共に私は十階層のボス部屋の前で彼らに向き直った。
「ここまでだ。
俺からお前たちに教えられることはもうない。
このドアの向こうには階層主のミノタウルスがいる。
知っての通り俺には超えることのできない壁だ。
それができるのはきっとお前たちだ。
十分に準備し、力を溜めてから挑戦してくれ。
健闘を祈る」
そう言って踵を返して立ち去ろうとする私をジャックの大きな手が止めた。
そしていつの間にか剣を取り上げられ、彼等によって両腕を押さえられた。
彼は今までの従順な表情から一変してへらへらと笑い出した。
「ロッキーの兄貴よう。
これであんたから学ぶことはなくなったなあ。
だから言わせてもらうぜ。
よくもまあ、今まで好き勝手に俺たちにああでもないこうでもないと口を出してくれたもんだなあ。
実はあんたの『為になる話』にはいい加減反吐が出る気分だったんだよ。
特に『ダンジョンの靴音』の連中の靴を舐めるような屈辱を味わわせられたのはあんたのせいだ。」
「えっ?何を言ってるんだ、ジャック。お前達もそ……そうなのか?」
私は7人のメンバーの顔を見回した。
だが全員同じ顔をしていた。
ジャックと同じく私に対する反抗的な軽蔑するような顔を。
「あんたはボス部屋に挑戦して真っ先に突っ込んで行って死んだってことにするよ」
なに?私を殺す積りでいるのか?
何故だ?
「あんたがいなくなれば俺たちの後から育つ後輩がいなくなる。
目障りな先輩の『ダンジョンの靴音』も油断させておいてダンジョンで殺せる。
そしてこのギルドでは俺たちの天下になるって訳よ。」
駄目だ。
思考が追い付かない。
何言ってるんだ、こいつらは?
どうしたらそういう考え方ができるんだ。
そしていきなり重い蹴りが来た。
後ろに飛んで行きそうなのを、両脇で押さえられているから、衝撃がそのまま伝わり胃の中の物が全部吐き出された。
「汚ねえなあ。おい、てめえら今までの憂さばらしに一発ずつでもかましてやれ」
それからよくわからない。
肋骨や手足の骨が折れたかもしれない。
「ボス部屋のドアを開けろ」
「そうだ。放り込んでやれ」
「閉めろ」
私は満身創痍の状態で十階層のボス部屋に放り込まれたらしい。




